【試乗記】日産セレナe-POWER AUTECH(FF)
海と空のミニバン
特別な仕立ての人気モデル
セレナは2022年11月に6代目モデルが発表され、2023年春にハイブリッドのe-POWER版が発売された。「トヨタ・ノア/ヴォクシー」「ホンダ・ステップワゴン」というライバルと時を同じくして新型が登場し、ミドルサイズミニバンの市場が活況を呈している。どうしたって比較されるので、それぞれが強みをアピールするわけだ。いずれも純ガソリン車とハイブリッド車をラインナップするなかで、セレナの売りは駆動をモーターのみが担うe-POWERである。
純ガソリン車よりも高価なe-POWERモデルだが、販売の主流となっているという。人気ミニバンだから、同じクルマに出会う機会は多い。他人と違うちょっと特別なバージョンが欲しいというユーザーは多いはずで、セレナe-POWER AUTECHには興味をそそられるだろう。ガソリン車も用意されているが、8人乗りだけ。7人乗りを望むのであれば、e-POWER一択となる。
先代にもセレナAUTECHがあった。試乗したことがあるような気がしたので調べてみたら、それは勘違い。乗ったのは「セレナNISMO」だった。オーテックがブルーをイメージカラーにしているのに対し、ニスモはレッド。モータースポーツ活動のイメージを強く打ち出していて、セレナNISMOはフロントグリルやバンパーで空力性能を高めていた。エンジン自体はノーマルと同じでもコンピューターチューンで加速のリニア感を高め、スポーツマフラーですごみのあるエキゾーストノートを演出していた。
湘南・茅ヶ崎をアピール
エクステリアではドットパターンのグリルやブルーのシグネチャーLED、メタル調フィニッシュのプロテクターなどが特別感を付与する。足元にはAUTECHの「A」をかたどった専用アルミホイールが装着される。インテリアはオーテックブルーの乱れ打ちだ。ダッシュボードとドアトリム、本革巻きステアリングホイールは、ブルーステッチがアクセント。シートバックの波模様は茅ヶ崎の海をモチーフにしていて、さらに「AUTECH」の刺しゅうが施される。スペシャルな仕立てであることを見せながらも過度なアピールはせず、あくまで控えめなのが好ましい。
オーナーがオーテックのカスタマイズカーに乗っているという満足感を得るためには、セレナ自体がいいクルマであることが前提になる。ベースとなっているのは、「セレナe-POWERハイウェイスターV」。「プロパイロット2.0」を搭載する最上級グレード「ルキシオン」の1つ下に位置づけられている。
走りだすには、ダッシュボードに備えられたボタンでDレンジをセレクトする。ホンダのハイブリッドではおなじみだが、日産としては初採用の機構だ。2つの横長ディスプレイを並べたインストゥルメントパネルは最近の日産車で使われているデザインで、新しいもの感が漂う。使い勝手に関しては賛否があるだろうが、これがトレンドなのだ。
心地いい減速感のeペダル
セレナAUTECHはエクステリアに専用デザインを採用したことで3ナンバーになっているが、ベーシックなモデルは従来どおりの5ナンバーサイズである。日本の交通事情を考えれば、拡大を抑えたことはユーザーに歓迎されるはずだ。大型ミニバンのようなどっしり感には乏しくて微振動が伝わってくるのは避けられないが、乗り心地に文句が出ることはないだろう。
高速道路ではまさにハイウェイスター、ということにはならない。モーターの回転はある時点で頭打ちになり、伸び感ではガソリンエンジン車にかなわないところがある。家族を乗せて移動することが大切なクルマなのだから、むやみに飛ばすのはやめておこう。ルキシオンのようなハンズオフ機能はないが、従来型のプロパイロットで安楽ドライブを楽しめばいい。
サイズ感と見晴らしのよさのおかげで、ワインディングロードでは思いのほか快活な運転ができる。e-POWERの持ち味を存分に生かすために、「eペダル」を有効にすることを忘れてはならない。ワンペダルドライブはさまざまなクルマで採用されるようになったが、eペダルは先行者として経験を積んだことでさらに進化を遂げたようだ。ノートは2代目になって減速Gがかなり弱まったが、セレナはアクセルペダルを離すといい感じで減速する。ただし、完全な停止に至らないのは従来どおりなので、最後にはブレーキを踏むことが必須だ。
実用性の高い自動パーキング
ファミリーカーとしての使い勝手のよさが重視されているのは当然のこと。セレナの看板となっている便利な「デュアルバックドア」が引き継がれたのはうれしい。室内の広さは限界に達しているはずだが、運転席の足元スペースや荷室長などはさらに拡大したそうだ。2列目キャプテンシートにゴージャス感は薄いが、前後左右に大きくスライドして自由度が高い。そのおかげで3列シートへの乗り込みは容易だ。
ミニバンは日本のガラパゴス的クルマと言われてきたが、それは悪いことではない。限定されたジャンルのなかで激しい競争が行われてきたから、速いペースで格段の進化が実現したのである。強力なノア/ヴォクシーに張り合って、セレナは安定した売れ行きを保っている。明確なキャラを確立し、オルタナティブとして存在感を発揮する手法はクレバーだと思う。
人気ファミリーカーのセレナだからこそ、オーテックの特別感をまとわせると商品性が向上する。オーテックブルーが海のイメージとオシャレ感をプラスし、細マッチョなイケメンのようだ。考え抜かれた見事な戦略には感服するしかない。
テスト車のデータ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1725×1870mm
ホイールベース:2870mm
車重:1800kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)/--rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(トーヨー・トランパスmp7)
燃費:--km/リッター
価格:415万0300円/テスト車=480万6500円
オプション装備:ボディーカラー<カスピアンブルー/ダイヤモンドブラック 2トーン>(7万7000円)/アダプティブLEDヘッドライトシステム+ワイヤレス充電器+6スピーカー+NissanConnectナビゲーションシステム<12.3インチディスプレイ>+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>+ドライブレコーダー<前後>+プロパイロットパーキング+SOSコール(45万4300円)/100V AC電源1500W<室内1個、ラゲッジスペース1個>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 専用フロアカーペット(6万9900円)/専用ラゲッジカーペット(2万3400円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1654km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:409.0km
使用燃料:32.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/12.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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