必要なのは“突き抜ける”こと [ダイハツ ミラ 大野宣彦チーフエンジニア](2/2)

10年間、希望し続けて、商品開発部門へ。

実験部の仕事は面白くてヤリガイがありましたが、 せっかく自動車メーカーに入って"クルマ屋"になったんだから、 自動車の開発全体を見渡せる仕事をしたいと思っていました。 なにせ入社以来の夢ですから、毎年せっせと商品開発部門への 異動を希望し続けたんです。 「今すぐ異動OKです!」って猛烈アピールしてたんですけど(笑)、 なかなか叶わない。 ようやく叶ったのが1996年。 嬉しくて仕方がありませんでした。
2003年からミラの開発に携わり、 まずプラットフォームの開発から始めました。 ダイハツでは4年ごとにモデルチェンジをするので、 4年間、他社に追いつかれないような画期的なものを開発しよう、 どんなクルマにも負けないぞ、と張り切りました。
ところが、意気込みはあっても、なかなかうまくいきません。 居住性を高めるためには、できるだけホイールベースを長く取って、 タイヤを4隅に追いやりたい。 しかし、そうすると、 衝突安全性や回転半径などにシワ寄せが出てくる。 あっちを立てればこっちが立たず、 でしたが、あきらめずに頑張りましたよ。
最終的に軽自動車トップクラスの2490mmという ホイールベースを実現でき、そのプラットフォームから 4代目のムーヴと7代目のミラが生まれることになったんです。

多くの人に共感されるためにこそ"突きぬける"。

ミラのチーフエンジニアになって考えたの は"突出したい"ということでした。
ミラは長く乗り継いでいただいている年配のユーザーも多く、 一方では若い新しいユーザーも獲得したいわけですから、 幅広い層に受け入れられなければなりません。 でも、みんなに気に入られることばかり考えて、 あれもそこそこ、これもそこそこ、となると、 全部がそこそこ平均点の特徴のないクルマになってしまう。
幅広い層の、多くの人に共感してもらえるクルマを 作ろうとするからこそ、全部がそこそこ良くてもダメで、 どこかが突き抜けて良いクルマを創るべきではないかと考えたのです。
ミラで突出させようとしたのは、まず燃費性能でした。 新プラットフォームと、新エンジン、新CVT、優れた新製品を 組み合わせているのですから、シミュレーション上は すばらしい数値が出るはずだったんです。 でも、はじめはなかなかうまくいかない。 何が原因なのか、どこをどう変えれば良くなるのか、 一つずつ詰めていきました。 そして最終的には27km/lというガソリン車トップの 低燃費を達成することができました *。
*アイドルストップシステム搭載車。ダイハツ調べ。 ハイブリッド車を除くガソリン車の10・15モード走行燃費で。

クルマがすべてをしゃべってくれる。

私は、商品はおしゃべりだと思っているんです。 だからものづくりの仕事は怖いとも思います。
ほら、その商品がこだわって創られたモノか、 手抜きをして、そこそこに創られたモノかって、 すぐ分かるじゃないですか。 私自身、消費者としていろいろな商品を買ったり サービスを受ける時、よくそう思います。 たとえば、このお店の料理は材料をケチっているな、 サービスに手を抜いているな、などと。 そして、そんなお店からは自然と足が遠のきます。 手を抜いたらお客様には分かるんですよね。
ミラの開発では、とことんあきらめずにベストを 尽くしたつもりです。 そしてお客様は、たとえクルマに詳しくない方でも、 そのことを感じていただけると思うんです。 クルマが、私たち開発者の成功も失敗も喜びも後悔も、 ぜんぶしゃべってくれると思うんですよ。
幸い、ミラは発売以来、高い評価をいただいています。 "クルマ屋"として自分たちの作ったクルマが褒められるのは 嬉しいですよ。 「ここはいまいちだけど、ここはいいね」 そんなふうに、どこかを好きになって 長く乗ってもらえたら嬉しいですね。
最近は、ミラに限らず軽自動車がどんどん良くなっていて、 もうやり尽くしたのではないか、これ以上の進化は無理ではないか、 などという声もあるようです。 でも私は、まだまだ良いものができると思っています。 次に作るときには、必ずもっといいクルマを 創りあげたいと思います。

( 文:三枝義浩 )

MORIZO on the Road