限界を自分で決めてはいけない [レクサスLS600h、LS600hL 定方理チーフエンジニア](1/3)

トヨタの高級車ブランド「レクサス」のラインナップの頂点は、これまで「LS460」だった。初代セルシオからの流れを汲み、日本はもとより欧米の高級車市場でも確固たる地位を築いてきたクルマである。
しかし、トヨタは今年、その上を行くクルマとして「LS600h」「LS600hL」(Lはロングボディ版)を送り出した。970万円から1510万円までという日本製セダンとしては破格のプライスでの登場である。
しかし、驚くべきは価格ではなく、最新鋭のハイブリッドを搭載し4輪を駆動させる、これまで世界になかったタイプの高級車であることだ。
6リットルV12エンジンも当たり前になっている世界の最高級セダン市場に、同じようなスペックのクルマではなく、「5リットルV8エンジン+ハイブリッド」で挑戦するLS600h。6リットルV12に劣らない動力性能を、3リットル車並みの燃費で実現するという。
果たして市場は、その挑戦を歓迎した。2007年5月17日に発表されて以来、LS600h、LS600hLは日本で月間販売予定台数の10倍以上の受注を続けている。
これほどの大きな注目と支持を集める、まさに「ザ・フラッグシップ・オブ・レクサス」と言うべき最高級のクルマ。いったい、どのような人物がどのように生み出したのか。編集部は、開発のキーマンであるチーフエンジニア・定方理氏に話を聞きに行った。

【プロフィール】
1958年、群馬県生まれ。
大学院では精密工学科で振動工学を研究。
1983年、トヨタ自動車に入社。
実験部などを経て、1997年、商品開発部門へ。
2002年からRX400hのチーフエンジニアを、
2005年からはLS600hのチーフエンジニアを務める。
プライベートでは2人の息子を持つ父。
免許を取ったばかりの長男とオープンカーでドライブに出かけるのが、目下の楽しみ。
*RX400hとは、日本ではハリアーハイブリッドと呼ばれるクルマ。海外ではレクサスブランドから販売され、こう呼ばれている。

"よく分からない"分野の研究に挑戦。

入社して以来、私は長く実験部で振動騒音の研究開発を担当してきました。
最初に担当したのは、風切り音。主に、ボディの形状の変化によって音はどう変わるのかを研究するのです。
当時、ボディ形状の研究といえば、空力性能を高めるためには行われていましたが、風切り音の研究はほとんど前例もない状態。 トヨタとしても、まだ"よく分からない"分野だったので、とにかく研究してみろ、という感じでした。 現在では、振動騒音はクルマづくりの大きなポイントになっていますから、きっと当時の上司に先見の明があったのでしょうね。
自分なりに仮説を立て、自分で実験装置を作って、風洞実験室にこもったりしていました。 いま考えると、よく入社したばかりの私に任せてもらえたと思います(笑)。
当時は、フラッシュサーフェス、つまり、できるだけ出っ張りのない、 なめらかな流線型が風切り音を小さくするというのが常識でしたが、 私は、あえて出っぱりを作ることで風切り音を押さえることができるという研究成果を出して、 アメリカの学会に発表に行ったこともあります。そこから生まれた形状が、 初代セルシオに採用されたときは嬉しかったですね。