【試乗記】トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ(FF/CVT)

  • トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ(FF/CVT)

    トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ(FF/CVT)

もっと走っていたくなる

トヨタが誇るモータースポーツ直系のブランド「GR」を冠した、「ヤリス クロスGRスポーツ」が登場。レーシングフィールドで培ったノウハウを用いてチューニングしたというシャシーやパワートレインの出来栄えを、ロングドライブで味わった。

ハイライトはシャシーチューン

トヨタのスポーツブランド「GR」を冠する市販車には現在、大きく3つのシリーズがある。頂点に立つのが限定車の「GRMN」で、直近の例としては、2022年の年初に500台限定で売り出された「GRMNヤリス」がある。その下に位置づけられる「GR」は非限定ではあるものの、パワートレインから車体構造にいたるまで専用仕立てになっているか、あるいはもとから純粋なスポーツカーだ。具体的には「GRヤリス」に「GRカローラ」、そして「GR86」と「GRスープラ」である。

さらにその下の存在として、通常車種の通常カタログに掲載されるのが「GRスポーツ」だ。それはもっともライトな内容のGRでもあり、車体やパワートレインの基本設計にまでは手をつけられない。ただ、クルマによって、タイヤが専用だったり、スタビライザー構造までちがったり、あるいはシートフレームやステアリングホイールまで専用だったり……と、一般的なスポーツグレードとは一線を画す内容をもつ。

ヤリス クロスのGRスポーツは、この2022年夏にヤリス クロスそのものの一部改良と同時に追加されたものだ。現在手に入るGRスポーツとしては「プリウスPHV」「コペン」「C-HR」「ランドクルーザー」、そして「ハイラックス」に続く6例目となるが、その内容はこれらのなかでも凝った部類に入る。

ヤリス クロスGRスポーツはタイヤから専用品だ。サイズこそ通常の「Z」グレードと同じ18インチなのだが、ファルケン(=住友ゴム)の高級スポーツタイヤ「アゼニスFK510」に履き替えられている。しかも、それに合わせてフロアトンネルとリアエンドの床下に専用の車体強化部材を追加するとともに、サスペンションチューンもコイルスプリング、ブッシュ、ショックアブソーバー、パワーステアリング制御、そして車高(今回は10mmローダウン)にいたるまで全面的に見直されている。

軽さがものをいう

内外装はほかのGRスポーツほど派手ではない。フロントグリルも細メッシュ化はされているものの、一部のようにグリル形状そのものを四角い「ファンクショナル マトリックスグリル」に変えるまでには踏み込んでいない。内装もシートがスポーツタイプとなり、加飾がダーク化されているが、逆にいうとそれくらいだ。ステアリングホイールも表皮は専用だが、形状は標準と同じである。

ヤリス クロスではハイブリッド車と純エンジン車の両方にGRスポーツが用意されるが、今回の試乗車はハイブリッドだった。

それにしても、トヨタの最新コンパクトカー=GA-Bプラットフォームの1.5リッターハイブリッド車は、ハッチバック版の「ヤリス」や「アクア」、そしてミニバンの「シエンタ」ともども、キビキビと元気な走りが身上とあらためて思う。そこにはパワートレイン本体のパワーとレスポンスに加えて、ヤリス クロスの場合だと、同クラス競合車と比較して100〜200kgも軽い(!)車重がきいているのは間違いない。また、エンジンが独特のビートを刻む3気筒であることもあり、けっこううるさいことも活発な印象を助長している。

そうであっても、アクセルペダルに乗せた右足のわずかな動きに対する反応は、記憶にあるヤリス クロスよりさらに俊敏かつ絶妙になっている気がしてならない……と思ったら、今回はパワートレイン(ハイブリッドのみ)にも手が入っているという。

具体的にはエンジンや電動部分の絶対的な出力やトルクはそのままに、加減速ともに過渡域のレスポンスが引き上げられている。そして、さらに注目すべきは、ドライブシャフトがねじり剛性の高い強化型になっていることだ。これまでの個人的な経験的印象でも、ドライブシャフト強化は乗り味に確実に影響する。

手だれによる調律

ヤリス クロスGRスポーツのフットワークは、乗り出した瞬間から「あ、しなやか」と直感させる仕上がりだ。土台となる車体がしっかりとしていて、細かい凹凸にもアシがいかにも滑らかに動いているのが、ステアリングホイールやシートからリアルに伝わってくる。

従来のヤリス クロスは、ちょっと硬めの乗り心地が良くも悪くも元気な乗り味の一部となっているきらいがあった。しかし、このGRスポーツは安定したフラット姿勢はそのままに、コツコツとした無粋な突き上げだけが、やわらげられている。とはいえ、ダンパーなどは特別な高級品になっているわけではなさそうなので、おそらく車体強化とアゼニスタイヤによるところが大きいのだろう。

これまでのGRスポーツはパワートレインには手をつけないのがお約束だったから、わずかな加減速操作でもスムーズに荷重移動して、姿勢変化もステアリング操作も思ったところでピタリと止めやすいのは、もっぱらシャシーチューン効果と早合点していた。しかし、この右足の動きにピタリとシンクロする走りは、リニアに反応するパワートレインも含めたトータルチューンのたまものと見ていい。

GRスポーツはあくまで公道で心地よく走るのが最大のねらいで、バネ類やショックもただ硬くするわけではないのもお約束だ。バネレートや減衰設定などは今回確認できなかったが、高速道の目地段差を日本車らしく柔らかに吸収してくれることからも、単純に締め上げただけではないことは想像できる。いずれにしても、高速では上下動も最小限でフラットに安定しつつ、しかし入力すれば速やかに荷重移動する所作は、いかにも手だれのプロフェッショナルによる繊細な調律と感心するほかない。

見逃せないプライス

ヤリス クロスGRスポーツの走りが、けっしてガチガチではないのに俊敏で、10mmローダウンされているとはいえ姿勢変化がSUVらしからぬ小ささでステアリングに反応するのは、チューニングのうまさに加えて“低重心・低慣性マス”というGA-Bプラットフォーム元来の設計思想も奏功しているにちがいない……というのが今回も深く実感したところだ。とくに旋回途中からさらにステアリングを切り増したときに、喜々として曲がりこむ素直な追従性は、オーバーハングが軽いクルマの典型である。

なんだかホメてばかりになってしまったが、いやホント、ヤリス クロスGRスポーツのハンドリングや乗り心地、そしてなによりピタリと決まる荷重移動と濃厚な接地感は、クルマオタクの琴線にもズバッと刺さる味わいである。

これで本体価格は275万円。そこに先進運転支援をフルトッピングして、自慢のルームミラー内蔵ドラレコを追加しても300万円を切る。ヤリス クロスとしては最高価格グレードだが、その次に高価な「ハイブリッドZ“アドベンチャー”」との価格差が4万5000円となれば、クルマオタク物件としては“安い”としかいいようがない。

その理由は、GRスポーツが豪華版のZではなく、より安価な中間グレードの「G」をベースとしているからでもある。そのためGRスポーツは、たとえばメーターパネルが双眼鏡のような2眼デジタル式となり、ヘッドアップディスプレイの用意がなく、シート調整が手動式となり、シートヒーターとステアリングヒーターもオプションである。

ただ、逆にいうと、最上級グレードとの明確な快適装備差はそれくらい。それを考えても、クルマオタクのみならず、運転好きなら、ヤリス クロスはGRスポーツ一択……と申し上げておきたい。

(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

テスト車のデータ

トヨタ・ヤリス クロスGRスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4185×1765×1580mm
ホイールベース:2560mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:91PS(67kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)/3800-4800rpm
モーター最高出力:80PS(59kW)
モーター最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)
タイヤ:(前)215/50R18 92V/(後)215/50R18 92V(ファルケン・アゼニスFK510 SUV)
燃費:25.0km/リッター(WLTCモード)
価格:275万円/テスト車=317万0200円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカ×センシュアルレッドマイカ>(7万7000円)/ステアリングヒーター+シートヒーター+ナノイーX(3万8500円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×1個、非常時給電システム付き>(4万4000円)/ハンズフリーパワーバックドア<はさみ込み防止機能・停止位置メモリー機能・予約ロック機能付き>(7万7000円)/LEDリアフォグランプ(1万1000円)/パノラミックビューモニター、ブラインドスポットモニター[BSM]、パーキングサポートブレーキ<後方接近車両>、寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+ヒーターリアダクト+PTCヒーターなど>(9万6800円)/自動防げんインナーミラー<ドライブレコーダー付き>(5万3900円)/アクセサリーコンセント<AC100V・1500W×1個、非常給電システム付き>(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<GRフロアマット>(2万2000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1025km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:465.6km
使用燃料:25.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:18.2km/リッター(満タン法)/19.0km/リッター(車載燃費計計測値)

[提供元:(株)webCG]Powered by webCG

試乗記トップ