レクサスRC 開発責任者に聞く(4/4)
またリアサスペンションにGSで開発したトーコントロールアーム後方配置マルチリンクサスペンションを採用すると共に、RC350のF SPORTでは、DRSを採用しています。 GSではこれを低速の回頭性と高速の走行安定性に使っていますが、RCではチューニングコンセプトをがらっと変えて、操舵応答性の向上に使い、高速の安定性を高い次元で両立しています。
サーキット走行のコーナーではうまくインをついて、そこからアクセルを踏み込んでアウトに出て行くというのが基本的な走りになりますが、オーバースピードでコーナーに入ったため、うまくインがつけないという場合があります。そんなとき、ちょっとアクセルをOFFしてやるとクルマが自然にインに寄っていく。そういうクルマが僕は本当の意味でスポーティなクルマだと思っています。だから、それが制御の中でちゃんとできるクルマにしたかったのです。
RCの走りの作り込みの段階で、いつも僕の念頭にあって意識していたのは、あのヨーロッパ駐在中に体験したポルシェ911ターボの走りでした。今回の開発が始まった時、RCFの矢口チーフエンジニアに誘われてサーキットで最新のポルシェ911に乗りました。そして「やっぱりこれだ!」と確信し、目指す方向を決め、開発しました。ポルシェの方向を理想とした操縦安定性の味わいと高速や一般道でのラグジュアリーな乗り心地を両立しています。その走りは、実際にハンドルを握って走っていただければすぐにご理解いただけるはずです。
ブレークスルーの発想
RCは僕がチーフエンジニアとして初めて手がけたクルマです。開発を任されることになったとき、ある程度、こんなクルマだなとイメージはできましたし、そもそもプラットフォームから新しく作るクルマではありません。そして少人数の小さな所帯で短い開発期間という制約もありましたので、限られたリソースを有効に活用した開発プロセスのイノベーションが必要でした。従来の開発プロセスの常識にとらわれず、やるべきこととやらなくてもいいことをきちんと整理してメリハリのある開発をしていこうと考えました。
とはいえ、いままで普通にやってきたことをやらないとか、変えるというのはなかなか大変です。最初に開発のリーダーを集めて話したことは「発想の枠を外して考えてみよう」ということでした。それをみんなに理解してもらうためにスタンフォード大学の教授が書いた『メンタルブロックバスター』という書籍に載っているクイズを使いました。それは「正方形の枠の中に等間隔に配置された9つの点を一筆書きで全部結ぶ」というクイズです。4回曲がれば簡単にできるのですが、それを3回曲がるだけ、つまり「4本の線で結ぶにはどうしたらいいか?」という条件をつけると、みんな頭を抱えてしまいます。
このクイズのポイントは9つの点が正方形の形に並んでいること。そうすると人間は無意識のうちにこの正方形の枠にとらわれ、その中で解決しようとしてしまいます。でも実際は枠なんてないわけで、一回、枠の外に突き抜ける線を引けば、3回曲がるだけですべての点を結ぶことができます。
つまり、仕事においても無意識のうちに「思考の枠ができていないか?」という問いかけをしたかったのです。「勝手にでき上がっている思考の枠を外してみよう。そすれば見えなかった解決策が見えてくる」という話をしました。この話はずいぶん腹に落ちたようで、多少の困惑はあったものの、みんながやるべき仕事に集中するようになりました。開発の前工程で不要なことはすっ飛ばして大幅に短縮し、その分、後行程の仕上げのところに十分な時間と工数を手当てした結果、クオリティが向上したと自負しています。
また、こうした開発ができたのは、ひとえに社内の関連部署や協力会社のみなさんの支援があっての賜物です。こちらはなにぶん少人数なので、やりたくても手が回らないことも多々ありました。そこは現場を信頼して任せる。乱暴な言い方をすれば「旗は振るけど、あとはよろしくお願いします」と大胆に任せてしまう。現場はそれに応えてくれました。
昨今、支配型のリーダーシップに対して、支援型のリーダーシップ(サーバント・リーダーシップ)という考え方が定着してきましたが、僕たちがやっていたのは、それをさらに一歩進化した、みんなが好意や善意、同情心にかられて助けてくれるという新しいリーダーシップの形だったのかもしれません(笑)
たくさんの人たちの協力で自分なりに作りたいクルマができましたが、次はこのRCの魅力をいかにお客様に伝え、理解していただくかが課題です。それがチーフエンジニアである自分の役割ですし、とても責任を感じています。豊田社長も言われていましたが、スープラというクルマは20年以上経ってもいまだに熱烈なファンがいて、乗ってくださっているお客様がいます。果たして20年後、RCにもそういうファンやお客様がいらっしゃるかどうか?
本当の意味での評価は20年後だと思っています。
取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)
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