トヨタ、ヴォクシー/ノア 開発責任者に聞く(1/4)
Spacious FUN Box
~家族の夢を丸ごと載せる、Fun、Utility、Nenpiの良いハコ~
初代ヴォクシー/ノアが誕生したのは2001年。前身はライトエース・ノア/タウンエース・ノアという名前でネッツ店、カローラ店で販売していたワゴンだが、室内空間を広げ、低床化するために、FRからFFに駆動方式を転換。5ナンバーのコンパクトなサイズながら広い室内空間を実現し、両側スライドドアを採用したミニバンとして開発された。基本的に中身は同じクルマだが、カローラ店(ファミリー層が中心)とネッツ店(単身者や個性的なライフスタイル重視の若者層中心)の販売チャネルの特性に合わせて、外装や内装のデザインを変えることで、ノアはファミリー向けに親しみやすく、一方、ヴォクシーはスポーティーでクールなイメージで、それぞれがマーケティングを含めて異なるポジショニングの別のクルマとして訴求された。また、それぞれ5ナンバーの標準ボディの他に、純正エアロパーツ標準装備が特徴のエアロボディが設定されていた。その結果、それぞれが価値観の違うお客様に支持され、トータルではこのクラスで大きなシェアの獲得に成功した。
この成功事例を受けて、後にアルファードから意匠を変えてヴェルファイアが誕生したり、特別装備でドレスアップする人気のスポーツモデルグレード「G SPORTS(G's)」が最初に設定されたのがヴォクシー/ノアだったりなど、このクルマは常に革新的なチャレンジに取り組み、マーケティングも含めて新しいクルマづくりの道を切り拓いてきた。そして、2007年のフルモデルチェンジを経て、2014年1月に3代目となるヴォクシー/ノアが誕生する。
その開発を担当した水澗英紀チーフエンジニアに開発に込めた想いや開発秘話をインタビューするべく、トヨタテクニカルセンターを訪ねた。
ヴォクシー/ノアの他、エスティマやアイシス、ウィッシュなども直接担当し、国内ミニバンの第一人者である水澗氏からはミニバンという市場の特性の他、「ネガティブを潰しただけではヒット商品は生まれない」「本当の競争相手は他メーカーではなくお客様」といった示唆に富む話を聞くことができた。
水澗英紀(みずま ひでき)
1961年石川県生まれ。横浜国立大学 工学部を卒業後、1985年トヨタ自動車入社。主に実験部にて車両の機器、強度等の評価を担当し、車両実験部信頼性実験室長を経て製品企画本部へ異動。製品企画では先代から今回の新型まで2代に渡ってヴォクシー、ノアの開発に携わる。エスティマ、アイシス、ウィッシュ等も手掛ける国内ミニバンの第一人者。
お客様の期待を超える“WAO!”を追求
新人時代から現在の製品企画の部署に異動するまでの大半は実験部にいました。私が入社した80年代にはコンピューターによるシミュレーションはまだありません。ですから「クルマの性能を良くするのは実験だ。クルマの性能は実験部で決まる。」。そんな気概で仕事をしていました。当時の実験部は「性能を守る」というより「性能を良くする」ということが大きなミッションでした。
「性能を向上させるにはどうしたらいいのか?」を考え、仮説を立て、設計と一緒になってチャレンジする。実験部は設計とイーブンの関係で話し合いながら、ケースによっては実験部が主導で開発を進め、トライ&エラーを繰り返しながら性能を高めていきました。また、当時は組織も小さく、若手を育てながらチャレンジする余裕もありました。失敗を恐れずにトライをすることができ、そのときの経験と知見、ノウハウはいまでも大変役立っています。とても恵まれていたと感謝しています。近年はコンピューターが発達し、シミュレーションができるようになって、実験部の役割は性能を上げることより、性能や品質が目標に到達しているかを確認/評価することに主眼が置かれるようになりました。ややもするとマル(合格)かバツ(否)を判断する審判役になってしまう。しかし、それではクルマは進化していきません。
私は実験部出身者として、つねづね実験部のメンバーには「マルとかバツという表現は使わないで!」と要望しています。評価の結果だけでなく「どういうメカニズムで何が起こっているのか?」という技術論を語ってほしい。時代が変わり、仕事のやり方が変わったとしても、それが実験部の仕事です。審判じゃなくてプレーヤーでいてほしい。これは製品企画の仕事でも同じです。開発プロセスを効率化しようとすれば、過去の知見やノウハウに頼り、ジャッジメントの仕事が増えます。しかし、それではいいクルマは作れません。やはり、仮説を立て、チャレンジすることが重要です。
新型ヴォクシー/ノアの開発は、お客様のニーズを満たす(マル)だけでなく、徹底的にこだわり、納得いくまでトライ&エラーを繰り返し、お客様の期待を超える“WAO!”があるクルマ、最高のミニバンを追求するチャレンジそのものでした。
お客様目線に立った開発
製品企画の部署に異動したのは2006年1月です。伊勢清貴エグゼクティブ・チーフエンジニア(現在はレクサスインターナショナルのプレジデント)の下で開発主査として、2代目ヴォクシー/ノアの開発を担当しました。入社してすぐ仮配属されたシャシー設計部ではヴォクシーの前身にあたるライトエースのトラックを担当していましたし、正式配属された実験部ではライトエースの車両担当をしていたので異動の内示を受けたとき「もしかしたら…」と思いましたが、その予感が当たりました。
そして、1年半後に2代目ヴォクシー/ノアが発売となった後、引き続きチーフエンジニアとして3代目の企画からフルモデルチェンジを担当することになりました。同じクルマを2世代続けて担当できたので、燃費性能の向上を図るために新しく採用したバルブマチック可変バルブ機構をつけたエンジンやワンタッチで折り畳みから跳ね上げまでできる世界初のワンタッチスペースアップシートなど、自分たちが2代目のモデルチェンジでやったことがお客様にどう評価されたのか?その反応を見ながら、マーケットで必要なこと、ステップワゴンやセレナといったライバル車の動向や強み、弱み、そして技術的な課題などすべてを十分に理解した上で、企画に入ることができました。
お客様や市場のことは熟知している。少なくとも、このクラスのミニバンに関しては誰よりも知っているという自信がありました。また、プライベートでエスティマを2代乗り継いで、ミニバンで子育てをしてきた経験もありました。だからこそ、新型の開発企画で一番大切にしたことは「お客様が求めることを徹底的に高めよう」ということです。開発コンセプトは「Spacious FUN Box ~家族の夢を丸ごと載せる、Fun、Utility、Nenpiの良いハコ~」。それはすなわち、運転の楽しさ、快適で広い室内、使い勝手、そしてエコ性能を極めたミニバンです。
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