料理でいえば“だし”をとり続ける仕事 [アベンシス 松本章 開発責任者](2/2)

欧州は道場だ

3代目アベンシスの開発は2代目が発売された翌年、2004年の暮れにスタートしました。求められたのはトヨタのDセグメントカーとしての認知をさらに高め、欧州におけるトヨタのフラッグシップに相応しい確固たる地位を築き上げることです。
欧州市場はご存知のようにライバルメーカーがひしめき合い熾烈な競争を繰り広げている市場です。とくに近年、Cセグメントの車が大型化してこれまでのDセグメントのマーケットを侵食してきていて、ただでさえリーマンショック以降の景気後退でマーケットが縮小傾向にある中、限られたパイをめぐってより一層熾烈な競争が展開されています。
そんな中、私たちがこだわったことは、車の基本性能(走行安定性、ハンドリング性能、動力性能、静粛性など)とこれまでのアベンシスのDNAの一つとも言うべき安全性を徹底的に磨き上げ、高めていくことです。欧州の道には速度無制限のアウトバーンもあれば、山道のワインディングロード、さらにはベルジャンロード(石畳)に代表される荒れた道など、さまざまな性格の道があります。欧州の道をドライブした経験のある人ならおわかりいただけると思いますが、運転していて、すごく操りたいという衝動に駆られる道なんです。そこを自由自在に思い通りに走っていく、そこにヨーロッパの人たちのドライビングプレジャーがあります。
お話の冒頭で、車の足回りは料理でいえば“だし”だと申し上げましたが、欧州では、盛んにこの“だし”の善し悪しが議論されるのです。この感覚は日本で開発し、テストしていたのではわかりません。開発スタート時にチーフエンジニアだった山本CEと私が交互にヨーロッパに出張し、ベルギーのトヨタモーターヨーロッパを拠点に開発初期から欧州のさまざまな路面を走り込み、磨き上げました。
また、欧州車というと伝統を重視し、変わらないことが価値であり、ブランドになっているというイメージがあるかもしれませんが、実際の新車開発においては日進月歩の開発競争が展開されていて、次々と改良が加えられ進化しています。まさしく、新車開発において、欧州は道場です。
そんな道場に4年や5年に1回通っていても力はつきません。毎日、毎日の練習を積み上げることが大切です。ですから、3代目アベンシスでは欧州拠点をフルに活用した本格的な現地開発を行いました。これも大きな特徴です。デザインのアイディアはニースにあるトヨタヨーロッパデザインデベロップメントが担当。彼らが提案してきた1:1の模型をもとに開発を進めました。
こうしたヨーロッパの食材と“だし”に加えて、燃費向上につながるバルブマチックエンジンやCVT制御など日本ならではの賢いクルマのテイストを足し、厳しい欧州の道場で徹底的に磨き上げて完成したのが3代目アベンシスです。

日本のワゴン市場に一石を投じる

2000年代の中ごろから日本市場でのワゴンの需要は減ってきていますが、欧州では依然としてワゴンの人気は堅調です。3代目アベンシスでも約6割はワゴンが売れています。今回、日本に投入するアベンシスのワゴンは一部、日本の基準に合わせた変更や日本語表記の対応など最小限の変更は行いますが基本的には欧州で売れているワゴンをそのまま国内に持ち込みます。そしてそれは同時に、欧州のライフスタイルの中で培われたワゴンの文化、クルマの使い勝手も一緒に持ち込むことだと考えています。余裕のクルージングやフレキシブルなカーゴスペース、生活の一部として付き合えるクルマ。そんな欧州のワゴン文化にぜひ触れてみてください。さらには、欧州車らしい質感の高い内装、Euro NCAPで5つ星を獲得した安全性能、そしてキビキビとした走り、レスポンスの良いアクセルやブレーキ、高い操縦安定性能といった欧州の“だし”がもたらすドライビングプレジャーをぜひ、ご堪能いただきたい。
そして、ハイブリッド採用による新しいスペース系として先日発売されたプリウスαやマークXジオとともに、このアベンシスが日本のワゴン市場に一石を投じるとともに、若い世代を中心に新しいワゴンファンを開拓することを期待しています。

( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )

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