【試乗記】トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド(FF/CVT)
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トヨタ・プリウスZ プラグインハイブリッド(FF/CVT)
これ以上の速さはいらない
つくり続けて12年
そんなプリウスにパワートレインのバリエーションとして設定されているのが、PHEVだ。今でこそ欧米ではCAFEの関門を乗り切る直近の切り札に位置づけられるが、プリウスがPHEVを世に問うたのは30系世代の2012年、今から11年以上前のことになる。電気のみで走るBEV走行可能距離は当時26.4kmだったが、50系では68.2kmと2倍以上に延びた(ともにJC08モード)。
そして“PHEVのプリウス”としては3代目となる60系では、標準装備の19インチに対して11万2200円安くなる17インチのタイヤ&ホイールを選択すれば、WLTCモード計測値で最長105kmのBEV走行を実現するという(19インチは87km)。ちなみに搭載するバッテリーの容量は13.6kWh。搭載位置は先代の荷室下部から後席下部へと移ったが、体積はほぼそのままにセル容量を倍加することでその使用数を削減している。
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HEVより2カ月遅れの、2023年3月に発表・発売された「プリウス」のPHEVモデル。グレードは最上級の「Z」のみとなる。
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PHEV化に際してのスイッチ類の造設、ディスプレイの表示機能の追加を除くと、インテリアの仕様はHEVの「Z」と基本的に共通。ただし、こちらのインフォテインメントシステムには、通信ができない環境でも使用できる車載ナビを搭載した、「ディスプレイオーディオ(コネクティッドナビ対応)Plus」が標準装備される。
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PHEV専用デザインの19インチアルミホイール。タイヤサイズは195/50R19が標準で、試乗車には高い操縦安定性と低燃費性能がうたわれる、「ヨコハマ・ブルーアースGT」が装着されていた。
加速力はひところの「ゴルフGTI」並み
加えて、前型でもオプション設定されていたルーフパネルの太陽光発電システムは、新型でも継承。パネル面積は小さいものの効率は同等で、トヨタの試算では理想的環境ならBEV走行距離にして年間1200km程度の電力を賄える。またHEVのプリウスと同様、1500WのACアウトレットは標準装備。バッテリーが満充電かつガソリンも満タンのフルフル状態からは、これまたトヨタの試算では一般家庭の約5日間相当の使用電力を供給可能だという。
……と、こういう可視化された環境性能はともあれ、走ったところでなんにもうれしくないという定評がプリウスにとっては長年のコンプレックスだったわけで、新型プリウスのPHEVは、これまでのモデルとは一線を画するわかりやすい付加価値、すなわち動力性能が強化されている。ハイブリッドシステムはHEVと同じ2リッター直4ガソリンエンジンをベースとしながら、モーターの出力は40%近く増強されており、システムの総合出力は前型より27PS高い223PSを発生。0-100km/h加速はHEVの7.5秒に対して6.7秒となる。数値的にはひと昔前の「フォルクスワーゲン・ゴルフGTI」くらいの感じだろうか。
PHEVのラインナップは最上位となる「Z」グレードのみ。駆動方式もFFのみとなる。同等の仕様となるHEVとの価格差は90万円。補助金等でその差は縮まるだろうが、さすがに安くはない。そのぶん見た目やしつらえでの差異を……と思いきや、そこはトヨタらしからぬ控えめさだ。外観の識別点はフロントアンダーグリルやテールランプのフィニッシュ、ホイールデザインとエンブレムくらい。内装は一目でわかるような差異はない。色味なり素材なりで、もう少し差別化してもいいんじゃないかとも思う。
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充電口は左のリアフェンダーパネルに配置。長さ7.5mの充電ケーブルに加え、ここからバッテリーの電気を取り出す際に用いる、専用変換アダプター「ヴィークルパワーコネクター」も標準装備される。
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オプションのソーラー発電システムは、BEV走行距離にして年間でおよそ1200km分に相当する電力を生成できる。ただし、装備すると車重は20kg重くなる。
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ソーラー発電システムの稼働状態は12.3インチのセンターディスプレイで確認が可能。自宅などでの充電スケジュールの設定も、こちらのディスプレイで操作する。
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外装では先述の専用アルミホイールに加え、金属調シルバー塗装のフロントロアグリルや、グレースモークのリアコンビランプ、専用バッジなどがPHEVの特徴。また細かいところでは、ヘッドランプがアダプティブハイビームシステム(AHS)となっている。
HEVとは別物の走りと乗り心地
加えて進化ぶりを実感するのは、乗り心地のよさだ。そもそも完全刷新に伴う剛性・精度の向上に加えて、バッテリー搭載位置の変更による低重心化、重量配分の最適化等も相まってだろう。ピッチやバウンドにまつわる無駄な動きが少なく、すっきりとしたライドフィールとなっている。その上質さは60系のHEVモデルに対しても一枚上手で、BEV走行時の静粛性も加われば、ひとクラスは上のサルーンにでも乗っているかのような快適さだ。
そして歴然と異なるのが動力性能だ。数値化されているのはCセグメントホットハッチ級の0-100km/h加速だが、その質感は回転上昇とともに加速度を高めていく内燃機関のそれとは異なり、初手からの分厚いトルクでグイグイと車体を前に押し込んでいく。フィーリングとしてはやはりBEVに近く、速さは数値から想像する以上にどう猛な印象だ。この動力性能だと、オプションの17インチタイヤではちょっと心もとなさそうな気さえする。
こういった動的質感を利とできるなら、HEVとの価格差は納得できる範疇(はんちゅう)に入ってくるだろう。同じボディーでも中身は別物……と、そのくらい両車に違いがあることは、HEVを検討される方も頭にとどめておいたほうがいいかもしれない。
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シート表皮は合成皮革で、運転席にはメモリー機能付きの8way電動調整機構を装備。また運転席・助手席ともにシートヒーターとベンチレーション機能が標準で備わっている。
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バッテリーの搭載位置は、従来型の荷室床下から新型では後席座面下に変更。マスの集中とパッケージの高効率化を実現している。
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バッテリーの制御を切り替えたり、BEV走行モードを選択したりするのに用いる「EV/HVモード切替スイッチ(バッテリーチャージモード機能付き)」と「AUTO EV/HVモードスイッチ」は、センターコンソールの右側に追加されている。
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従来モデルより加速性能と快適性が大幅に向上していた新型「プリウス」のPHEVモデル。同じ60系プリウスのHEVと比べても、そのパフォーマンスには明確な違いが感じられた。
こだわるところ、そこですか?
その点をエンジニアに問うてみたら、それでもPHEVではPCUのパワー半導体にSiC=シリコンカーバイトを用いて10%近く燃費を底上げできているそうだ。HEVでも同様の効果は期待できるものの、生産量やコストの課題があり、残念ながら拡大採用には至らないという。
「THS(トヨタハイブリッドシステム)」としての燃費向上策は散々やり尽くし、もう取りしろがないという状況は外野でも察せられる。が、プリウスは環境性能でサプライズ……と、そんな期待値がことのほか高い銘柄でもある。動的質感を磨くのも大事だけれど、自らの勝ち技をなまらせては本末転倒だ。勝ち技といえば、近ごろのトヨタ車には内装の質感でうならされる機会も少なくなった。こういった課題に立ち向かう取っ掛かりとして、プリウスPHEVの今後の進化に期待したい。少なくとも、これ以上速くなる必要はないと思う。
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交通環境や気分に応じてパワートレインの制御を切り替えられるドライブモードセレクター。HEVの上級グレードと同じく、「ECO」「NORMAL」「SPORT」「CUSTOM」の4つの走行モードが用意される。
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ラゲッジスペースはHEVのスペアタイヤ装着車と同じく高床仕様となっている。荷室容量は、低床仕様のHEVが410~422リッターとなっているのに対し、PHEVでは345リッターに減じている(いずれもVDA値)。
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新型「プリウス」のPHEVのハイブリッド燃料消費率は、WLTCモード計測で26.0km/リッター。30.3km/リッターだった従来型と比べると、ちょっと寂しい数字だ。プリウスにはやはり、燃費も頑張ってほしい。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4600×1780×1430mm
ホイールベース:2750mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151PS(111kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4400-5200rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)
モーター最大トルク:208N・m(21.2kgf・m)
システム最高出力:223PS(164kW)
タイヤ:(前)195/50R19 88H/(後)195/50R19 88H(ヨコハマ・ブルーアースGT)
ハイブリッド燃料消費率:26.0km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:87km(WLTCモード)
EV走行換算距離:87km(WLTCモード)
交流電力量消費率:134Wh/km(WLTCモード)
価格:460万円/テスト車:506万9700円
オプション装備:ソーラー充電システム(28万6000円)/ITS Connect(2万7500円)/デジタルインナーミラー+デジタルインナーミラー用カメラ洗浄機能+周辺車両接近時サポート<録画機能>+ドライブレコーダー<前後方>(8万9100円)/デジタルキー(3万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ラグジュアリータイプ>(3万4100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:664km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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