レクサスRC F 開発責任者に聞く(1/3)

新たなレクサス“F”ブランドの構築

矢口幸彦(やぐち・ゆきひこ)
矢口幸彦(やぐち・ゆきひこ)
1955年、トヨタ・クラウン誕生と同年の生まれ。1977年、トヨタ自動車工業に入社。クラウン、初代、2代目セルシオ(LS400)の振動騒音開発を担当した後、 チェイサーツアラー系、プログレ等の車両性能開発のまとめを担当 レクサスブランド戦略、レクサスセンターの立ち上げに参加。レクサスセンターでコンセプトプランナーとしてIS Fを提案。同時にプレミアムスポーツブランド“F”を立ち上げ、車種別に存在していたスポーツグレードをF SPORTに統一。その規定書の作成、監修を手がけてきた。
​RC F。ボディカラーはヒートブルーコントラストレイヤリング。

2007年10月に発売されたIS F。
先代のISをベースに足回りなどを強化し、ヤマハ発動機と共同開発したV型8気筒5L、423馬力の大型エンジンを積み込んで、最高速度300km/h以上のポテンシャルを秘めたこのモンスターマシンは、2010年から市販車の生産が開始されたLFAとともに、レクサスブランドにスポーティイメージという新しい価値観を呼び起こし、レクサスブランドを牽引してきた。そして、発売後も毎年改良が加えられ進化を継続。2013年にベース車であるISがフルモデルチェンジした後も生産は継続されてきたが、2014年5月に惜しまれながら国内販売が終了した。

そして、その役割を引き継ぐ形で誕生したのがRC Fである。その開発はベース車となるレクサスの新しいクーペ専用モデルRCと並行して進められ、RC Fには本格的サーキット走行、モータースポーツ参戦を前提としたさまざまな要件が開発段階から織り込まれ、RCと同時にRC Fが誕生している。つまり、RC Fは完成した市販車をベースに開発されたIS Fとは違い、生まれながらにしてレーシングカーのポテンシャルを有するクルマである。

IS Fおよびレクサスのプレミアムスポーツブランド“F”の生みの親にして、RC Fの開発責任者を務めた矢口幸彦チーフエンジニアを訪ね、今後RC Fが牽引していく新しいレクサス“F”ブランドの方向性などについてお話をうかがった。
なお、矢口チーフエンジニアの人となりやIS Fについては2007年に取材した記事があるので、ぜひそちらも合わせてお読みいただきたい。

レクサスブランドを牽引するスポーツイメージの確立

RC Fは“F”の血統でもある「サウンド」「レスポンス」「伸び感」を磨き上げるとともに、世界各地のサーキットで徹底した走り込みを実施。
レクサスLFA

レクサスの中に“F”というスポーツモデルのサブブランドを作る、それまで車種別にバラバラで存在していたスポーツモデルを“F SPORT”として統一するということは、IS Fを開発するときにセットで提案していました。

その狙いはレクサスの明確なブランドイメージの確立です。1989年にアメリカでレクサスが立ち上がったときはLSとESの2つの車系しかなかったのですが、だんだんクルマが増えてきて、レクサスが向かう方向性をお客様に示しにくくなってきていました。だからレクサスのやりたいこと、方向性を集約してお客様に提示していく必要があった。その役割を担うのが“F”ブランドなのです。

数が少ないところで、ピュアなところを見せていく。それがさまざまなプレミアムブランドがスポーツブランドを持っている目的だと思います。「期待を超えた驚きと、その先にある感動」。現在は“AMAZING IN MOTION”というスローガンを使用していますが、こうした言葉とともに、レクサスがお客様に提供する価値を一番明確にするものとして、スポーツブランドが必要なのです。

“F”ブランドの頂点にはLFAがあって、その下には別名“リアルF”と呼ばれているIS FやRC Fの“F”シリーズがある。さらにその下に、各車系に統一の基準とコンセプトで展開されている“F SPORT”がある。これが“F”ブランドの世界観、レクサス“F”ピラミッドです。LFAは究極の走りを体現した“F”の頂点です。“F”シリーズは数々の専用設計で“F”の走る歓びを際立たせたスポーツプレミアム。“F SPORT”は専用チューニングサスペンション等で“F”のエッセンスを継承するモデルという構造になっています。

F SPORTには統一したクルマの作り方があり、外観、内装などに関する細かい規定書を作成して、こんな風に作ってくださいと各車種の開発陣にお願いしています。

こうした取り組みによって“F SPORT”の認知度が高まり、結果的に“F SPORT”の販売比率が大きく伸びています。以前は各車系のスポーツモデルの販売比率は数パーセントから多くても10パーセント程度だったのが、いまでは20~40パーセントという割合で売れています。「LFAがいて、“F”シリーズがあって、そして自分が乗っている“F SPORT”がある」ということで理解されやすくなり、選びやすくなった。同時に「自分は“F”の系譜のクルマに乗っているんだ」という愛着を持っていただけるようになったと自負しています。

同時に、ただ単にラグジュアリーなのではなく、常にアメージングでエモーシャル、つまり、驚きがあって、毎日が楽しくなるという、レクサスの向かう方向性が理解しやすいのが“F SPORT”だということもできます。それによってブランドが明確になったと思っています。

“F SPORT”がたくさん売れているということは、その上にいてブランドを牽引している“F”シリーズにはもっと頑張ってもらわないといけないし、LFAにはトヨタ2000GTの様に神話になっていって欲しいのです。

MORIZO on the Road