レクサス NX 開発責任者に聞く(4/4) ― 日本発のプレミアムブランドとして ―
NXはレクサスのゲームチェンジャーになる
レクサスはジャーマン3などと比べると、まだまだ若いブランドです。だからこそ、いろいろと悩んでいるわけです。個人的意見ですが、それは決して悪いことではない。若者に悩みはつきものです。若いくせに変に大人びて、保守的であってはいけない。だからこそ、いろいろな車種でさまざまな挑戦をやっている。それぞれの車の個性が強くて、バラバラではダメですが挑戦の中で生まれた良いものは、できる限り速やかにブランドとして展開したりしています。つまり磨き上げている最中なんです。そして、長い目で見ると、きっと一貫したレクサスらしさというものが醸し出されてくると思っています。
大きな流れでは2011年発売のスピンドルグリルを採用したGSからレクサスは一皮むけて、変わってきたと感じています。いままではどちらかというと洗練されているけどおとなしいイメージだったレクサスが少し変わりはじめている。そこに、NEW FACEとしてNXが新たに投入される。だからNXはゲームチェンジャー(途中交代で試合の流れを一気に変えてしまう選手)にならなければいけない、というか、なりたい。
NXのデザインは内外装とも、かなり精緻な合わせを必要とします。部品の精度や組付け時の器用さが必要とされます。また、アウトサイドハンドルの照明、女性が片手で持つことができ、デッキボード下に収容しやすいトノボードの軽さ、片手でペットボトルのキャップを脱着できるカップホルダー、など細かなところにも拘りました。レクサスの根底にある“日本人“の細やかさや気配りを感じていただけたらと思います。他のブランドにはない“強み”だと思っています。
一方、走りにおいては少し走れば、あ、レクサスだな、と感じてもらえる、いわばレクサスの味を目指しました。もちろんSUVですから、セダンとまったく同列には比較できませんが、あるジャーナリストに試乗してもらったとき、「この車はSUVだけど、これまでレクサスのセダン群がやってきた走りの味をちゃんと継承していますね」と言われたときはすごく嬉しかったですね。NXには、日本発のプレミアムブランドを世界のお客様に届けたいという技術/生技/工場/営業メンバーの想いが詰まっているんです。
コーポレイトトヨタの中のレクサス
レクサスは努めてトヨタブランドと距離を置こうとしてきました。販売店もあえてトヨタブランドとレクサスのお店は離れた場所に作っています。再度、個人的な意見ですが、レクサスというブランドがぼんやりしている間は距離をおかないと、何がレクサスなのか説明してもご理解いただきにくい。どんなに私たちが拘って開発していても、目に見える部品がトヨタ車にも使われていると、トヨタ車だよね、と言われてしまう。
NXはRAV4やハリアーがベースではないのか、と思われている方もいらっしゃると思います。確かにNXはエンジン搭載方法やサスペンションレイアウトなどは実績のあるそれらの車を踏襲しています。つまり開発にあたってコーポレイトトヨタの中にある活かしたい部分は活用する。しかし、一方でプラットフォームから見直し、ボディ剛性を高め、トレッドなどの変更、専用サスペンションを新規に開発しブレーキサイズも大型化する等、そして、レクサスとしての走りの味を追求し、また、新装備も数多く採用しました。ターボエンジンはコーポレイトトヨタの技術力で性能、品質を造りこみレクサス車としての滑らかで爽快な加速感を追求しました。なぜならNXはレクサスとして見ている世界があるからです。見て、乗って、外観、佇まいやインテリアの雰囲気、動的性能はレクサスでないといけない。必然的にブランドとしてトヨタのそれであってはいけない。そしてそのために必要な開発は渾身こめておこないました。
もちろん、RAV4、ハリアーにもそれぞれの世界観がありブランドと個性を大事にしています。それぞれがいい車になっている。そしてコーポレイトトヨタとしてはお客様に選択枝をご提案しているわけです。
レクサスは確実にブランドとして自立しようと頑張っています。レクサスというブランドが、その味が、良さがもっとはっきりしてくると同時に、トヨタ車はトヨタブランドとして魅力的な車が増えてくればその時には、コーポレイトトヨタの技術力と品質や信頼性をバックにしたレクサスブランドは、もっと輝けると思います。
実際、ロシアではトヨタのお店とレクサスのお店を並べて作ります。それは、ロシアにおいてはランクルなどがけん引したトヨタブランドイメージがとても良く、レクサスはトヨタ発のプレミアムブランドだからこそ、必然的に高い信頼性の上に成り立っているとロシアの人たちは思っているからです。
無論、お店づくり、車自体は、レクサスはレクサスです。これってもしかしたら、理想的な姿なのかもしれません。
お客様のライフステージに残る車
最後に、僕たちが若い頃、愛車としていつも一緒にいた車、欲しかったけど買えなかった車、振り返ってみれば、いつの時代にもその時代を代表し、その車を見れば、必然的にその時代を思い出すような、人それぞれにそんな車があると思います。
僕はNXをそんなお客様のライフステージに残る車になってほしいと願って開発をしてきました。「ブラジルのワールドカップが終わった頃、ちょうどあの頃にNXはデビューしたんだよね」。「あの時代は30代でバリバリ働いていたときで、その自分へのご褒美として、欲しくて欲しくて、背伸びして購入したんだよなあ」。
そんな風に、数十年後に時代の思い出とともに語られる車であって欲しい。それが初代チーフエンジニアとしての僕の切なる願いです。
そして、いま購入される方たちにはいい意味で予想を裏切りたい。カッコいいから購入してみたら、走りもすごく良くて驚いた。数日間、走ってみたら燃費も悪くない。さらに、いままで気がつかなかったけど、こんなところにまでこだわりが伺える。購入してからも、何度も新しい発見があり、感動し、満足していただける車になったと自負しています。ぜひ、実車でご確認ください。
取材・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)
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