新型シエンタ フルモデルチェンジ 開発責任者に聞く

How do you use today?
ユニバーサルでクール。そしてマルチパーパスなトヨタ最小ミニバン

コンパクトカーではちょっともの足りない。もっと荷物を運べた方がいいし、たくさんの人が乗れて、乗り降りが便利な両側スライドドアのクルマが欲しい。かといって、ミニバンはちょっと運転が心配。
シエンタは、そんな“ちょっとだけ”欲張りな要望に絶妙なバランスでマッチし、2003年のデビュー以来、子育てママを中心に長年、愛されてきたコンパクトサイズのミニバンである。2010年に一度、販売終了したが、お客様からの強い要望を受けて、わずか1年足らずで生産・販売が再開された程、根強い人気のクルマでもある。
そんなシエンタがデビューから12年経って、デザイン、エンジン、装備などすべてが一新され、ユニバーサルでクール、そしてマルチパーパスなトヨタ最小ミニバンとしてフルモデルチェンジした。
その開発を指揮した粥川宏チーフエンジニアにお話を伺った。

絶妙な使い勝手に磨きをかける

先代モデルのシエンタは2003年発売以来、マイナーチェンジや改良は何度か施されましたが、デザインやメカニズムはほとんど初期のまま、販売されてきたクルマです。燃費や装備面でも最近発売されたクルマと比較すると見劣りします。それでも毎月、コンスタントに売れていました。人気の理由を一言でいえば、「大き過ぎない」こと。5ナンバーサイズで取り回しが容易、そして両側スライドドアで便利な上、広いラゲージスペースがあり、7人乗ることもできる。
シエンタをご購入いただいたお客様を調査したところ、7割の方は、普段3列目のシートは畳んでいて、シートとして使っていらっしゃいませんでした。いざという時、お子様のお友達や、田舎から遊びに来たご両親を乗せるときなどに7人乗れて、車内の空間が広くゆったり座れる。そんなところが多くのお客様の支持を集めてきました。シエンタをご購入していただいたお客様の中には、長年乗っていただいた後にもう一度、シエンタに買い換える、というお客様もいる程です。注意深く街中をご覧いただくと、かなりの台数のシエンタが走っていることに気づくはずです。それほど、長年親しまれてきたクルマなのです。

今回のフルモデルチェンジでは、こうした使い勝手の良さにさらに磨きをかけ、デザインも一新し、小さなサイズながら世代や性別、家族構成の枠を超えて、多彩なライフスタイルにマルチに応えるユニバーサルでクールなトヨタ最小ミニバンに仕上げています。近年は大型セダンからコンパクトなサイズのクルマにダウンサイジングして乗り替えられるシニアのお客様が増えているようですが、そうしたお客様にも満足いただけるデザインや質感、乗り心地にもしています。また、お客様からの要望が高かった「ハイブリッド」を採用し、ミニバンクラストップ(※2015年7月トヨタ自動車(株)調べ)の低燃費を実現しています。加えて、衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sence C」もオプションで選べるようにしています。

抜群の乗降性がさらに向上

今回の開発で一番こだわったのは乗り降りのしやすさです。元々、先代のシエンタは、乗り込み高さが385㎜と低く乗り降りがすごくしやすいことが評判でした。新型ではさらに低くして、乗り込み高さ330㎜を実現しています。スライドドアの開口部も縦方向、横方向ともに広げ、また、小さなお子様や背の低い方でも手の届きやすい位置にアシストグリップ(取手)を設置し、乗り降りが楽にできるようにしています。ボタンにタッチするだけで開閉する電動スライドドア(もちろん挟み込み防止機能付き)も装備し、荷物で両手が塞がっている時でも、容易に乗り込めるようにしています。トイプードルのような小型犬もぴょんと自分で乗り込める。これは愛犬家の方にも喜ばれると思います。
また、3列目シートへの乗降性も向上しています。2列目シートはワンタッチで折り畳めるようにし、3列目につながる開口部も広くして、大人でも楽に乗り降りできるようにしています。

さらに、先代モデルでは床の中央部にシートのスライドレールがありましたが、新型ではこれを取ってフラットな床にし、車内を移動する時に、床にある突起物で躓かないようにしています。シエンタは近年、介護のデイサービスやデイケアの送迎車としても人気ですが、そんな使われ方にもしっかり配慮しました。

ゆったり座れて、使いやすく。それでいて大き過ぎない

外から見ると小さいクルマなのに、車内に入るとすごく空間が広くて使いやすい。それがシエンタの魅力です。それは新型でもしっかり継承し、さらに磨きをかけています。今回、先代モデル(ダイス)より全長で115㎜、全高で5㎜大きくなっていますが、全幅は据え置き、5ナンバーサイズ内に収めています。また、最小回転半径も先代モデルと同じで、シエンタならではの取り回しの良さはしっかり確保した上で、ゆったりとした室内空間を作りました。

2列目シートは、膝元の隙間を広くするとともに、最大36度のたっぷりリクライニング機構と、105㎜前後に可動するシートのスライド機構により、ゆったりくつろぐことができます。
3列目シートは、シート幅を広くして座り心地を良くしました。先代モデルも、3列目シートのスペースは荷室として使用するため、3列目シートを2列目シートの下に格納(ダイブイン)しますが、格納スペースが限られていて、どうしても幅狭の左右セパレートタイプのシートにせざるをえませんでした。今回、みんなで知恵を出し合って、従来と同じように3列目シートは左右セパレートながら、ベンチシート風にシート間の隙間を埋めてシート幅を広くしながらも、格納する時の構造を工夫して2列目シートの下に格納できるようにしました。

さらに、シートの座面は後席に行くほど高くしました。これは、閉塞感を解消するための工夫で、3列目に座った状態でも前方の見晴らしを良くしています。また、膝と前列シートの間に充分なスペースと、座面の高さが確保されたことにより、膝の裏が浮いて体育座りのようになることもなく、自然な姿勢で座れます。私のようにちょっとお腹が出ているおじさんでも窮屈な思いをすることはありません(笑)
また、荷室長(2列目、3列目シートを倒して、荷室として最大限スペースを活用する際の寸法)を、先代モデルより広げております。26インチの自転車を2台積み込むこともできます。(※自転車は大きさや形状によって積載できない場合があります。)

「Active & Fun」思わず出かけたくなる、使いたくなる新鮮なデザイン

デザインについては内外装ともに大きく変更しています。外装のデザインコンセプトは「Active & Fun」。トレッキングシューズをイメージし、機能性と動感を分かりやすく表現し、ボディカラーが引き立つ、思わず出かけたくなるようなデザインを目指しました。シエンタはやはり子育てママを中心にファミリーユースで使われるケースが多いのですが、一方でセダンなどからのダウンサイジングで少なからずシニアの方や若い方たちの保有も増えています。男性のお客様も多く、セカンドカーじゃなくて、ファーストカーとして乗りたいという方もいる。今回のデザインではそういう方たちにも十分ご満足いただけるデザインを狙っています。また最近は女性の志向が「ジェンダーレス」になっていて、先代モデルのかわいいデザインよりも、もう少しシャープでアクティブな外観の方を好まれる傾向にある様です。ですから、これくらいのデザイン、味付けがぴったりじゃないかと思っています。
そして、なによりも四角いハコ型にしたくなかった。室内空間を広くしようとすると、クルマはハコ型になります。たしかに機能的にはハコ型の方が合理的かもしれません。特にスライドドアのことを考えると、四角いハコ型のほうが簡単でいいのですが、他のクルマと画一的な形状になってしまい、「FUN」じゃない。こんなきれいな形、エモーショナルな形だけど、大きなスライドドアがついていて、しかもちゃんと広い空間がある。そんなクルマにしたかったのです。また、運動性能を考えた時、あまり背を高くするとコーナリング性能が悪くなります。だから車高はむやみに高くはしたくない。そういったことも踏まえて、設計には相当苦労してもらってこの形を実現しました。
ボディカラーは全部で8色。アイキャッチカラーと呼んでいる原色系の4色とベーシックカラーの4色です。イメージカラーとなっている‘エアーイエロー’は、とくに軽快で楽しく、カジュアルな印象で、このクルマのために起こしてもらった新色で、蛍光色のようなちょっとグリーンが入ったイエローです。また、フレックストーンといって、バンパーガーニッシュやミラーなど樹脂部分の色を変えた2トーンのカラー設定も5色あります。5色の他にもオプションで様々なカラーを用意していますので、いろいろ選べて楽しめます。

機能性と操作性を重視した、質感の高い室内空間

インテリアデザインは先代モデルの‘かわいい’イメージを一新して、上質で機能的なデザインになっています。世代、家族構成などの枠を超え、幅広い層のお客様にマルチパーパスな使い方をしていただきたいという狙いです。誰もが運転しやすく、心地よく使えるように機能性と操作性を重視した、質感の高い室内空間になっています。たとえば、メーターの位置。運転中の視線移動を最小限に抑えるため、ステアリングより高い配置にしました。また、インパネの差し色にオレンジ色を採用し、「FUN」なイメージのドット柄をピラーやサイドの小物入れなど各所にちりばめ、遊び心を演出。さらに、各席には便利な収納スペースもたくさん用意しています。

​​シエンタのようなコンパクトなクルマは、お客様がお求めやすい価格にすることが大切です。でも、せっかく新しいクルマをお求めいただくのなら、今までとはちょっと違ったものを感じてもらえるようにしたい。逆に制限があるからこそ、知恵が出てきます。
たとえば、買い物フックや小物入れなどはあれば便利で喜ばれるものを選りすぐって採用、インパネやドアトリムの質感あるステッチ模様は一体成型で実現し、助手席アッパーボックスのオレンジ色の装飾も裏側の部品色を見せているだけですし、ピラーのドット柄も部品は追加していません。こうしたちょっとした工夫が、お客様に伝わり、評価いただけると期待しています。これが、コンパクトなクルマを開発する醍醐味でもあります。

​​先代モデルはこだわり抜いて造られたクルマです。だから12年の長きに渡って愛され続けてきました。新型シエンタもそれに負けないくらいこだわり抜いて開発しないといけません。新しくするからには、性能面や機能面はもちろん、内外デザインも今までになかった新しいものにして、すぐに飽きられるものではなく、長く愛されるものにしたい。そう考えて、ちょっと、やり過ぎなくらい大胆に変更しています。

エンジンも一新、ハイブリッドも設定。圧倒的な低燃費を実現

「このクラスのミニバンでハイブリッドが欲しい」。そんな強い要望はかなり前からありました。やはりおサイフにやさしい低燃費は大きな魅力です。
一番苦労したのはバッテリーを置くスペースの確保です。運転席と助手席の間に配置することも考えましたが、前列と2列目へのウォークスルーができなくなりますし、車幅を5ナンバーサイズ内に収めようとすると、そもそもスペースが足りません。また、最近のクルマでは2列目シート下のスペースが使われることもありますが、3列目シートの2列目シート下への格納ができなくなってしまいます。荷室に配置すると、当然、荷室スペースが狭くなってしまいます。私はハイブリッドを設定するにあたり、その代償として何かを犠牲にしたくはありませんでした。悩み抜いた結果、新型シエンタではバッテリーパックを薄型にして、フロア下に配置することにより、室内空間を損ねることなくハイブリッドの設定を実現しました。

ハイブリッド車はJC08モード燃費27.2km/Lを達成し、3列ミニバンではトップの低燃費を実現することができました。(2015年7月現在、トヨタ自動車調べ)また、ガソリン車でも、とにかく20km/Lを目指し、ハイブリッド技術で培った高効率・低燃費エンジンを採用、アイドリングストップ機能を加え、20.6km/Lを実現しています。

マルチパーパスなトヨタ最小ミニバン

さらに今回はレーザーレーダーと単眼カメラのセンサー技術と自動ブレーキなどを組み合わせた衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」も全車にオプション設定しました。また、ボディ剛性をかなり高くしていますので、乗り心地やステアリングのフィーリングもすごく良くなっています。先代モデルと比べると車格が上がっている感じです。このあたりは実際に乗っていただくとすぐ感じていただけます。デザインと同じように、ダウンサイジングで乗り替えられるシニアの方にも満足いただける走りになっていると自負しています。

今回の新型シエンタは外観デザインがクールになり、そのデザインに魅かれて乗ってみて、その車内空間の広さと使い勝手の良さに驚き、気に入っていただけるケースもきっと増えるだろうと期待しています。
また、ハイブリッドでクルマを探されているお客様からすると、これまでのトヨタのラインナップではアクアの次はカローラ・フィールダーになっていました。フィールダーだとちょっと長いし、一方で、欲しいスペースはどちらかというと上方向の広さだったりします。そういう意味で、いままでと違う、ハイブリッドという観点から探して、シエンタに行き着くという新しいお客様も増えると思います。
加えて、新型シエンタでは福祉車両の専門スタッフに開発の最初の段階から開発チームに参加してもらい、高齢者や障害者のための福祉車両として、持ち込み登録の必要がない型式指定自動車とした「車いす仕様車タイプⅠ」を設定しています。このクルマは乗車可能な車いすサイズを大きくし、リクライニング車いすにも対応しています。更に、より荷室を使い易くできる「スロープ前倒れ機能」も採用しているのです。高齢化が進む中、より使い易いスロープ車だと思います。
スライドドア車の四角いハコ型という概念を打ち破る「アクティブで機能的な内外デザイン」、そしてファーストカーとしても十分な上質感と存在感。随所におしゃれが散りばめられています。そして圧倒的な低燃費。ファミリーだけではなく、若者からダウンサイジングを求めるシニア層まで、広く世代や性別を超えて、お客様のライフスタイルをサポートする「マルチパーパスなトヨタ最小ミニバン」として自信を持ってご紹介できる1台に仕上がりました。
「How do you use today?」(今日はこのクルマで何をしようか?)。新型シエンタはそんな気持ちにさせてくれるクルマです。ぜひ実車をご覧いただきたいと思います。

取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

<プロフィール>
粥川宏(かゆかわ・ひろし)
1984年トヨタ自動車入社。初代セルシオやスープラなどさまざまなクルマのボディ設計を担当。その後、東富士研究所でアルミを使った環境対応の小型軽量車の先行開発に従事、2001 年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー・ES3(イーエスキュービック)の開発に参加。その後、ボディ計画室長としてフラットフォーム開発 を指揮。その傍らで、愛知万博i-unit開発に参画。2006年より製品企画担当に異動し、プリウスαの開発主査。2011年よりチーフエンジニアとして、2代目シエンタの開発を指揮。
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