【試乗記】レクサスIS300h“バージョンL”/IS300h“Fスポーツ”/IS300“Fスポーツ”

  • レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)/IS300h“Fスポーツ”(FR/CVT)/IS300“Fスポーツ”(FR/8AT)

    レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)/IS300h“Fスポーツ”(FR/CVT)/IS300“Fスポーツ”(FR/8AT)

復権への切り札

セダン冬の時代と言われて久しいが、「レクサスIS」の最新型は、この情勢を一変させられるか? フルモデルチェンジ並みの改良策が施された、プレミアムスポーツセダンの走りをリポートする。

第一印象から「いいクルマ」

「レクサスIS300h“バージョンL”」のステアリングホイールを握って走り始める。「うーむ」。タイヤのひと転がり目から運転者をうならせるものがある。静かでスムーズ、それでいて力強い。三河の自動車メーカーは、第一印象で「いいクルマだなァ」と乗り手を納得させるのが実に巧みだ。

いまさら言うまでもないが、ISは、レクサスブランドの入り口となるスポーツセダン。いまやすっかりSUV系モデルに母屋を取られたカタチの同ブランドだけれど、「ここらで巻き返しを」と、あらためてフラッグシップたる「LS」ともども、ISのテコ入れを図っている。

2020年11月5日、「新型か!?」と見る人を惑わせる、ビッグなマイナーチェンジを受けたISが発売された。もちろんスキンチェンジにとどまらず、2リッター直列4気筒ターボ(最高出力245PS、最大トルク350N・m)を積む「IS300」、2.5リッター直4(同178PS、同221N・m)に電気モーター(同143PS、同300N・m)を組み合わせたハイブリッドモデルの「IS300h」、3.5リッターV6(同318PS、同380N・m)を搭載する「IS350」のそれぞれに、細かく手が入れられた。

最初に試乗したIS300h“バージョンL”は、中堅グレードの、ややラグジュアリー寄りのモデル。IS300とIS300hには、ベースとなる“無印”に加え、“バージョン L”と、スポーティーに振った“Fスポーツ”が用意される。IS350は、今回から“Fスポーツ”のみとなった。

IS300h“バージョンL”でスタッフとの集合場所に向かいながらも、最初に抱いた好感は変わらない。モーターアシストを強化したパワープラントからの余裕あるアウトプット。足腰のしっかりした乗り心地のよさ。ISシリーズの伝統ともいえる、やや天地が薄い、底辺が短い台形のリアガラスを通して後方を確認しながら、「立派なクルマになりましたねぇ」と独りつぶやく。思い出すのはISが日本でデビューした、2005年のプレス試乗会である。

立派になったISの前途は……

レクサスブランドの国内展開に伴い、それまでの「トヨタ・アルテッツァ」の名は捨てられ、当時の新型からは北米同様、レクサスISと呼ばれることになった。

BMWを仮想敵とした“「3シリーズ」イーター”の役割を果たすには、「見た目がアッサリし過ぎかも」と感じた2代目(国内では初代)だったが、ストレート6からV6に変わったエンジンはそれでもシルキーで、夏の日差しが残る9月の山道を快音を発しながら爽快に駆け抜けた。「ドイツ騎士団に挑む若武者のよう」といささか大仰な感想を抱きながら、2.5リッターと3.5リッターのうち、ボア、ストロークとも小さい2.5リッターのほうが「軽快でいい」とメモした記憶がある。

あれから15年。押し出しと個性を求めてアグリーのふちに立つスピンドルグリルを得た3代目は、スポーツセダンとして順調に成長し、ある種の貫禄さえ漂わせる。ボディーサイズは、全長×全幅×全高=4710×1840×1440mmと、ライバルにピタリとつける。価格も大きく育って、IS300が480万円からで、300hが526万円から。350は650万円である。

驚くのは国内での販売台数で、2020年10月の登録台数は、わずか32台。仕様変更直前だから少ないのは当然だが、前年同月比26.9%なので、昨年度も120台弱と褒められた数字ではない。コロナ禍のなか、「RX」が1032台、「NX」が997台、そして「UX」が807台も売れているのと比較すると、セダン市場の冷え込みぶりが実感される。兄貴分の「GS」が生産中止となったいま、レクサスのインテリジェント・スポーツセダンは、背水の陣といえるマイナーチェンジで市場に挑む。

わかりやすいスポーツセダン

撮影中のIS300h“Fスポーツ”を客観的に観察すると、薄型ヘッドランプを得たフロントがシャープですてき。後輪周辺のブリスターも“やりすぎ感”がほほ笑ましい。そして新型ボディーのハイライトといえるのが分厚いトランク部。リアコンビネーションランプの上に視覚的に載っかるパートが、重量感あってアグレッシブだ。初見ではギョッとして好みが分かれそうなリアビューだが、ワールドワイドに競うとなると、これくらいのアクの強さが必要なのだろう。

凝った造形を実現するため、リアフェンダー用にはパネルを内側から突き上げて成形する「突き上げ工法」、ラゲッジには上下からのプレスに加えて金型が横方向にも動く「寄絞り工法」を採用。デザイナーが求める抑揚豊かな姿をみごとに実現した。SUVに流れた顧客を「再びセダンに振り向かせたい」。そんな開発陣の意気込みが感じられるニューISのスタイリングである。

300h“バージョンL”から300h“Fスポーツ”に乗り換えると、シートは“Fスポーツ”専用の革素材を用いたスポーツタイプになり、計器類は二眼のオプティトロンメーターから、自在に表示を変えられる単眼液晶タイプに変わる。両者の個性のすみ分けが上手にできているのは走らせても同じで、再びタイヤのひと転がり目から「オッ!?」と思わせる。いかにもスポーティー。

前後とも235/40R19だったタイヤサイズが、“Fスポーツ”では後輪が265/35R19になり、路面への当たりが強くなる。ステアリングのパワーアシストも抑え気味で、手応えが増す。なんだか心が引き締まる。

専用のサスペンションチューンが施された“Fスポーツ”。マイナーチェンジの目玉はダンパーの減衰力を電子制御するNAVI・AI-AVSが標準装備されたこと。開発者によると、「コーナリング時には車体外側を自然に沈ませ、一方、内側の伸びを抑制」したそう。ロール感を得つつ、トラクションをグイグイ路面に伝えようという寸法だ。

……といったハナシもエキサイティングだが、減衰力を可変化できる恩恵は、スポーツ性能を上げるために、通常ドライブ時の乗り心地を犠牲にしないで済むことだ。安楽志向の運転者(←ワタシのことです)の場合、「リアも235/40のままでいいんじゃないか」などとひよったりしますが、“Fスポーツ”を求める人は、むしろ太めのリアタイヤを感じたい。新しいダンパーを得たニューFは、不快さを排除しつつ、わかりやすくスポーツを表現している。ことさらサーキットや峠道に通わなくとも、スポーツセダンを実感できる。販売されるISの半分近くを“Fスポーツ”が占める理由であろう。

乗っておくべきはIS300

撮影の合間に、ごく短時間ながら2リッターターボの「IS300“Fスポーツ”」に乗ることができた。これがヨカッタ! IS300hと比べると、排気量が小さく、アシスト用の電気モーターも備わらないので、絶対的な加速はハイブリッドモデルに及ばない。しかしそれがかえって奏功して、意識的にエンジンを回してスポーツセダンを走らせることになる。全面的に内燃機関に頼るがゆえの、ストレートな反応が気分を盛り上げる。

車重はハイブリッドモデルより40kg軽い程度で、前後重量比はむしろフロントヘビーになっているが、それでも相対的な軽快感が強い。夕暮れの富士山に向かって坂を駆け上がりながら、「若武者の心意気はココに残っていましたか」と、いささか見当外れな感慨に浸る。「電動アシストが伴わないクルマは禁止されるかも!?」とささやかれる昨今、ピュアガソリン車の色が濃いIS300に、いまのうちに乗っておいて損はない。ちなみにISの販売比率では、6割強がハイブリッド、3割が300だという。意外と善戦している。

自動車、ことにプレミアムを志向するブランドのクルマは、一種のライフスタイル商品だ。だから、いまどきの圧倒的なSUV人気にあらがうのは難しい。「せっかくISは一皮むけたのになぁ」と惜しい気持ちになっていたら、レクサススタッフの人が喜色を顔に教えてくれた。

マイナーチェンジを受けたISは、3000台の年間目標台数に対して、約4000台の受注を得ているという。祝着に存じます。この手の数字はご祝儀的に盛られることが多いけれど、少なくとも新しいスポーツセダンの方向性は、間違っていなかったわけだ。

(文=青木禎之/写真=山本佳吾/編集=関 顕也)

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