Emotional(感性)+Rational(合理性) [カムリ 岡根幸宏 開発責任者](2/2)

責任感と達成感。そして、感動のある仕事。

エンジンの開発部署では最初の2年間の仕事はメカニカルな領域のキャブレターのチューニングでした。その後は、AE86(カローラレビン/スプリンタートレノ)に搭載され一世を風靡した4AGエンジンのEFI(電子制御式燃料噴射装置)やスーパーチャージャーシステムの開発、EFIのコンポーネント開発などを担当。充実した14年間を経て、95年に第一開発センターに異動し、初代ハリアーの開発チームに入りました。
子ども時代から憧れていたクルマを企画する仕事。この仕事を実際に担当して感じたのは責任感と達成感、そして言葉では表現できないくらい感動がある仕事だということです。自分が企画したクルマがラインオフ式でみんなの拍手で工場から送り出されていく。そして、しばらくするとそのクルマが路上を走っている。販売店やさまざまな調査を通じて、お客様や関係者からいろいろな反応が返ってくる。この感動や達成感、そして責任感はクルマの製品企画でしか味わえない醍醐味だと思います。
だからこそ、クルマの企画の仕事は際限のない仕事です。こだわり始めたらきりがない。しかし、一方では、極端な話、自分たちが何もしなくてもトヨタの優秀な技術者たちがそれなりのクルマにしてくれます。どこまで思い入れをもって、こだわっていくか?そこにクルマの企画開発担当者の仕事の真価があります。

存在感のあるクルマ。

2代目ハリアー

初代ハリアーの後はクルーガーを担当。燃料電池を積んだクルーガーの初代チーフエンジニア(開発総責任者)を担当しました。そして、量産車の開発総責任者として初めて担当したクルマが2代目ハリアーです。開発総責任者になるということは、関係者の間だけではありますが、いわば自分の名前が付いたクルマが発売されるということです。このときはとにかくいいクルマを作ろうという一心で、5つの世界初の技術を盛り込み、2代目のジンクスを跳ね返すべく、「誰が見ても新型、誰が見てもハリアー」を合言葉にとことんこだわって造り上げました。
おかげさまでこのクルマは発売から8年以上が経った現在も売れているロングセラーカーになっています。
振り返って見ると、昔から名車といわれたクルマには分かりやすい特徴があり、それがキャッチフレーズになっていました。新開発1100ccのエンジンを搭載して登場したKE10(カローラ)は「プラス100ccの余裕」。それに対抗してモデルチェンジされたサニー(私が大学1年の時に買ったクルマです)は「隣のクルマが小さく見える」。また、「走るというより飛ぶ感じ」(コスモスポーツ)、「いつかはクラウン」(クラウン)もそうです。そして、日本におけるカムリに足りないもの。それがこの誰もが引きつけられる分かりやすさであり、いいかえれば存在感なのではないか?2008年にカムリの開発総責任者になった時、そう考えました。販売店やお客様の声などを集めて分析した結果、ボディサイズに見合う高級感や存在感、燃費・出力に優れたパワートレーンが足りないことに気がつきました。

2代目ハリアー

New ERA sedan(新時代をリードするセダン)

今回、日本向けに発売される新型カムリは社内では「プレステージ・カムリ」と呼ばれていて、この課題を十分に解決したものになっています。またパワートレーンには新開発の2.5Lハイブリッドエンジンを搭載。従来のハイブリッドの走りをさらに革新する走行性能とコンパクトカーに肩を並べる26.5km/L(10・15モード走行燃費)の低燃費を実現しています。いくら燃費が良くても走りが満足できなければ意味がない。この新型パワートレーンは新時代のセダンに相応しい環境性能、動力性能、静粛性を高次元でバランスさせたものになりました。一目見て高級だと感じられるプレステージ感、新型ハイブリッドパワートレーンがEMOTIONAL(感性)に訴えかける。きっと、日本のお客様にも「おっ、このクルマはなんだ!」と注目していただけることでしょう。
そして、カムリ本来の強みであるRATIONAL(合理的)な部分も他車の追随を許さないくらい徹底的に磨き上げてあります。車に乗った瞬間、「わぉー」といってもらえるような広い室内空間。ゴルフバッグが4つ積める440Lのトランクルームもハイブリッドセダンとしては画期的な広さです。そして、品質のトヨタを再認識していただける様、安全や品質においては徹底的に検証していることはいうまでもありません。
新型カムリはトヨタの技術部のメンツをかけて、また技術の粋を尽くして作り上げたNew ERA sedan(新時代をリードするセダン)だと自負しています。それは実際の車を見ていただき、そして乗っていただければ必ずわかっていただける。そう確信しています。

( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )