レクサス NX 開発責任者に聞く(2/4) ― クルマづくりの原点 ―

走りも好きだけど、内外装にもこだわる

加藤氏の所有するMR2。
MR2の内装。前項のロードスターと共通する一貫したこだわりがある。

いまは子どもたちも大きくなったので、SW20-Ⅲ型の2代目MR2とマツダロードスター(NB8C後期RS)に乗っています。2台ともサーキット走行を楽しむためですが、ミッドシップレイアウトに名機3S-GTEの2.0Lターボ車とFRのNAエンジンに前後ダブルウィッシュボーンの2台ですから贅沢ですよね!

妻から「8人乗り(ノア)から2人乗りってどういうこと?」と呆れられましたが、2人じゃないよ、2人乗りが2台だから4人だよ。家族4人だし、と無理やり言い訳しています。 「何それ?」って相手にされていませんが、サーキット走行は、好きにしてって理解してくれてます。たぶん(笑)。あ、2台ともMTで私専用です。妻にはヴィッツがちゃんとありますから。

でもMR2を購入した本当の理由は、レクサスNXの開発で2.0Lターボを採用する上で、その開発をリードする立場の人間としてコーポレイトトヨタの開発したターボエンジンの車をもっと深く知りたいと思ったからです。やはりこれも妻からは「何なの、それ?」って相手にされませんでしたけど(笑)。

MR2は、全塗装してフェラーリレッド・ロッソコルサ(もどき)にしています。オーリンズ社製車高調整式アブソーバー、強化クラッチ、軽量フライホイール、LSD、ミッションはOHしました。BRIDEのフルバケットシートや、MOMOのステアリングも装備しています。ターボですからブースト計や油温、油圧、水温計といった計器も後付しています。

ロードスターの方もカスタマイズには相当お金をかけて、いじり倒しています。エンジンはOHし、ポート研磨等実施、強化クラッチ、軽量フライホイール、オーリンズ社製車高調整式アブソーバーや、BRIDEのフルバケットシート、MOMOステアリングなど走りのための装備やチューニングはもちろんやっていますが、それだけではありません。GARAGE VARYのフロントバンパーを付けて、エアロパーツは全部組み直し、内装はメーターの文字盤を交換したり、エアコンの吹き出しをメッキしたり、シフトレバーとサイドブレーキはワンオフ(一度限りの製造品)で作ってもらいました。ステッチが高級感とスポーティーな雰囲気を醸し出しているでしょ。ちょっとステッチが入るだけでぐっと雰囲気が変わります。ちょっとしたパーツの自作などもやってますよ。
余談ですが、ロードスターって、そういうショップがたくさんあって、多くの方が走りやドレスアップを楽しんでいるんです。一種の文化ですね。トヨタやレクサスからも、そういう風に愛される車が1台でも多くでればと思います。
このように僕は走りも好きだし、内外装にもこだわります。レクサスNXの開発には、こうしたMR2やロードスターのカスタマイズや、それを通じての仲間と会話もかなり影響しているんです。ステアリングの操舵感、マフラーカッター、FスポのFRロアバンパー、内装でいえばメーターの文字盤とか皮革部分のステッチ、メッキやリングなど。細かい違いで車内外の雰囲気はがらっと変わります。もちろんやり過ぎはよくないのですが、その手前ぐらいに一番いいポジションがあって、そこをとことん追求しました。

世界初をやるのは楽しい

レクサスの安全に対する考え方をひと言で表す言葉、「統合安全コンセプト」。その意味は、さまざまな安全システムを独立して機能させるのではなく、連携を図り、高度な安全性を追求していうというもの。

アメリカでの4年間の赴任を終えて、日本に帰ってきてからは、安全性能関連部品の先行開発を担当しました。ちょうど環境性能とともに安全性能のアセスメントの競争が激化してきた頃です。トヨタのCMで「GOA(ゴア)ください」が流れていた時期です。
そこで最初に手がけたのがニーエアバックです。初代のアベンシスで搭載したのですが、これが決め手になってNCAPの★★★★★(5つ星)をアベンシスが獲得しました。それ以降、レクサスも含めて、運転席のニーエアバックはいまでも採用され続けています。「それを提案し先行開発したんだ」という、エンジニアとしての嬉しさがいまでもあります。
その他にも、2代目ハリアーで採用されたモータードリブンベルト(衝突時に自動的にシートベルトが締まる)やLSの後部座席の通称・湯たんぽバッグ(シートの下でエアバッグが膨らんで、身体が前方移動を抑止する)、IS-Cのサイドエアバッグ(オープンカーの安全性向上)やレクサスで採用されているツインチャンバーエアバッグ(ハート形に膨らんで、顔面を避け、両肩で受け止める)、LFAで採用しているエアバッグベルト(シートベルトの中にエアバッグ)の先行開発を手がけました。
しかし、安全性能の世界で世界初をやり続けるのは楽しいけど、でもやっぱり、自分がトヨタに入社したのは、エンジンや車の開発がやりたかったからだ、と原点に立ち返り、現在の製品開発の部署へ異動を申し出ました。