独自の道を行く。 [13代目クラウン 寺師エグゼクティブチーフエンジニア](3/3)

安全なクルマは、疲れにくいクルマ。

10個ものエアバッグを標準で装備
「疲れにくいクルマ」を目指した新型クラウン

安全技術には種類があります。まず、ぶつかったときのための「衝突安全」。クルマの強度を高め、エアバッグなどの装備で乗員を守るものですが、この点では今回、初めて10個のエアバッグを標準で装備しました。エアバッグなどの安全装備は、装備するほどコストが上がるため、オプション設定されるのが普通です。しかしクラウンでは、後席も含めすべてを標準装備することに意義があると考え、実現したのです。

次に「予防安全」。これは、クルマがぶつかりそうになったり、不安定になったりしたとき、できるだけ事故を回避するための技術。今回は、VDIM(車両の挙動を安定させる先進の車両運動制御技術)などの先進技術を盛り込み、高度で緻密な統合コントロールを実現しました。

しかし、それら衝突安全、予防安全に万全を期すのは、クラウンであれば当然のこと。13代目クラウンでは、さらに「安全運転支援」という考え方で開発を進めました。

これは、そもそも、ぶつかりそうにならない、ミスを起こしにくいクルマを創ろうという考え方。これまで「快適性」と「安全性」は、それぞれ別の軸でとらえられていましたが、快適なクルマは、すなわちリラックスして運転に集中できるクルマ、疲れにくいクルマであり、ミスを起こしにくいクルマにつながっていきます。そこで、安全性に寄与するという点から快適性をとらえ、高めることにしました。

先代で鍛えられた基本性能を活かすべく、クルマの運動神経である電子プラットフォームを一新。乗り心地を大きく向上させました。また疲労・ストレスを低減させるために、さまざまな技術や工夫を盛り込んで、“疲れにくい”クルマを創り上げていきました。

指標としては、今回初めて、尿中アドレナリン濃度を使いました。それまでの研究で、運転で疲れたドライバーの尿中アドレナリン濃度が高まることが分かっていたからです。

運転前後のドライバーから採尿し、そのアドレナリン濃度を調べたところ、新型13代目クラウンは、先代に比べて、約30%もの低減を達成することができました。つまり、30%も疲れにくいクルマにすることができたのです。

疲れにくいクルマづくりという目に見えないもののために、具体的な数値基準を設定して開発したのは、トヨタのクルマづくりでも初めてのことでした。

そうした開発の結果、13代目では、クラウンを“中から”大きく変えることができたと考えています。かつて私は、長年にわたって実験部で、目に見えない音や振動を相手に開発をしていましたが、そうした経験が、今回の開発では活きたのかもしれませんね。

10個ものエアバッグを標準で装備
「疲れにくいクルマ」を目指した新型クラウン

独自の道を行くクルマ。

これまで、クルマの評価基準では「欧州のライバル車に比べて、どうこう」という話になることが多かったのですが、私は、クラウンはそうした評価軸で語るべきクルマではないと考えています。

日本の高級車として独自の道を行けばいい。そしてクラウン自らを超えていけばいいと思うのです。その意味でも今回“疲れにくい”という新たな基準を示すことは、価値のあることだと自負しています。

また、今回の開発では、十分な作り込みができたという意味でも、満足しています。

プラットフォームやエンジンを先代から引き継いだことは、決してネガティブなことではないんです。そうした優れた主要コンポーネントが先にあったから、作り込みに力を注ぐことができたわけです。実際、今回の走行テストの量は常識を遥かに超えるものですし、生産工程とも協力してテストやシミュレーションを重ね、総合的に品質を高めることができました。

私たちが自信と誇りを持って送り出す13代目クラウン。自らを超えながら独自の道を行く日本の高級車を、ぜひ皆さんに体験していただきたいと思っています。

( 文:三枝義浩 )

MORIZO on the Road