パッソ開発責任者に環境性能への想いを聞く 鈴木 敏夫
パッソはイタリア語で「ステップ、足音」を意味し、「気軽に乗れる、軽やかなクルマをイメージ」してネーミングされました。2004年に発売した初代のコンセプトは「マイ・パートナー・コンパクト」。ヴィッツよりも全長は短く、軽自動車に極めて近いサイズながら室内は広く、個性的なスタイル、高いユーティリティで、毎日の暮らしのパートナーとして活き活きとしたカーライフを提案するクルマでした。
2010年に現行の2代目にモデルチェンジし、初代パッソで好評を博した、扱いやすいコンパクトなボディーとゆとりの室内空間、同排気量クラストップレベルの燃費・環境性能といった魅力に磨きをかけ、一層の進化を遂げました。
2014年4月、販売5年目に向けて、エンジンを部品レベルから徹底して磨き抜くなどして燃費性能を中心としたマイナーチェンジを実施。1.0L・2WD車モデルで、JC08モード燃費はマイナーチェンジ前の21.2km/Lから27.6 km/Lと約30%向上しました。
そんなパッソの設計・開発の責任者として、現場の指揮を執り続けたのは製品企画本部主査の鈴木敏夫。多くのコンパクトカーの開発に携わってきた経験を活かし、トヨタのエントリー車ともいえるパッソの環境性能を中心にクルマづくりを通じた社会への貢献についてその想いを語ります。
プロフィール(2012年1月取材)
パッソ開発責任者 鈴木 敏夫
所属:製品企画本部 主査
略歴:1984年トヨタ自動車入社。入社後、エンジン開発部署で、主に直列4気筒のS型エンジンを担当。2000年に製品企画部門に異動し、プロボックス/サクシード、グローバル展開車ベルタ(ヤリスセダン、ヴィオス)、シエンタ、スペイド/ポルテなどの企画・開発を担当。2008年よりパッソの開発を指揮。
コンパクトカーが担う、ハイブリッドでも軽自動車でもない新しいエコカーの領域
環境の世紀ともいわれる21世紀において、環境対応をどのように捉え、開発に取り組んでいますか。
トヨタ車のエントリーモデルともいえるパッソは2004年にデビューしたコンパクト2ボックスカーで、小型サイズで取り回しが良く、最もお求めやすい価格設定がされたクルマです。
現在、国内では新車販売台数の約4割を軽自動車が占め、普通車販売台数のクルマのタイプもここ数年はハイブリッド車とコンパクトカーが人気です。こうした中、パッソは、軽自動車との接点となる登録車として、ファミリー層、シニア、新社会人など幅広い層に、利用シーンも日常用途から休日の外出まで幅広い用途に使われる重要なポジションを担っています。
私は製品企画部門でずっとコンパクト車を中心に手がけてきたので、コンパクト車における燃費を中心とした環境性能の重要性をよく理解しています。
今回、さらなるうれしさを加えて進化したパッソの開発ポイントの一つを、「環境もお財布も、両方を真剣に考えたコンパクトカーの新提案」と紹介していますが、これはトヨタ車のエントリーモデルとしてたくさんのお客様にお買い求めいただくクルマだからこそ、環境にやさしく低燃費で乗りやすく、かつ快適でなければいけないという意味です。ハイブリッドシステムのような飛び道具はありませんが、激化するコンパクト車競争の中で存在感を発揮するため、一つひとつの低燃費技術を結集し、1.0L・2WD車は「ガソリン登録車No.1」の低燃費を実現し、エコカー減税100%(免税)を達成しています。
燃費性能はランニングコストに直接影響しますが、お客様はクルマをお買い求めになる時、少しでもお得に購入できるよう取得時の税金も大変気にされます。
お買い求めいただく際に少しでもお得に、そしてクルマが走っている時は環境にやさしく、それでいて燃費や維持費の経済性の点でもすぐれたパッソは、トヨタのエントリー車ながら、ハイブリッド車でも軽自動車でもないトヨタの新しいエコカーとして、その存在感をより一層高めていくのではないでしょうか。
1.0Lモデルのエコカー減税適合
| マイナーチェンジ後 | マイナーチェンジ前 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
アイドリング ストップ機能 |
JC08 モード (km/L) |
自動車 取得税 |
自動車 重量税 |
自動車 グリーン 税制 |
JC08 モード (km/L) |
自動車 取得税 |
自動車 重量税 |
自動車 グリーン 税制 |
|
2WD | ○ | 27.6 | 免税 | 免税 | 75%減税 | 23.0 | 75%減税 | 50%減税 | |
× | 23.4 | 80%減税 | 75%減税 | 50%減税 | 21.2 | 50%減税 | 25%減税 | ||
4WD | × | 21.0 | 60%減税 | 50%減税 | - | 19.0 | - | - |
一つひとつの低燃費技術の結集によって実現した「ガソリン登録車No.1の低燃費」
パッソの具体的な環境性能について教えてください。
パッソは1.0Lと1.3Lエンジンをラインナップしていますが、今回、販売台数の9割以上を占める1.0Lエンジンを部品レベルから徹底して磨き抜き、一層の燃費性能を追求しました。
具体的には、圧縮比の向上、低フリクション化、バルブタイミングの最適化を図ったほか、クールドEGR、エキゾーストマニホールド一体型シリンダーヘッドの採用により、最大熱効率37%を達成し、併せて、アイドリングストップ機能や様々な低燃費技術によって、従来型比最大約30%の燃費向上を実現しています。
トヨタのエンジンの考え方の基本は、「一滴の燃料を、いかに効率よくエネルギーに変えて多くの仕事をするか」です。ガソリンが燃焼する際に発生するエネルギーのうち、動力として使えるのはほんのわずかなため、今回、改良した1.0Lエンジンでは、ハイブリッド車などにも使われる技術を搭載し、かつ緻密な改善をひたすら積み重ねることでこの損失を減らし、エネルギー効率を最大限に上げることで大幅な燃費向上を実現しています。
進化した1KR-FEエンジン
少ない燃料で大きなエネルギーを得る 圧縮比アップ |
熱効率を高めることで燃料をムダなく使うことができ、その有効手段である圧縮比を高めてパワーや燃費を向上。但し、圧縮比を高めると燃焼室内でノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなるため、燃焼室周りから熱を取り除く冷却の取り組みを強化。 |
---|---|
燃焼効率を高めて燃費を良くする 吸気ポート・燃焼室形状の最適化 |
シリンダー内に強いタンブル流(タテ回転の混合気の流れ)を生成する新形状の吸気ポートを採用し、さらにピストン頭部の表面をなだらかにすることで燃焼室内の気流を最適化。これによって燃焼効率を向上。 |
燃焼の改善やポンピングロスを低減する クールドEGRシステム |
高温の排出ガスの一部を冷却して吸気側に再循環させるクールドEGRシステムを採用。低温化した際循環ガスが燃焼室の燃焼温度を下げることで、高圧縮比化にともなうノッキング抑制とポンピングロス低減を実現。 |
エンジンからより多くのエネルギーを取り出す バルブタイミングの最適化 |
VVT-iによって吸気バルブの閉じるタイミングを遅らせてアトキンソンサイクル効果を発揮。運動エネルギーを生み出す膨張工程を大きくすることで、より少ない燃料でより多くのエネルギーを取り出す。 |
触媒の暖気性を向上させる エキゾーストマニホールド 一体型シリンダーヘッド |
触媒の早期暖機効果をもたらし、エンジン始動時の燃費向上を実現。また、高付加域での燃料消費量低減に貢献し、実用燃費向上に効果を発揮。 |
エンジン部品間で生じる摩擦を抑える フリクション低減 |
金属同士で接する面を平滑に仕上げたり、特殊なコーティングを施すなど、細部にわたってエンジン内部のフリクション(摩擦損失)を徹底的に低減。、可動をよりスムーズにすることで、エンジン性能を最大限に引き出す。 |
エンジンだけで30%の燃費向上ができたわけではありません。細かな積み重ねが必要です。アイドリングストップ機能が進化したことも燃費向上に大きく貢献しています。
これまでのアイドリングストップ機能は、信号待ちや一時停止時に、つまり時速0kmになった時点でエンジンのアイドリングを自動的にストップしていましたが、進化したこの機能は、エンジン停止のタイミングを、停止直前(時速約9km/h以下)からストップするように変更することで、より長くエンジンを停止させることでムダなガソリン消費を抑えることができるようになりました。
これはトヨタ初の技術で、一部のモデルを除く1.0L・2WD車に標準装備しています。
【小型・軽量化の一例】
空力性能については、フロントまわりやリアコンビネーションランプの形状を変更したり、リアスパッツを追加するなどして空気抵抗を低減しています。また、床下の気流を整流するなどして燃費向上に貢献しています。
また、実燃費に寄与する仕様変更として、フロントドアガラスを従来の紫外線カットの仕様に加え、暑さの原因となる「赤外線」もカットできる仕様としました。これは「スーパーUVカット・IRカット機能付グリーンガラス」と呼ばれ、特に夏場の直射日光による肌への不快なジリジリ感を軽減するとともに、車内の温度上昇を抑え、エアコンの負荷を軽減して燃費向上に貢献することができます。
そもそも「スーパーUVカットガラス」というのは、日焼けの原因となる紫外線を99%カットするもので、女性ユーザーが欲しいアイテムのダントツNo.1だった「日焼けしないガラス」を実現したものです。このガラスについては、私自身がガラスメーカーに何年も足を運んで開発してもらったもので、なかなか実現までのハードルが高く、時間もかかりました。しかし、商品価値の高いこの仕様を少しでも早くお客様にお届けしたい要望をガラスメーカーに伝え、2012年に初めて採用することができました。
その他にも、燃焼効率のアップに貢献する「吸気温度の低減」や、減速エネルギーをバッテリーに蓄える回生機能の強化、低転がり抵抗と高いグリップ力を両立した新開発タイヤを一部のモデルを除く1.0L・2WD車に標準装備するなど、様々な低燃費技術を積み上げることで1.0L・2WD車は「ガソリン登録車No.1」&「免税」を実現しています。環境性能の向上という意味では、モデルチェンジに匹敵するほど多様な取り組みをやってきましたが、こうした取り組みのどれが欠けても、従来型比最大約30%の燃費向上は達成できませんでした。
たくさんお求めいただけるクルマこそ、環境性能の向上で大きな効果が期待
軽自動車との接点となる登録車として、パッソが担う環境側面の役割について教えてください。
パッソは、トヨタ車のエントリーモデルのコンパクトカーということで、サイズ、燃費、維持費という点でどうしても軽自動車と比較されることが多くなります。
マイナーチェンジによって環境性能が大幅に向上したパッソは、取得税・重量税はハイブリッド車や軽自動車と同様の免税・減税レベルとなり、燃費もガソリン登録車No.1を実現したことで、軽自動車の量販モデルと比べても大差はありません。車両本体価格も売れ筋の軽自動車とほとんど変わらない価格設定をしているので、本当にお客様がお求めになる装備や使い勝手という点でお選びいただけるようになったのではないでしょうか。
今回、低燃費を支える技術には、ハイブリッドなどにも使われる技術が搭載されています。それは、トヨタがハイブリッド車を世に送り出してきたエコカーの先駆者としての責任であると同時に、エコカーの開発にはその時点でベストと思われる技術を発展・拡充していく必要があると考えているからです。
エコカーは普及してこそ環境へ貢献することができます。そういった意味では、たくさんのお客様に乗っていただけるパッソが環境性能を向上すれば、より大きな効果が期待できます。
これからもお客様にお選びいただけるクルマになるために、圧倒的な環境性能とコンパクト車の使い勝手をより高いレベルで両立させることを目指して開発を進めていきます。
[ガズ―編集部]
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