オーリス開発責任者に環境性能への想いを聞く 末沢 泰謙

初代オーリスが誕生したのは2006年秋。それまでカローラランクスおよびアレックスと呼ばれていたコンパクトハッチバックがフルモデルチェンジを機にオーリスと名称を改め、従来のコンパクトクラスの枠を超えた、人の感性に訴える明確な個性と高い走行性能を備えたクルマとして注目を集めました。
​あれから6年。2代目オーリスは初代のDNAである『直感性能』をブランドイメージとして確立させるべく、よりスポーティでダイナミックに生まれ変わりました。

オーリスは欧州ではCセグメントと呼ばれるクラスに属する大きさで、このセグメントにはVWゴルフ、フォードフォーカスといった強力な競合車がひしめいています。その中で2代目オーリスは存在感のある外観デザインと内側に秘めた環境性能と快適性能をバランスよく融合させ、ライバル車を凌駕する性能に仕上がりました。
そんなオーリスの開発全体を指揮した末沢泰謙が、スポーツハッチバックという明快な個性に盛り込んだ2代目オーリスの環境性能を語ります。

プロフィール
オーリス開発責任者 末沢 泰謙
所属:製品企画本部ZE 主査
略歴:1991年トヨタ自動車入社。入社後、ボデー設計部で安全装備設計、内装部品の設計業務を経て、2001年製品企画部門に異動。2001年から3年半、TME(トヨタモーターヨーロッパ)に出向し、ヨーロッパ向け車両の商品提案や現地と国内との連携を図る業務を担当。帰国後、2009年より製品企画本部に配属となり、海外向けカローラの先行業務を担当。初代オーリスはマイナーチェンジより担当し、2代目は開発責任者として現場を指揮。​

欧州暮らしで向上した環境への意識

環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

私は1997年に欧州生産のカローラハッチバックのシート設計業務を担当し、その後2001年から欧州の現地事業統括会社TMEに出向し、家族とともに3年半を現地で過ごしました。私の環境に対する意識も欧州で過ごしたこの時期に大きな影響を受けたといえます。

欧州は環境意識が高く、クルマを取り巻く環境規制も厳しいものがあります。
家電などは質素で、駅の構内なども薄暗く、夜もネオンやライトアップなど過度に明るいところは一部の街中だけのものです。夜は暗くて当たり前、そんな風景が生活に根付いています。また、クルマ選びを政府が税制面で主導することでエコカーの普及促進を図っています。規制についてもEUでは、2012年から通称「130g/kg規制」と呼ばれるCO2排出総量規制がスタートしていますが、特に大きなボデーの高級車は低CO2排出エンジンなどの技術を積極的に取り入れていかなければ相当厳しい条件です。こうした政府のすぐれた支援プログラムも一人ひとりの環境意識を後押ししているのではないかと思われます。
欧州において環境は大きなトレンドです。大所高所の視点で取り組まれている大きな枠組みから個々の身近な生活にかかわる小さなことまで、誰もが環境を保全するということに対し自分ごととして受け入れる土壌がずっと前から出来上がっているのを感じます。そうした環境に対する当たり前の意識が現地での生活で私にも身についたという感じがします。

今回の2代目オーリスは、スポーツハッチバックという明快な方向性があります。環境性能とは真逆に感じられるかも知れませんが、スポーティなクルマをつくるためには空力などを考慮したデザイン、エンジン性能など多くの検討要因があり、それはどれも環境性能を高めるためにも必要不可欠な要因です。
​​モノづくりの原点ともいえる機能性を追求しスポーティさを表現した2代目オーリス。クルマ全体の上質感を高めることはあっても、そこに過度に何かを盛り込むという考え方はありません。明確な方向性に向かい課題をクリアする。その課題には必ず環境性能との両立という目標があり、その目標を達成するために今まで以上に一歩も二歩も前に踏み出し、自分たちが本当につくりたいもの、欲しいと思えるクルマづくりに挑むことができました。 その中で、環境性能を高めるという取り組みがごく自然に当たり前のこととしてできるようになったのは、欧州での生活が大きく影響しているのだと思います。

トヨタ唯一のハッチバックは環境意識の高い欧州で認知されたクルマ

オーリスはトヨタにとってどのような位置づけにあるクルマですか。

初代オーリスは世界累計販売台数113万台、うち欧州では約77万台が販売されました(日本は約10.7万台)。この数字は、ヤリス(日本名ヴィッツ)とともに欧州におけるトヨタ車販売台数の屋台骨を支える1台です。
欧州におけるトヨタ車の販売シェアはまだまだ小さいものですが、その中でオーリスがこうして欧州市場で受け入れていただけたのは、利便性や実用性はもとより、欧州のトレンドである環境性能の高さも寄与したのではないでしょうか。

欧州にはクルマをクラス分けする際、ボデーサイズとボデータイプを目安にしたセグメントという分類法が使われます。AからFまで6段階ある中でオーリスはCセグメントと呼ばれるクラスに属し、欧州では最も大きな販売ボリュームを占めています。
​オーリスのようなハッチバックは、以前は国内でも若い方を中心としたエントリーモデルとして見られていたのですが、近年のダウンサイジングの傾向に伴い、大きなクルマからこうしたハッチバックに乗り換えるお客様も多く、今ではますますCセグメントの市場規模が拡大しています。そのため競合車も多く、大激戦区と呼ばれるこのクラスで存在感を出すためにはあらゆる面で高レベルの仕上がりが要求されます。欧州は石畳の舗装環境に加え、都市部は狭い路地も多い。農業国であれば不整地のため悪路も多いうえ、背の高い欧州人のために広い室内空間も重要視されます。こうした条件をクリアしながら、環境性能も高いレベルで要求されます。また、厳しさを増すグローバル競争の中で生き残るためには、一目見てお客様に何かを感じていただけるインパクトが大切です。環境性能や快適性能をベースにクルマが本来持つ魅力『カッコよくて走りのいい一台』に焦点を当てたクルマ、それがオーリスです。

意匠と環境性能を両立したトヨタのクルマづくりの新機軸

オーリスの環境性能について教えてください。

2代目オーリスは、空力や衝突安全性能、居住性に配慮しながら、全長を30mm長く、全高を55mm低くして空力向上と低重心化を実現しています。
エクステリアは、低重心化とパッケージを活かすことによってダイナミックなデザインを実現し、同時に全高を下げたことで前面投影面積を小さくして空気抵抗を減らしています。 高剛性を維持しながら軽量化を実現するために、例えば前後ドア開口部の下側のサイドボデーパネルなどに980MPa級の高張力剛板を採用し、補強パッチの数を減らしたり、板厚を下げることで軽量化を実施しています。これによりボデーパネルでは6.3kgの軽量化に成功し、初代モデルに設定のあった樹脂製リアスポイラーは板金一体型とすることで0.8kgを軽量化しています。
軽量化は燃費の他に、資源の節約、運動性能や乗り心地の向上にもつながっています。
また、プリウスやアクアなど、空気抵抗の値が小さいトヨタ車に共通してみられるリア後端を削ぎ落としサイドを細く絞った角形形状は、車体後方の渦を車体から遠ざける手法ですが、この手法を2代目オーリスも取り入れています。ハッチバックスタイルの見せ場はリヤエンドのスタイリングです。エモーショナルなリヤ周りの造形と両立させるためには工夫が必要でした。オーリスのリアが削ぎ落としたように見えないのは、リアバンパーサイドとリフレクターランプの意匠を工夫したことによるものです。
また、床下には樹脂アンダーカバーの設定拡大などにより、空気抵抗を示すCd値は、1.5LのCVTモデルでは先代よりも0.1低い0.28、RSに関しては0.29を実現しており、これはCセグメントハッチバックではトップクラスの数値です。これも意匠と環境性能を両立した一例です。

板金一体成型のリアスポイラー

エンジンは1.5Lと1.8Lを設定していますが、新開発の1.5L・2WD車はエンジン圧縮比を上げて熱効率を高め、またバルブタイミングのさらなる最適化によるポンピングロスの低減を図るなど、さまざまな燃費改善、低フリクション化を実施して燃費を向上しています。 1.8L車はバルブマチックDual VVT-iを改良して吸・排気のバルブタイミングの最適化に加え、圧縮比の向上、フリクションの低減により高い動力性能と低燃費を両立しています。 さらに、オプション設定のアイドリングストップ機能を設定すると、1.5L・FF車はさらなる燃費向上により、「平成27年度燃費基準+10%」を達成しています。

【燃費比較】

​​​JC08モード 1.5L車
(アイドリングストップ機能付)
1.8L車
19.2km/L ​16.0km/L

資源にこだわった点は何ですか。

ラゲッジルームのパッケージトレイとデッキボードの材料に、軽くて強い植物原料由来のケナフを採用しています。ケナフは生育が早くCO2の吸収能力が高い一年草で、これにPP(ポリプロピレン)を混合した基材を成型し製品化しています。ケナフの成分は繊維質なので細かく粉砕したぐらいでは型内に流れず、また形状が複雑なため成型が難しいのですが、さまざまな工夫を重ね製品化することができました。パッケージトレイへの採用についてはトヨタ初の試みです。 さらに、カーペット下のかさ上げ材には、解体した使用済み車両のシュレッダーダストから再生した高性能再生防音材RSPPを採用しています。

ラゲッジルームでケナフを採用したパッケージトレイ(上)とデッキボード(下)​

オーリスはトヨタ車の新しいクルマづくりの象徴

オーリスのようなクルマは、トヨタのクルマづくりの新機軸として今後も増えてくるのでしょうか。

オーリスの車名の語源は英語の「Aura」からの造語です。独自のオーラを放ち、存在感のあるクルマになってほしいという想いから命名されました。
2代目オーリスはひと目でトヨタ車とわかるアイデンティティを備え、それに環境性能と走行性能を纏ったトヨタ車の新しいクルマづくりの象徴です。
​トヨタのビジョンの一つに『もっといいクルマづくり』がありますが、「誰のために、何のためにトヨタという会社が存在し、クルマをつくっているのか」、本来の使命がこの言葉には盛り込まれています。モノづくりへの信念を持って開発陣が自分達の意思を貫いて出来上がったクルマ、それが2代目オーリスです。そのためには環境性能や快適性能だけではなく、クルマはカッコよく走りもよくなければなりません。この単純明快なクルマ本来の魅力があってこそお客様に笑顔になっていただけるクルマをお届けすることができます。 スポーツハッチバックの新しい価値を提案した2代目オーリスのように、これからも時代の変化に合わせ、お客様に笑顔になっていただけるクルマづくりを続けていきたいと考えています。

[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road