カッコよく意のままに操れるスポーツハッチバック [オーリス 末沢泰謙 開発主査](2/2)
ダイナミックでスポーティなスタイルの中に、機能性を融合
- キーンルックと名付けたシャープなフロントフェイス
初代オーリスのお客様評価を分析すると、その車高の高さから乗り降りがしやすく、実用性や利便性の評価は極めて高い。しかし、その反面、「スポーティ」という評価は決して高くなく、走りの面でも、「RS」というスポーツグレードを設定していたのですが、充分に訴求できていませんでした。
「もっと外見をスポーティでかっこ良く」「インテリアにもっと高級感とスポーティさを持たせる」そして、「よりスポーティな走りを実現する」。具体的には、空力、衝突安全性能、居住性能に配慮しながら、全高を初代より55ミリ低くし、着座位置も40ミリ下げることで、低く構えた、エモーショナルなスタイル、スポーティでかっこいい外形スタイルとし、同時に加速性能や操縦安定性といった動的性能でも有利となる低重心を実現。スポーティなスタイリングを纏うことで、オーリスを「スポーツハッチバック」として生まれ変わらせることを車両開発の目標としました。
とくにこだわったのは意匠(外形デザイン)です。「スマートダイナミズム」という開発テーマを定め、ハッチバックならではの、キビキビとした走りを予感させるダイナミックでスポーティなスタイルの中に、空力性能、軽量化、居住性や荷室スペースといった機能性をスマートに融合させています。
フロントビューは初代に比べるとずいぶん印象が変わりました。「キーンルック」と名付けたシャープなフロントフェイスに変更し、ダイナミックなスポーティさを表現。その精悍な顔つきと低重心でタイヤの踏ん張りが効いた低い構えから、路面にアタッキングしていくような野性的でワイルドな印象になりました。実際に走っている姿を是非、見ていただきたいのですが、とにかくかっこいいです。郊外の道路を疾走している姿はもちろん、街中をゆったり流している姿も様になっています。
一番苦労したのはリア周りのデザインです。社内のデザイン審査ではそれなりの高い評価をもらってきていたものの、欧州現地営業サイドからは更なるレベルUPを要望された。現地の声にも応えるべく、「皆が納得するまでやろう!」と腹を決め、3ヶ月間、デザインの開発期間を延長して徹底的に磨き上げていきました。結果、現地からも大変高い評価を頂くと共に、皆でデザインに更なる磨きをかけたという一体感も生まれました。
また、国内での審査会と平行して、欧州でも現地の販売店関係者や工場、マーケティングスタッフを招いての品評会を実施し、現地の声を吸い上げて開発に取り込んでいくという、前例のない新しい取り組みを敢行しました。
- キーンルックと名付けたシャープなフロントフェイス
上質感へのこだわり
新型オーリスの開発では、デザインのみならず、インテリア、操縦性、走行性などあらゆる面で「品質」にこだわりました。欧州市場で「Dセグメント」と呼ばれる上級車種からダウンサイジングしてくるお客様の期待を超えるハンドリング性能や高い静粛性の実現、ダッシュボードの素材の見直しやAピラーにファブリックを巻く等、ディテールや触感にまでこだわって上質感を追求。そして、開発段階で何度も欧州に足を運び、現地の欧州人開発部隊とかなり意見交換をし、欧州の道をかなり走り込んで乗り味を仕上げていきました。新型オーリスは欧州の道で鍛え込まれたクルマです。強豪がひしめくCセグメントクラスにおいて、VWゴルフをはじめとする欧州車を凌駕する仕上がりになっていると自負しています。
とりわけ、スポーティなブランドイメージの醸成を狙って初代オーリスから設定されていた「RSグレード」では、リヤサスペンションにダブルウイッシュボーンを採用、足回りやステアリングを専用にチューニングし、走りの楽しさと快適な乗り心地を高次元で両立。その他、トランスミッションのローギヤード化、専用のカラーリングの設定、カーボン調もしくは本革の内装加飾、スポーツシートの採用などにより、スポーティな走りを先代モデル以上に楽しんでいただけるように強化し、『直感性能』というオーリスブランドのイメージリーダーとすべく造り込んでいます。
願わくは次のオーリスも開発したい
私は学生時代から海外での生活やライフスタイルに興味があり、ある種、憧れのような気持ちがありました。お金を貯めてアメリカに旅行もしましたし、欧州にも関心がありました。当時、国際化が急務とされていた自動車業界を志望し、トヨタに入社した動機も、海外で仕事がしたいという憧れや希望があったからです。
最初に配属されたボデー設計部では主にカローラ系のシート設計を担当していたので、当時、英国でカローラを生産していた現地法人TMUKに出張する機会もありましたし、2001年に製品企画のセクションに異動したときも、TME(トヨタ・モーター・ヨーロッパ)に出向となり、3年半の間、家族とともに欧州で暮らす機会も得、実際に欧州のライフスタイルを体感することができました。
また欧州に勤務している間、とにかくクルマで欧州の道を走り込みました。出張時に通常なら飛行機で移動するような距離も国境を越えて、クルマで出向いたりもしました。日本から来た出張者を同乗させて、嫌がられることもしばしば(笑)。家族旅行でベルギーからジブラルタルまで往復2千数百キロをクルマでドライブしたときは、さすがに家族からも呆れられました。
しかし、実際に欧州の道を走ってみると、日本の感覚では長距離と思える距離でも意外と楽に走れてしまう。だから、欧州の人はみんなクルマで遠出する。この感覚はたぶん、日本にいてはなかなか理解できないことです。またTMEでは現地のマーケット情報や技術情報をリサーチしたり、欧州の販売店などからの開発要請などを取りまとめて日本にフィードバックする仕事などを担当していましたので、自ずと欧州のクルマ事情に精通することができました。
こうした欧州での生活経験、業務経験はいま振り返ってみれば、新型オーリスの開発を担当する上で大変役に立ちました。また、帰国後、車両開発プロセスの改革を行う特命チームに配属されました、そこに約3年間所属し、業務を通じて様々な車両開発プロジェクトの成功事例、失敗事例を学ぶことができました。その知識が今回の新型オーリスの開発マネジメントにすごく役に立っています。
これまでのキャリアが全て今の仕事に役立っている。しかも自分が好きなクルマであるコンパクト・ハッチバック、Cセグメントという世界のマーケットのど真ん中で戦うクルマの開発を担当している。そういう意味では、すごく恵まれていたと感謝していますし、とても充実していて、幸せです。
そして、次に開発するクルマも願わくば、是非、オーリスをやりたい。もちろん、今回の開発に全力を投入し、現時点ではやりきったという達成感に満ち溢れています。しかし、世界の強豪がひしめくCセグメントのマーケット。ライバルたちが手をこまねいているわけではありません。新しい開発競争はすでに始まっています。そして、何よりも目の肥えたお客様が立ち止まることを許してくれません。だからこそ、このクルマ、オーリスの開発は面白いのです。
( 文:宮崎秀敏 (株式会社ネクスト・ワン) )
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