ポルテ開発責任者に環境性能への想いを聞く 鈴木 敏夫

2012年7月、すぐれた乗降性と居住性が魅力のポルテが新しくなって登場しました。フランス語で「扉」の意味を持つポルテは、国内ではプチバンと呼ばれるカテゴリーに属し、コンパクトサイズに大きなスライドドアを特長としています。2004年の誕生以来、子育てファミリーやシニア層からたくさんの支持をいただき、息の長い商品としてご好評いただきました。

一方、国内では震災や節電などを経験することで、個人・社会全体が今までにないほど、エコに配慮した生活習慣への見直しや、資源に対する節約意識の高まりなど、人々の価値観や意識に変化が生まれています。こうした環境では、コンパクト車はこれまで以上に重要な役割を担い、市場でもよりエコノミーかつエコロジー、そしてダウンサイジングがクルマ選びの主流の考え方となっています。​

初代ポルテは使い勝手では非常にお客様の満足度が高い商品でしたが、燃費性能に関してはユーザーの皆様から改善点としてご指摘いただきました。初代の好評点を強化しつつ、環境性能に代表されるお客様ニーズに最大限お応えしたクルマ、それが2代目ポルテです。そんなポルテを開発責任者として陣頭指揮したのは、多くのコンパクトカーの開発に携わってきた鈴木敏夫。その鈴木が、「究極のスライド2BOX=安心・快適・使い勝手No.1」をコンセプトとするポルテの環境性能を語ります。

プロフィール
ポルテ開発責任者 鈴木 敏夫
所属:製品企画本部ZP 主査
略歴:1984年トヨタ自動車入社。入社後、エンジン開発部署で、主に直列4気筒のS型エンジンを担当。その後、初代プリウスの開発に参加し、エンジンとハイブリッド制御を担当。2000年に製品企画部門に異動し、プロボックス/サクシード、グローバル展開したベルタ(ヤリスセダン、ヴィオス)、シエンタ、パッソなどの企画・開発を担当。2009年より新型ポルテ/スペイドの開発を指揮。

コンパクト車に長く関わった経験を活かし、ハード面とソフト面から環境配慮

環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。

私は長くエンジン開発に携わってきました。1997年12月に発売した初代プリウスの開発でもエンジンとハイブリッド制御を担当し、それからはずっとコンパクト車を中心に手がけてきたので、コンパクト車の使い勝手とともに環境の取り組みや燃費については、その重要性をよく理解しているつもりです。
たとえばベストセラーと呼ばれたエンジン「3S-FE」の開発にも携わりましたが、これはトヨタのベースエンジンを初めて4バルブ化し、コンパクトながら低燃費、低環境、ツインカムを実現したものです。カムリをはじめ、カリーナ、コロナ、ビスタ、セリカ、RAV4など多彩な車種に採用され、お客様にも好評を得ました。
初代プリウスのエンジン、ハイブリッド制御については、環境、燃費一色と言っていいほどの開発プロジェクトだったので、とことんその性能を突き詰めました。ですからスペイドのようなコンパクト車でありながらボリュームのあるクルマでも、徹底して燃費性能を追求しています。​

クルマサイドの環境性能がハード面の取り組みであれば、ソフト面でできる環境対応にも力を入れてきました。「開発段階でやり直しを極力少なくすること」がそのテーマです。やり直しが少なければ試験車や試作車の製作が少なくなります。余分なものを作らなくて済むので、時間も資源もムダが出ない、つまり、効率的なモノづくりによる環境にやさしい開発と言えます。
それに私は自然が好きで、釣りや海や山に足を運んだりします。自然にクルマが協調する風景がとても好きなので、いつも海や川を汚したくない、魚や自然の木々のために環境を守りたいということを考えています。人とクルマが自然と共生できる、そんなモビリティ社会実現の一翼を担っていきたいと考えています。

使い勝手と環境性能を両立した究極のスライド2BOX

使い勝手を優先したパッケージは燃費にどのような影響を与え、どのような工夫で燃費を向上させていますか。

とにかくこのクルマは使い勝手命のクルマなので、燃費を向上させるには不利な条件が多いことは確かです。
たとえば、どのくらい空気がスムーズに流れるかを表す指標に空気抵抗係数「Cd値」といものがあります。数値が低いほど燃費に好条件となるのですが、スペイドは、初代ポルテと比べ全高を30mm下げたり、ルーフ後方4分の1を緩やかに下げた形状で空気の流れをスムーズに流したり、床下の空力パーツの設定などにより、空気抵抗値を初代の0.31から0.29に低減しています。もちろん室内高は従来とほぼ同等の1,380mmを確保しています。アルファード/ヴェルファイアの室内高が1,400mmなのでどれほど頭上に大きなゆとりがあるかがおわかりいただけると思います。ちなみにフロアの高さは300mmで、これは車種により異なりますが、出入口の段差を無くし乗降を容易にしたノンステップバスと同じかそれより低い値です。これがもし350mmの高さになると乗降性や実用性は全く違ったものになります。こうしたお客様の使用シーンの徹底研究は、ビジネスユースにおける使い勝手の良さを徹底的に追求した10年前のプロボックス/サクシードの開発時にも学んだことです。
すぐれた空力性能は燃費だけでなく直進安定性にも有利なので使い勝手と環境性能を両立した一例です。

空気の流れをスムーズに後方へ流す後端形状

エンジンは1.3Lと1.5Lをご用意しています。
現行の11代目カローラと同じ展開で、1.3L車は、吸・排気バルブの開閉タイミングを最適にコントロールするDualVVT-iを採用し、低中速域でのトルクと高速域での出力の向上を両立するなどして燃費向上を図り、街乗りでの実用性を高めています。
1.5L車は、初代モデルに搭載されていたエンジンをベースに、燃焼改善・低フリクション化を行い、出力・トルクを維持したまま、大幅な燃費向上を実現しています。また、4WDは、4輪駆動で走行している場合も、通常走行時には前輪駆動に近い状態で走行することで燃費向上に貢献しています。
全車に搭載した小型・軽量化したSuperCVT-iは、常に効率の良いエンジン回転数をキープし、エンジンとの統合制御でクラストップの低燃費を実現しています。また、エンジンのアイドリングを自動的にストップする「アイドリングストップ機能」は、信号待ちの多い市街地燃費に大きく貢献します。
いつもと変わらない運転で簡単に低燃費を実現するシステムも、お客様の使い勝手と環境性能を両立した1つの結果だと思います。

信号待ちや渋滞で、ムダなガソリンを節約できる “SMART STOP”

軽量化の取り組みは、生産技術の向上とともに、高グレードの高張力鋼板(ハイテン材)をボディシェルの約43%に使用し、軽量化と剛性、それに快適性につながる遮音性も高めた骨格でクルマ全体のバランスをとっています。新しくなったポルテは、エンジンやプラットフォームが新しくなり、CVT投入に加え、安全面から横滑り防止装置のVSCを全車標準としながらも、軽量化の取り組みにより、初代よりも車重を10~30kg増に抑えています。軽量化は燃費の他にも、資源の節約、運動性能や乗り心地の向上にもつながるので、環境の視点だけでなく、クルマを開発するうえでとても重要な取り組みなのです。

こうした数多くの努力を積み重ね、アイドリングストップ機能を搭載した1.5L車の燃費はJC08モード20.6km/Lで初代と比べ約41%向上、1.3L車もJC08モード19.6km/Lで約31%燃費が向上しています。1.5Lはエコカー減税75%に適合し、1.3L車もエコカー減税50%に適合しているので、環境にも家計にもやさしいポルテはいろんな意味で生活に密着したやさしさで包まれたクルマだと思っていただけるのではないでしょうか。​​

良品廉価を追求し、お客様の期待に応える

ハード面の環境対応以外に、ソフト面で工夫したことはありますか。

最後に、新しくなったポルテは新しい購入方法を提案しています。グレード別の仕様だと選択肢が少なく、欲しい装備とそうでない装備がパッケージされているため、ムダで割高に感じるというお客様の声をいただいていました。今回、カラー、シートタイプ、装備などバリエーション豊富なパッケージオプションから、お客様がニーズに合う仕様をお選びいただけるようになりました。ベース車を設定し、必要なものを必要なだけご購入いただくという購入方法は、私たちの「良品廉価」の考え方に通じるものです。

また、初代ポルテは8年間にわたり販売を続けたモデルライフの長いクルマでした。それは根幹にあるこのクルマのユニークさと、使うほどに便利さを実感いただけたキャラクターが支持された結果だと思います。必要なものを必要なだけつくり、そして長く使っていただくということは、これもムダを出さずにモノを大事にするという点で環境へ貢献するのかもしれません。

お客様の期待を超える「もっといいクルマ」づくりで持続的成長を目指す

ポルテのように「使い勝手命」というようなクルマは、トヨタのクルマづくりの新機軸として今後も増えてくるのでしょうか。

使い勝手No.1を目指したポルテは、環境性能をすべて盛り込んだアクアや走る楽しさを徹底して追求した86(ハチロク)とともに、次の変化を予測した新しいトヨタを象徴するクルマといえます。

クルマへの期待は時代とともに常に変化しています。所有する喜びであったり運転する楽しさへの期待、環境性能への期待など、お客様の価値観は多様化しています。時代を変えるのはお客様です。お客様にしっかり目を向け、耳を傾けることで変化への対応が可能となり、私たちは目に見えるものだけでなく次の変化を予測する力が必要とされます。お客様に喜んでいただける「いいクルマ」をつくり続けることが未来を切り拓いていく道であり、トヨタはそれを信念に、お客様によって異なるニーズを満たし、満足していただけるクルマをつくり続けます。

そんなことを考えていると、使い勝手No.1を目指した新しいポルテは、今回の環境性能が加わったことで、もしかしたら初代よりももっとモデルライフの長いクルマになるかもしれません。

[ガズ―編集部]