ヴィッツ開発責任者に環境性能への想いを聞いた 橋壁 清史
1999年にデビューしたヴィッツ。初代、2代目は、多くの女性ユーザーに支えられてきました。2000年代に入り、次第に所有車のダウンサイジングが進み、男性もコンパクトカーに乗るケースが増えるようになり始めました。こうした背景のもと、2010年にモデルチェンジした現行モデルは、初代、2代目の丸みがかったスタイリングはエッジの利いた躍動感のあるものへと変更され、荷室と後席の足元スペースを拡大するなど全方位的な進化を図り、男性ユーザーからも支持されるようなクルマへと進化しました。 環境性能も向上し、販売の中心となる1.3L車は、従来の10・15モード20.0km/Lから24.0km/Lへと伸長し、さらにアイドリングストップ機能を搭載したモデルは26.5km/Lを記録しています。
そんな現行モデルが販売4年目に向け、今までの改良範囲を大幅に超えるマイナーチェンジを実施。目を奪うルックス、クオリティアップしたインテリア、そして魅力的な環境性能。お客様からのヴィッツに対する期待に応え続けるために飛躍的な進化を果たしました。
そんなヴィッツの開発責任者として、製品開発に取り組んだのは製品企画本部の橋壁清史。2006年以来ヴィッツの開発に携わり、今回細部の作り込みを実践してその商品価値を高めてきました。
そんなコンパクトカーの担い手が、ヴィッツの環境性能を中心にクルマづくりを通じた社会への貢献についてその想いを語ります。
プロフィール
ヴィッツ開発責任者 橋壁 清史
所属:製品企画本部 主査
略歴:1990年にトヨタ自動車に入社し、カローラやbBなどの内装・ボディー設計を担当。1999年に製品企画部に異動し、北米のカローラ、GM(General Motors )と協業開発したヴォルツ(アメリカ名:ポンティアック・バイブ)を担当。その後、技術管理部を経験するなどして、2006年よりヴィッツを担当。
ダウンサイザーのお客様にも満足いただけるクルマを目指して
ヴィッツというクルマはトヨタにとってどのようなクルマですか。
ヴィッツというクルマはトヨタの世界戦略車の1つで、欧州ではヤリスという車名で生産・販売されています。1999年に発売された初代ヴィッツは、デザイン、品質、衝突安全性能や環境性能の高さなどから多くのお客様から支持を得て、日本、そして欧州のコンパクト車市場に大きな影響を与えたクルマとして高い評価をいただきました(参考:2000年欧州カーオブザイヤー受賞、1999-2000年日本カーオブザイヤー受賞)。
2005年にフルモデルチェンジした2代目は、「MY PROUD COMPACT」を開発テーマに、あらゆる面で徹底的に向上を図り、2010年にモデルチェンジした現行型は、コンパクトカーに対する多様なニーズを捉えるため、「コンパクトカーのあるべき姿」を再定義し開発を進めました。
国内の新車販売市場が縮小傾向にある中、軽自動車とヴィッツのようなコンパクト2ボックスカーの市場は拡大しています。ヴィッツはトヨタのコンパクトカーの代表車種であり、お客様が程良いサイズ感ながら、安全性、信頼性、装備的にも満足いただけるクルマとして、たくさんのお客様に乗っていただいています。こうしたことから、ヴィッツは幅広く販売していくクルマであると同時に、お客様からの期待値も高いものがあると感じています。
販売の半数以上を占めるシニア層のお客様の場合、子どもさんはすでに成長して独立されている方が多く、自身のライフスタイルの中で大きなクルマはもう必要ないと考える方がいらっしゃいます。しかし、これまでライフステージに合わせたクルマ選びをされてきたお客様が上級車からお乗り換えになった場合、サイズが小さくなって取り回しが良くなることを喜んでいただける一方、安全装備や静粛性、軽快なハンドリングや乗り心地などに期待を持っている方がいらっしゃいます。これは、ミニバンからお乗り換えになるお客様にも当てはまります。
ヴィッツはこうしたダウンサイザーのお客様にも納得いただける性能を期待されており、今回も期待に応える、楽しく、快適で、安心なクルマへ仕上げました。さらにこうしたお客様は環境意識の高い層でもあるため、燃費向上に対しても大きな期待が寄せられ、併せて環境性能の向上を行っています。
ハイブリッド開発で磨いた燃焼技術などを生かし、高熱効率・低燃費エンジン群を開発
では、具体的なヴィッツの環境性能について教えてください。
ヴィッツは、エンジンサイズ1.0L車、1.3L車、1.5L車をラインナップしています。今回のマイナーチェンジでは販売台数が最も多い1.3L車を中心に大幅な改良を加え、環境性能を向上させました。今回のマイナーチェンジは過去の事例に照らせば全面改良に近いものですが、これは、「役に立つ技術は積極的に取り入れる」という、現在のトヨタの強いメッセージの表れです。
新開発1.3Lエンジンは、トヨタがエンジン開発で培ってきた燃焼改良と損失低減技術を生かし、走りの楽しさと燃費の向上を高次元で両立しています。
具体的には、ハイブリッド車専用に採用されてきたアトキンソンサイクルの技術を、現行の1.3Lエンジンに展開し、圧縮率をこれまでの11.5から13.5にまで高めた上、クールドEGR(排出ガスを冷却して再循環させるシステム)やVVT-i(可変バルブタイミング)の電動化をはじめ、これまで培ってきた技術を組み合わせることで燃焼改善と損失低減を追求し、量産ガソリンエンジンとしては世界トップレベルの最大熱効率38%を達成しました。
新開発1.3Lエンジン(1NR-FKE)
そもそもアトキンソンサイクルは、圧縮比と膨張比が同じ通常エンジンと違い、吸気バルブの閉じるタイミングをピストンが圧縮工程に入ってからにすることで、圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善し燃費を向上させる燃焼サイクルのことです。
アトキンソンサイクルは、燃焼室に入る混合気の量が少ないため出力が小さくなりますが、膨張するときの効率が高くなり燃費が良くなるという二律背反(トレードオフ)の関係にあります。実際、1.8Lの3代目プリウスのエンジン単体の出力は73kW(99ps)で、1.3L車のヴィッツ(70kW(95ps))と同程度のパワーしかありません。しかし、ハイブリッド車はこれにモーターのパワーが加わるため、プリウスの場合、システム出力は100kW(136ps)と2.4L車並みのパワーを実現しています。パワーは出ないものの燃費の良いエンジンとモーターがうまく弱点を補い合いながらハイブリッド車は成り立っています。
新開発エンジンは、ハイブリッド用エンジンに盛り込んできた技術に、VVT-iなどのガソリンエンジンで磨き上げた技術を掛け合わせることによって、走行性能に影響する出力などのエンジン特性を犠牲にせずハイブリッド車用エンジン並みの熱効率を実現し、燃費を向上させることに成功しています。
熱効率(仕事量)とは、エンジンなどのエネルギー効率を数値化したもので、燃料を燃やすことで生じた熱エネルギーのうち有効な仕事に変換された割合で、熱効率が高いほど燃料消費は少なくなります。トヨタのエンジンの考え方の基本は、「一滴の燃料を、いかに効率よくエネルギーに変えて多くの仕事をするか」ということで、燃費を良くするためにはエンジンの熱効率の最大化が大きなポイントとなります。
織り込み、磨き上げてきた技術
HV用エンジンに盛り込んできた技術 | コンベエンジンで磨き上げた技術 | |||
---|---|---|---|---|
燃費改良 | 急速燃焼 | ● | ||
高圧縮比化 | ● | ● | ||
損失低減 | ポンピング ロス低減 |
アトキンソンサイクル | ● | |
大量クールドEGR | ● | |||
低フリクション | ● | ● |
さらに、アイドリングストップ機能(Toyota Stop & Start System)や充電制御にも改良を加えることで、マイナーチェンジ前のSMART STOP パッケージ(アイドリングストップ機能付き)でもJC08モード・21.8km/Lに過ぎなかった燃費は、25.0km/Lと約15%もの燃費向上を図りました。
ヴィッツは、2WDの1.3L車の場合であれば、どのグレードにもアイドリングストップ機能が標準装備されており、燃費は25.0km/Lで免税となっています。環境性能が向上して地球環境にやさしくなっただけでなく、経済的にもより進化しています。
燃費改善の主要技術
3モデルの圧縮比・燃費・エコカー減税の比較
圧縮比 | JC08モード燃費 | エコカー減税 | |
---|---|---|---|
1.3Lエンジン+アイドリングストップ機能 | 13.5(←現11.5) | 25.0km/L | 100% |
1.0Lエンジン+アイドリングストップ機能 | 11.0(←現10.5) | 24.0km/L | 75% |
1.5Lエンジン+アイドリングストップ機能 | 11.0(←現10.5) | 21.2km/L | 50% |
楽しみながら、学んで、実践する「エコドライブ」の支援
ソフト面で環境に貢献する仕組みはありますか。
スピードメータ内に、4.2インチ大型カラー液晶画面でエコ運転の目安となる情報が表示されるシステムを、アイドリングストップ機能搭載車に標準設定しています。
これはアクアに設定されているシステムで、今回ガソリン車のヴィッツにもこのシステムを取り入れて、”運転中のエコ”というものを存分に楽しんでいただきたいと思っています。
エコ画面には、お金に敏感な女性を意識したエコウォレットをはじめ、エコジャッジや燃費ランキングなどのコンテンツはゲーム感覚で楽しめるようになっています。
また、スマートストップ画面に切り替えると、交差点などの信号待ちでアイドリングストップ機能が作動した時、ガソリンを節約している時間を表示してくれます。そして、アイドリングストップ機能によって節約できたガソリンの量などを表示することもできます。
このように、節約を実感し、楽しみながらエコドライブを実践していただきたいと思います。
特に、クルマを初めて購入される若いお客様がエントリーカーとしてヴィッツを選んでいただいた場合、運転そのものが新鮮であると同時に、この頃から“こんな運転をしたら燃費が良くなるんだ”ということを感じとっていただきたいと思っています。エコドライブはちょっとしたコツやポイントを押さえて運転するだけで効果を得ることができます。こうしたエコドライバーが増えることによる環境への貢献は大きなものがあると思っています。
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- エコジャッジ(発進 走行 停止について得点表示)
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- エコウォレット(比較燃費に対して節約したガソリンを金額で表示)
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- エコウォレット履歴(節約を月額表示)
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- 燃費履歴(過去の燃費状況を表示)
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- 燃費ランキング(いままでのよい燃費を表示)
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- 5分間燃費+瞬間燃費(5分刻みで燃費を表示)
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- アイドリングストップ通算節約時間(作動時間と燃料節約量 いままでの積算燃料節約量を表示)
お客様にたくさん乗っていただけるクルマこそ、環境性能を向上してエコカーの裾野を拡大
ヴィッツのようなコンパクト車が環境に与える影響をどのように考えていますか。
現在のお客様は、環境に対する意識が大きく変わってきたと思います。それは、お客様が環境に良いクルマを選ぶ時代になっていると思います。提供する側はそうしたお客様の期待に応える、もしくは期待を超えるモノを開発し、お届けしなければいけないと考えています。
今回のマイナーチェンジで、販売台数の最も多い1.3L車にはアイドリングストップ機能を標準装備しています。環境に対する意識が社会の中で広がり、当たり前のモノとして受け入れられるようになってきた現在、環境性能を高める技術を盛り込んだ商品をお客様にお届けするのはトヨタのメッセージです。そして、それに共感していただけるお客様に一台でも多く選んでいただくことでエコカーは普及していきます。
エコカーは普及してこそ環境への貢献。この言葉の通り、ヴィッツのようにたくさんのお客様に乗っていただけるコンパクトカーこそが環境性能を向上し、裾野を広げることで環境への貢献はより大きな効果が期待できます。
[ガズ―編集部]
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