【試乗記】トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド(FF/CVT)

  • トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド(FF/CVT)

    トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド(FF/CVT)

これ以上の速さはいらない

過去のモデルとは一線を画すスポーティーなキャラクターと、電気のみで87kmの走行が可能という環境性能を併せ持つ「トヨタプリウス」のプラグインハイブリッド車(PHEV)。0-100km/hが6.7秒の俊足電動マシンを前に、過去のプリウスを知るリポーターは何を思うのか?

つくり続けて12年

デザインと走りを押し出すことで、惰性的なコモディティー化ではなく意思をもって選ばれる愛車への道を進んだ60系こと新型プリウス。ハイブリッドカー(HEV)のパイオニアは今のところ国内の月販台数では10位前後、同門のコンパクトHEV「アクア」に追随するくらいのところにいる。部品供給に伴う生産制約があるなかでの数字だが、やはり30系のような圧倒的人気を得るには至らなさそうだ。あるいは、アクアに近いくらいならまずまず健闘なんじゃないのとみる向きもあるかもしれない。

そんなプリウスにパワートレインのバリエーションとして設定されているのが、PHEVだ。今でこそ欧米ではCAFEの関門を乗り切る直近の切り札に位置づけられるが、プリウスがPHEVを世に問うたのは30系世代の2012年、今から11年以上前のことになる。電気のみで走るBEV走行可能距離は当時26.4kmだったが、50系では68.2kmと2倍以上に延びた(ともにJC08モード)。

そして“PHEVのプリウス”としては3代目となる60系では、標準装備の19インチに対して11万2200円安くなる17インチのタイヤ&ホイールを選択すれば、WLTCモード計測値で最長105kmのBEV走行を実現するという(19インチは87km)。ちなみに搭載するバッテリーの容量は13.6kWh。搭載位置は先代の荷室下部から後席下部へと移ったが、体積はほぼそのままにセル容量を倍加することでその使用数を削減している。

加速力はひところの「ゴルフGTI」並み

チャージは現状では普通充電のみ。前型は急速充電にも対応していたが、現状のバッテリー容量や充電スピード&コストなどを勘案すれば、経路充電に頼らずとも自宅と目的地での充電だけで十分に利便性が担保できること。加えて電気自動車(BEV)への配慮もあって、この仕様に決定したと担当エンジニアは説明してくれた。普通充電の所要時間は200V/16Aの出力で0→100%が約4.5時間となる。

加えて、前型でもオプション設定されていたルーフパネルの太陽光発電システムは、新型でも継承。パネル面積は小さいものの効率は同等で、トヨタの試算では理想的環境ならBEV走行距離にして年間1200km程度の電力を賄える。またHEVのプリウスと同様、1500WのACアウトレットは標準装備。バッテリーが満充電かつガソリンも満タンのフルフル状態からは、これまたトヨタの試算では一般家庭の約5日間相当の使用電力を供給可能だという。

……と、こういう可視化された環境性能はともあれ、走ったところでなんにもうれしくないという定評がプリウスにとっては長年のコンプレックスだったわけで、新型プリウスのPHEVは、これまでのモデルとは一線を画するわかりやすい付加価値、すなわち動力性能が強化されている。ハイブリッドシステムはHEVと同じ2リッター直4ガソリンエンジンをベースとしながら、モーターの出力は40%近く増強されており、システムの総合出力は前型より27PS高い223PSを発生。0-100km/h加速はHEVの7.5秒に対して6.7秒となる。数値的にはひと昔前の「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」くらいの感じだろうか。

PHEVのラインナップは最上位となる「Z」グレードのみ。駆動方式もFFのみとなる。同等の仕様となるHEVとの価格差は90万円。補助金等でその差は縮まるだろうが、さすがに安くはない。そのぶん見た目やしつらえでの差異を……と思いきや、そこはトヨタらしからぬ控えめさだ。外観の識別点はフロントアンダーグリルやテールランプのフィニッシュ、ホイールデザインとエンブレムくらい。内装は一目でわかるような差異はない。色味なり素材なりで、もう少し差別化してもいいんじゃないかとも思う。

HEVとは別物の走りと乗り心地

HEVにも用いられる2リッターユニットは、バランサーを追加するなど稼働時の騒音・振動に根本から対策を加えているが、そこはPHEV。エンジンの助けを借りずとも発進から悠々とモーターのみで走り、キビキビと加速してくれる。先代50系のPHEVと乗り比べることもできたが、さすがに6年ぶんの進化は走りだしから明らかだ。新型であれば高速道路での合流や巡航も過不足なくBEV走行で担えるだろう。

加えて進化ぶりを実感するのは、乗り心地のよさだ。そもそも完全刷新に伴う剛性・精度の向上に加えて、バッテリー搭載位置の変更による低重心化、重量配分の最適化等も相まってだろう。ピッチやバウンドにまつわる無駄な動きが少なく、すっきりとしたライドフィールとなっている。その上質さは60系のHEVモデルに対しても一枚上手で、BEV走行時の静粛性も加われば、ひとクラスは上のサルーンにでも乗っているかのような快適さだ。

そして歴然と異なるのが動力性能だ。数値化されているのはCセグメントホットハッチ級の0-100km/h加速だが、その質感は回転上昇とともに加速度を高めていく内燃機関のそれとは異なり、初手からの分厚いトルクでグイグイと車体を前に押し込んでいく。フィーリングとしてはやはりBEVに近く、速さは数値から想像する以上にどう猛な印象だ。この動力性能だと、オプションの17インチタイヤではちょっと心もとなさそうな気さえする。

こういった動的質感を利とできるなら、HEVとの価格差は納得できる範疇(はんちゅう)に入ってくるだろう。同じボディーでも中身は別物……と、そのくらい両車に違いがあることは、HEVを検討される方も頭にとどめておいたほうがいいかもしれない。

こだわるところ、そこですか?

それはさておき、気になったのはHEV状態で走る際の燃費だ。大出力モーターと都合150kgの重量差が響いてだろう、WLTCモード計測値ではHEVに対して1割ほどPHEVのほうが悪いスコアになっている。もちろん短時間の試乗で断じることはできないが、燃費計をにらんでの実感値としても同様で、街なかと高速を織り交ぜて20km/リッターくらい。BEV走行を前提としなければ、燃費はさしてよくはなさそうというのが現状の印象だ。

その点をエンジニアに問うてみたら、それでもPHEVではPCUのパワー半導体にSiC=シリコンカーバイトを用いて10%近く燃費を底上げできているそうだ。HEVでも同様の効果は期待できるものの、生産量やコストの課題があり、残念ながら拡大採用には至らないという。

「THS(トヨタハイブリッドシステム)」としての燃費向上策は散々やり尽くし、もう取りしろがないという状況は外野でも察せられる。が、プリウスは環境性能でサプライズ……と、そんな期待値がことのほか高い銘柄でもある。動的質感を磨くのも大事だけれど、自らの勝ち技をなまらせては本末転倒だ。勝ち技といえば、近ごろのトヨタ車には内装の質感でうならされる機会も少なくなった。こういった課題に立ち向かう取っ掛かりとして、プリウスPHEVの今後の進化に期待したい。少なくとも、これ以上速くなる必要はないと思う。

(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

テスト車のデータ

トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151PS(111kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf・m)
システム最高出力:223PS(164kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
ハイブリッド燃料消費率:26.0km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:87km(WLTCモード)
EV走行換算距離:87km(WLTCモード)
交流電力量消費率:134Wh/km(WLTCモード)
価格:460万円/テスト車:506万9700円
オプション装備:ソーラー充電システム(28万6000円)/ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー+デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能+周辺車両接近時サポート<録画機能>+ドライブレコーダー<前後方>(8万9100円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:664km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

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