ヴォクシー/ノア 開発責任者に聞く(4/4) ― 家族の願いを叶える ―

驚異の低燃費

メーターの配置やインパネの形状を工夫し広い視界を確保。ボンネットフードまで見え、狭い道も安心。
使い勝手がよく、視覚的にも洗練されたオープントレイと上下の収納ボックス。

3つ目の“WAO!”は、子育てファミリーにも手が届く、クラス初の本格ハイブリッド投入と、クラストップまで大幅に向上したガソリン車燃費です。燃費の絶対値でいえば、アクア vs フィットHVのような高次元の競争ではないかもしれませんが、このクラスでも燃費競争は熾烈です。つねにモデルチェンジ、マイナーチェンジしたクルマが首位に立つ。数年前までは11km/L前後のレベルでの競争だったものが、モデルチェンジ/マイナーチェンジの度に抜きつ抜かれつした結果、今回の新型ヴォクシー/ノアではバルブマチック付エンジンとCVTの改良、加えてアイドリングストップ機能を新設定し、ガソリン車でJC08モード16.0km/Lにまで到達しました。

さらに、パワーユニットの選択肢としてハイブリッドも設定。1.8Lのプリウスαのハイブリッドユニットを移植することにより、燃費が良く、安価で本格的ハイブリッドをスリムに開発して提供。JC08モードで23.8km/Lというダントツの燃費を実現しています。この他にも、乗り心地を良くするために、スポット溶接の打点を180点も増し打ちしました。また、メーター配置やインパネの形状を工夫して、運転席からの前方視界を良くし、さらに、フロントピラーをスリム化し三角窓を大きくして運転視界を大幅に向上させるなど、ミニバンに求められるものを徹底的に良くしていったチャレンジは枚挙にいとまがありません。

ユニークなチャレンジとしては消臭機能付きシート表皮があります。従来の消臭シートは生地に付着させた活性炭が臭いを吸着するものですが、それだと効果が長続きしません。今回採用した新消臭シートは吸着した臭いをイオンの力で瞬時に分解することで長い期間効果を維持することができます。これは表皮メーカーが大学病院からの依頼で開発した医療用消臭下着の生地の技術を頼み込んでクルマに転用したものです。車内で食べ物を食べたり、赤ちゃんの世話をしたり、ペットが乗ったり、さまざまな臭いが車内にこもりがちなミニバンにピッタリのチャレンジだと思います。しかも、特別な消臭装置ではなくシートの表皮でやれば、コストも安いし、効果も継続し、交換などメンテナンスも不要です。バリューフォーマネーを重視するヴォクシー/ノアのお客様のニーズにもマッチしています。

また、低床化で大きくなり、さらに全長が伸びたことで、駐車場での開閉が困難になるケースが予想されるバッグドアの開閉にアームヒンジを採用し、回転の中心を前に持っていくことでその問題を解消しました。このチャレンジなどは気づかないお客様もいる、裏方的な工夫かもしれません。しかし、それによって助かるお客様がいる。そう思えばこそ、開発の途中で一度は断念しかけましたが、こだわり抜いて、なんとか実現しました。そんなところにまで心を配って開発しています。

メーターの配置やインパネの形状を工夫し広い視界を確保。ボンネットフードまで見え、狭い道も安心。
使い勝手がよく、視覚的にも洗練されたオープントレイと上下の収納ボックス。

家族の普遍的な願いを叶えるクルマ

真剣に、そして楽しそうに開発にこめる思いを語る
水澗(みずま)チーフエンジニア。

ここ数年を振り返ってみると、経済危機や震災など、私たちを取り巻く環境の変化は生き方や価値観までも変えてしまいました。新型ヴォクシー/ノアはちょうどそのような時期に開発を進めてきました。想像を超える時代の激流の中で、お客様がクルマに求めるモノはどう変わっていくのか…。それでも自信を持って「変わらない」と確信を持ったモノがあります。それは『家族の絆を大切にする心』と『自由に快適に移動したいという願い』です。

ヴォクシー/ノアがこれまで多くのお客様に支持されてきた理由は、まさしくこの普遍的な願いを叶えるクルマだったからだと思います。そしてそれは、これからの未来においても、ずっとずっと変わらず大切にされ続けるに違いありません。

ミニバンは90年代にブームとなり、一部ではガラパゴスと揶揄されるほど、日本独自で進化し、普及しているクルマです。では、なぜ日本ではミニバンが売れるのか? その理由のベースにあるのは、これまで説明してきたように、ミニバンは家族のためのクルマであり、広い室内空間、乗降性や使い勝手の良さなどが高く評価され、子ども連れの外出がお母さんの負担にならない。子どもが嫌がらない。といったことが上げられます。

そして、日本にはショッピングセンターやレジャーランドなど、子どもと出かけるスポットが海外に比べ非常に数が多く、内容が充実していること。さらに、高速道路やバイパスなど道路網が発達し、ワインディングロードや山道を通らずに、どこでも快適に行ける。ナビがあれば道を知らなくても到着できるし、オートマなので高度な運転技術も必要ありません。スポーツカーで行って楽しいのはドライバーだけです。でも、ミニバンだったら家族全員が楽しく快適に移動できます。そして移動時間中もコミュニケーションが楽しめます。

「クルマはその国の文化や道がつくる」といいます。ミニバンはまさしく、家族の絆を大切にする日本の文化と街や道路環境が作ったクルマです。また、逆にミニバンが普及していくことによって、家族の絆が強くなり、家族でのお出かけが増えることでお出かけスポットが充実し、街や道をつくっていく。そうした相乗効果で進化してきました。ですから今後、成長が著しいアジア諸国を中心に同様に普及していく可能性は十分にあります。このクラスのクルマをガラパゴスにするのではなく、日本発のスペースオリエンテッドのクルマとして、他社メーカーと切磋琢磨して、いいものにしていくことが大事だと思います。もちろん、絶対に負けたくはありません。

新型ヴォクシー/ノア​ではミニバンに求められるモノを徹底的にこだわって良くした自負があります。ミニバンの進化を活性化する一石を投じる数々の“WAO!”。それは気持ちとしては、他メーカーやお客様への、トヨタからの挑戦状です。ぜひ、実車を見て、試乗してそれを体感していただきたいと思います。

真剣に、そして楽しそうに開発にこめる思いを語る
水澗(みずま)チーフエンジニア。