【試乗記】レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)
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レクサスIS300h“バージョンL”(FR/CVT)
会心のマイナーチェンジ
あえて「TNGA」を使わずに
実はISは、2016年にもマイナーチェンジを行っている。すなわちこの最新バージョンは、2度目のマイナーチェンジを受けたモデルだ。前述のように現行型のライフは、間もなく8年。「えっ? この期に及んでフルモデルチェンジではなかったの?」という疑問も、当然過ぎるほどに当然であろう。
もっともクラスやマーケットを問うことなく、「SUVが全盛」という今の時代。そんなご時勢ゆえに、むしろISに対しては「ディスコンされなかっただけ幸い」という見方さえあるかもしれない。実際レクサスでもブランド立ち上げの早い段階から用意され、日本ではかつて「トヨタ・アリスト」を名乗っていたことでもなじみのある4ドアセダン「GS」が、昨2020年にカタログ上から姿を消してしまったという例もある。
そうした中で、再度大がかりなリファインが行われたこのモデル。マイナーチェンジという言葉では収まり切れないほど手が加えられて登場したことが、まずはトピックなのである。
「取りあえずの延命だから、フルモデルチェンジではないんでしょ?」と、誕生から8年近く経てのマイナーチェンジに対しては、どうしてもそんなうがった見方をしたくもなってしまうが、どうやらそれは正しい理解ではない。なんとなれば、「あえて『TNGA』を使いたくなかった」というのが、ISがフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジを選択した理由のひとつだからだ。
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「レクサスIS」の2度目のマイナーチェンジモデルは2020年6月16日に概要が発表され、同年11月5日に販売がスタートした。今回の試乗車は、ハイブリッドモデルの「IS300h“バージョンL”」で、車両本体価格は600万円という設定。
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フロントまわりでは、面積が拡大されたグリルや新しいヘッドランプデザインが目を引く。グリルを強調する立体感のあるバンパーの造形も最新型の特徴といえる。
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厚みのある弧を描いたトランクリッド形状や、左右がつなげられたL字シェイプのリアコンビネーションランプデザインは、ひと目で新しい「IS」だと識別できるポイントだ。
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「Agile(俊敏)& Provocative(挑発的)」をコンセプトにデザインされたという最新型「IS」のエクステリア。今回の試乗車は「ソニックイリジウム」と名づけられたボディーカラーをまとっていた。
マイナーチェンジの域を超えている
通常のモデルチェンジであれば、最新の知見と技術を込めて開発された新しい骨格は、むしろ「是が非でも使いたい」と要求を出すのが普通の開発陣であるはず。が、ISではあえて「それを使いたくない」ということになったというのだから穏やかではない。
実は、「コンパクトなFRセダンを究めたい」と開発陣がこだわったISの場合、そもそも「レクサスLS」や「LC」、そして「クラウン」などへの搭載を意識して開発された前出GA-Lを用いたモデルチェンジでは、大きく、重くなり過ぎる懸念があったのだという。しかしながら、あらためてコンパクトなFR車用の骨格を開発したとしても、もはやそれを活用できる新たなモデルが多くは見込めないのは、残念ながら今の時代の自明でもある。
結果、ISのモデルチェンジに際しては、骨格はキャリーオーバーとするマイナーチェンジを選択するのがベストと判断されたのだという。マイナーチェンジだからといって“延命”だと短絡的に考えるのは、とんだ失礼であったことになる。
一方で、そんな経緯を経てのリファインゆえ、内外装の一部にチョコチョコと手を加え、見た目の新鮮さを醸し出そうという程度の“ありがちなマイナーチェンジ”にとどまらなかったことは、実際にその内容を知り実車を見るほどに明らかになっていく。
既存のホイールとの互換性がなくなり、組み付け行程でも作業性が低下するのを承知のうえで、締結剛性が向上し軽量化も図れるボルト締め方式のハブを採用したというのは、通常のマイナーチェンジではあり得ない開発陣の意気込みを象徴するポイント。特許出願中の世界初という特殊なプレス工法を新たに採用することで、トランクリッド上にかつてなくシャープなプレスラインを構築することができたという話題も同様である。
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「IS300h“バージョンL”」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4710×1840×1440mm、ホイールベースは2800mm。車重は1700kgと発表されている。
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「IS300h」に搭載される2.5リッター直4+ハイブリッドのパワートレインは、システム総合出力220PSを発生。パフォーマンスや燃費値は従来型と同じ数値だが、制御の見直しによってドライバビリティーを向上させているという。
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先行車や対向車を検知し、自動でハイビームを制御する「オートマチックハイビーム」やカメラで主要な道路標識を読み取り、メーター内に表示する「ロードサインアシスト」など、先進運転支援システムを標準装備。ACCは全車速追従機能付きに進化している。
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ホイールの締結力強化と質量の低減を目的に、ボルト締め方式のハブを新たに採用。通常のマイナーチェンジでは行われないであろうこうした改良に、開発陣の気概が感じられる。
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トランクリッドを横から見た様子。エッジの立ったシャープなプレスラインは、トヨタが開発した特許出願中の「寄絞り(よせしぼり)工法」によって実現したものだという。
インテリアはちょっと惜しい
開発陣からは「従来型比でわずかにでも大きくはしたくなかった」という声が届く一方で、実は新型のサイズは全長、全幅共に30mmずつのプラス。前者は、前端部分を下げるなどより大胆になったフロントまわりのデザインに使われる一方で、後者はより大きなシューズを履きトレッドを拡幅するなど、走りのポテンシャルで実利を得るために用いられている。
ちなみに前述の、ボルトで直接ハブ側に車輪を固定する方法は、このISを皮切りに他のレクサス車にも展開していく予定とのこと。やはり“並のマイナーチェンジ”ではないのである。
といいつつキャビンへと乗り込んでみると、そこではまず意匠の変更が目につくことになる。「あれ? ここは確か“丸”だったよね」と気づくのが、ダッシュボード両端の空調レジスターの形状。従来型ではこれが横長型で、アナログ時計を挟んだ中央部分のそれと調和がとれて特有のワイド感を演出していただけに、個人的に「ちょっと惜しいな」と思えたのは事実ではある。
一方、インテリアで見た目の新しさを覚えたのは、センターディスプレイが大型化された……のではなく、実はこれ、タッチ式ディスプレイに変更すると同時に、操作しやすいように従来型よりも手前に配置されたことでそう思わされたのだと気づく。ちなみにレクサスのマルチメディアコントローラー「リモートタッチ」は、一時期用いられていた「ジョイスティック方式」が一番使いやすかった。新しいISはタッチパッド方式を採用するが、端的に言ってその使い勝手は「いまひとつ」である。
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今回のマイナーチェンジにあたり、2019年4月に新設された「トヨタテクニカルセンター下山」をはじめ、世界中で徹底した走り込みを実施。数値では測れない人の感性価値にこだわり「IS」の開発を行ったという。
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ダッシュボードを中心に、内装デザインをブラッシュアップ。センターコンソールのディスプレイは従来型と同じ10.3インチサイズだが、タッチパネルの採用にあわせて、より手前に設置された。
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シフトレバー後方にタッチパッド式の「リモートタッチ」と呼ばれるインフォテインメントシステムのコントローラーを配置。
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9インチサイズのゴルフバッグを2個収納することができるという「IS300h」のトランクスペース。
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後席背もたれをすべて前方に倒した様子。収納スペースは拡大できるが、荷室床面と後席との間に段差が生じる。
先入観は捨てるべし
しかし、実はそれらも決して手つかずというわけではなく、新たなチューニングが施されているという。ハイブリッドシステム搭載のテスト車の場合も、アクセル操作に対する電動化モデルならではのレスポンスに富んだ加速や、エンジン稼働時のノイズの抑え込みなどに、明らかな進歩を実感。「あれ、ISのハイブリッドって、こんなに加速感が良かったっけ?」と、走り始めた瞬間に、そんな印象を味わわせてくれた。
同様に、大いに好感を抱いたのがバネ下の動きが軽やかで、スッキリした乗り味を提供してくれるフットワーク。テスト車はナビゲーションシステムのコーナー情報なども活用し、減衰力の調整を行う電子制御式の可変減衰力ダンパー「NAVI・AI-AVS」をオプション装着しており、それも有利に働いた可能性はありそうだが、前述のようにボディーサイズはわずかに大きくなっているものの、「より引き締まって、むしろコンパクトになったのでは」と率直に思える軽快感に富んだハンドリングの持ち主であった。
路面の変化に対していい意味で鷹揚(おうよう)だったのも、このモデルならではの美点。むろん、ザラ目路面においてはそれなりにロードノイズが高まったりはするものの、良路から荒れた路面へと差しかかると、まるで別モノのように揺すられ感が急増してしまう3シリーズ セダンの「手のひら返し」のような印象などは皆無だった。
「なんだマイナーチェンジなのか……」と、そんな先入観もあったゆえか最新型の走りに関する質感や実力は、ひとことで言って「予想も期待も大きく超えていた」のだった。もちろん、ADAS機能のアップデートや、(遅きに失した感はあるものの)ようやくパーキングブレーキの電動化が実現したことによるACCの全車速対応などのニュースも見逃せないポイント。
下手をすれば「フルチェンジでもここまでのレベルに到達できるかは疑わしい」と、そうも思えてしまう会心のマイナーチェンジを成し遂げた新しいISなのである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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“バージョンL”グレードには「アッシュ(墨ブラック)」と呼ばれる特徴的なパネルやトリム、ステアリングリムなどが採用されるほか、本革シフトノブが標準装備となる。
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試乗車には「“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム」が搭載されていた。7.1chに対応した17のスピーカーとClass-Dのデジタルアンプで構成される、26万5100円のオプションアイテム。
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運転席のポジションメモリーと前席ヒーター&ベンチレーション機能付きセミアニリン本革シートが、「“バージョンL”」グレードに標準装備される。内装色は「オーカー」と呼ばれるカラーで、これを含め3種類から選択できる。
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前席と同じく後席もセミアニリン仕上げの本革シートとなる「“バージョンL”」グレード。スイッチで任意に操作できるほか、シフトレバーを「R」に入れると自動で畳まれる電動リアウィンドウサンシェードも標準装備される。
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今回は「IS300h」を郊外に連れ出し、高速道路とワインディングロードをメインに約330kmを走行。燃費は満タン法で13.6km/リッターを記録した。
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