“ワクワク”でクラスを越える [iQ 中嶋裕樹 チーフエンジニア](1/2)
トヨタが送り出した、新世代のスモールカーiQ。
2.985mという、軽自動車よりも短いボディに、4人乗り。
コンパクトカーの本場・ヨーロッパでは、すでに日本以上の大きな注目を集めているという。
単にヴィッツやパッソよりも短く小さいクルマ、というわけではなく、新しい価値の提案があるクルマだと聞き、編集部は、チーフエンジニア中嶋裕樹をトヨタテクニカルセンターに訪ねた。
当時のソアラの絶大な効果とは?
- 中嶋裕樹
- 1962年、大阪府生まれ。
1987年、トヨタ自動車に入社。
生産技術部を経て、1993年から設計部門へ。
2005年、[iQ]のチーフエンジニア(CE)に。
摩擦を恐れず、熱い想いで新しいクルマづくりに取り組む、型破りなCE。
私にとって、クルマとは、走りがどうのとかメカニズムがどうといったことに関心が強い訳でなく、自己表現の一つで、いかにかっこいいクルマに乗り、いかにかわいい女の子を横に乗せるかが、何より重要でした(笑)。
ちょうど、私の学生時代は、トヨタから初代ソアラが出た頃で、かっこいい、ほしい、と惚れ込みました。絶対にあのクルマを買うんだ、とアルバイトに励んだんです。
やっと手に入れたソアラの効果は絶大。当時憧れていた女の子をデートに誘うことにも成功しましたよ(笑)。
子どもの頃は、遊びを自分で考えてつくるようなタイプでした。特に裕福な家庭でもなかったので、市販の高価なゲームを買ってもらうわけにはいかない。だったら、つくってしまおう、というわけです。思い立ったことを、次から次へとやっていくので、通信簿には「落ち着きがない」と書かれたものです。新しいことをやりたがるのは、今も変わっていませんが(笑)。
- 中嶋裕樹
- 1962年、大阪府生まれ。
1987年、トヨタ自動車に入社。
生産技術部を経て、1993年から設計部門へ。
2005年、[iQ]のチーフエンジニア(CE)に。
摩擦を恐れず、熱い想いで新しいクルマづくりに取り組む、型破りなCE。
「ここを俺が創ったんだ!」
トヨタへの入社動機は単純です。ソアラが大好きでしたから、あんなカッコいいクルマをつくりたい、と。そして、ソアラのカッコよさはボディのスタイルでしたから、それを形にする生産技術の仕事をやりたい、と配属希望を出しました。
若手社員の頃は、とにかく生意気でしたね。大企業の歯車として活躍するだけでなく、組織を動かすエンジンになってやる、と思って入社しましたから、「これはおかしいんじゃないですか」「こんなのやらなくても大丈夫」などと、上司によくかみついていました。今から思えば、よくガマンして長い目で育てていただいたと感謝するしかありません。
初めての仕事は、初代セルシオのボディの一部。リアフロアパネルを担当しました。亜鉛メッキ鋼板でできていて、プレス加工が難しく、苦労しました。しゃがみ込んで、のぞき込まなければ見えない個所なのですが、セルシオの発売後、当時の彼女を販売店に連れて行って、『ここを俺が創ったんだ!』と自慢した覚えがあります。自分の関わった仕事が形になったことが、とにかくうれしかったんですね。
設計への異動。そして涙の理由は?
配属された生産技術部門は、開発・設計部門と、工場の生産部門の橋渡しをします。
開発・設計からの要望と、工場での生産性、両方を考え、調整する。時には、生産性を考慮して、「そんな設計では造れない」と設計に対して断ることもあります。そうして両方の部門の想いを知るうちに、ボディの設計をやりたい、と思うようになりました。
希望が通って、設計部門に異動になったのはよかったものの、それから1年がたいへんでした。もう30歳を越えているのに新人同然。CADの使い方すら分かりませんでしたから。
初仕事は、クラウンのボディでしたが、とんちんかんなことを言って、当時のCE(チーフエンジニア)から大目玉を食らった覚えがあります。プロとしてクルマづくりに参加している以上、いくら異動直後でも関係ない。もう必死になって仕事に取り組みましたね。
クラウンは、開発した後も、生産現場まで追いかけて担当しました。このRE(レジデント・エンジニアリング)という制度のおかげでクルマづくりを総合的に勉強することができました。
設計に異動してから、クラウンが完成するまで3年間。最初の1台がラインオフされて工場から出て行くのを見たときには、思わず涙があふれてきましたよ。
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