新型ランドクルーザー 開発責任者に聞く (2015年8月)

「より安心、快適を求めて」 ーランドクルーザーをマイナーチェンジ

ランドクルーザーシリーズは2014年末に世界生産累計800万台を突破。1951年以来、64年の長きにわたり、その変わらぬ開発思想と「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」が世界中の人々から熱烈に支持されている。 このランドクルーザーシリーズの頂点に立つ、‘ランドクルーザー’は2007年にフルモデルチェンジした後、2011年にマイナーチェンジし、更に、今年8月に2度目のマイナーチェンジが行われる。今回のマイナーチェンジについて、ランドクルーザーシリーズの開発の総指揮を執っている小鑓チーフエンジニアにそのポイントを伺った。

ステーションワゴンはフロンティア精神を持った系譜

1951年にFJジープとして誕生したランドクルーザーは主に悪路走破など過酷な環境でのヘビーデューティ用途の実用的なクルマとして、20系、40系と進化してきました。そこから四駆のレジャー用途に応えるステーションワゴンとして、1967年に55系が登場。その後も進化を続け、60系、80系、100系を経て、今日のランドクルーザー(200系)へと受け継がれています。

このステーションワゴンタイプのランドクルーザーには、本来の「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」をしっかり造り込んだ上で、「快適性」「安心」を付加しています。運転席をはじめとした車内空間の快適性、質感の高さ、さらにはそうした空間から醸し出される高級感、満足感、運転をしていて感じる絶対的な安心感のようなものです。それらは上辺だけの高級感とは違う、本物だけがもたらす高級感(ラグジュアリー)につながっています。
また40系やその流れをくむ70系のヘビーデューティ用途のクルマはとにかくシンプルに、基本性能の「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」?を愚直に追求していくのに対して、ステーションワゴンタイプでは少し革新性を持たしていく。いわば新しいことに挑戦していくフロンティア精神を持ったモデルとして進化させてきました。

特に1998年にデビューした100系では、「King of 4WD」をコンセプトに掲げ、快適性・タフネスのさらなる進化に向けて、4.7L V8エンジン、ダブルウィッシュボーンサスペンションを搭載するとともに、乗用車に近いラグジュアリーな方向にもジャンプアップしました。あまりに大きな変化・挑戦だったので、特に使用環境の厳しい地域用(オーストラリア等)には、足回りだけを前モデルの80系のままに残したモデルを105系として設定したほどでした。

マイナーチェンジの枠を超える大幅な外観デザイン、内装の変更

現行のランドクルーザー(200系)が登場したのは2007年です。100系の成功を受けて、「King of 4WD」のコンセプトを継承し、さらにランドクルーザーらしさと革新性を進化させ、オフロードからオンロードまでを快適に走破することを目指してプラットフォーム、サスペンションから一新。高級本格4WDステーションワゴンとしての格と走りの実力を高め、足回りや4WDシステムをきめ細かく制御する数々の先進テクノロジーを搭載。同時にゆとりのある室内空間と優れたユーティリティも高い次元で実現しました。

2011年のマイナーチェンジ、2013年の改良を経て、国内はもとより海外でも高い支持を得ており、今でも毎月たくさんの台数が売れている、まだまだ世界で戦えるモデルです。しかし、誕生から、はや8年が経ちました。8年という年月は通常の乗用車であれば、フルモデルチェンジがあってもおかしくないタイミングです。とりわけ流行の変化の激しい外観のデザインと、日進月歩で変化している電子制御の分野で、時代に合ったものに変えていく必要があるという判断から、今回、2回目のマイナーチェンジを行いました。

その結果、通常のマイナーチェンジよりかなり大きな改良を施しました。実物を一見すれば、マイナーチェンジ前との違いは歴然です。販売店の方には発売前の商品研修会などの場で実物を披露しましたが、皆さん一様に「えっ、こんなに変わっちゃうの?」と予想以上の変化に驚かれていました。

機能美と風格が調和したスタイリング

ランドクルーザーのスタイリングには、70系やプラドと違って、より先進的な、洗練された都会的なイメージを入れていきたい。かといって、最近の乗用車のように、運転席からボンネットの先端の位置が確認しにくいようなデザインにはできません。また、最近はバンパーとグリルが一体化されたようなデザインが流行っていますが、バンパーの本来の機能はボディを軽度な衝突から守ることですから、ボディから独立したバンパーにしなければならない。
ランドクルーザーらしいデザインとは、一言で言えば「機能美」です。機能のことを最優先に、あれこれ考えてデザインした結果、ムダの無いシンプルで美しいデザインになる。だからランドクルーザーらしい機能美の中に、デザイン的な先進性や洗練された都会的なイメージをいかに取り込んで表現していくか?が大きなテーマでした。

フロント周りでは、フードからグリルまで凸形状を連続させ、フードセンター部をえぐり、フロント全体の塊感と立体感を強調しています。同時にフードの真ん中にぐっと切り込みが入ったことによって、それだけ前方の地面が見えやすくなりました。つまり機能性も向上しつつ、デザイン的には躍動感を表現しています。ランドクルーザーのデザインには一つ一つに機能面での理屈がある。だから機能美なのです。
また、グリルフレームの一部をヘッドランプと連続させた一体感のあるデザインに変更していますが、これもヘッドランプを守るプロテクターを想像させるデザインであり、同時に‘ランドクルーザーらしさ’をしっかり継承した造り込みになっています。ランドクルーザーのデザインで一番肝になるのは厚みのあるグリルと大きなランプによる押し出しの強さなのです。今回の改良では、歴代ランドクルーザーが持つ押し出しの強さをさらに進化させたフロント周りに仕上がったと自負しています。
同時にリア周りもマイナーチェンジ前より、力強く、かつ緻密なデザインに変更しています。そして、サイドビューはより伸びやかなデザインにしています。車の骨格は変わっていないのに、全長が伸びたように感じるはずです。写真ではなかなかその違いが分かりにくいかもしれませんが、実車を見ていただければすぐにその差を実感いただけることと思います。

快適のさらに一歩先を行くインテリア

2つめのポイントは質感を高めたインテリアデザインです。「過酷な自然の中ではシェルターの安心感を、洗練された都会ではスイートルームの心地よさを。」というのがランドクルーザーの車内空間の考え方ですが、これをさらに進化させました。

特に今回の改良でこだわったのは使いやすく機能的なインストルメント・パネルです。各種スイッチ・表示類をセンターに集約しました。特に、センターコンソールには、L字型に、機能ごとに横軸に「駆動系」、縦軸に「走行系」のスイッチ類をまとめて、ぱっと手の届くところに配置しました。また操作も、ボタンを押したり、ダイヤルで調整するものなので、オフロード走行時に極力、目線を移すことなく運転操作に集中できるように配慮しました。
またオフロード走行時に重要なニーパッドの固さや厚みにもこだわりながらチューニングをほどこすなど、見た目だけの美しさや上質感に留まらない、信頼と使いやすさ、機能性に裏付けられた、まさに機能美をインテリアでも追求しています。

各種スイッチ・表示類をインパネのセンター(写真の赤枠)に集約

トヨタ初となる“Toyota Safety Sense P”を全車に標準装備

3つ目のポイントは、先進の安全装備の採用です。そのために電子プラットフォームを一新し、最新のプラットフォームにまるっと変えています。電子プラットフォームに関してはフルモデルチェンジです。

トヨタ初となる“Toyota Safety Sense P”はミリ波レーダーと単眼カメラを用いた高度な検知性能で、車だけでなく歩行者の認識も可能にした衝突回避支援システムです。“プリクラッシュセーフティシステム”と車線のはみ出しを警告する“レーンディパーチャーアラート”、夜間など対向車や前方の走行車を検知して自動的にハイビームの切り替えをおこなう“オートマチックハイビーム”、先行車との車間距離を保って追従走行ができるブレーキ制御付“レーダークルーズコントロール”の4つの安全装備をセットにした衝突回避支援パッケージです。新型ランドクルーザーがトヨタで初搭載となり、全車に標準装備。今後トヨタの上級車を中心に順次採用していく予定です。

ミリ波レーダーと単眼カメラを用いた衝突回避支援システム“Toyota Safety Sense P”

また、4つのカメラで死角になりやすい車体周りの状況確認を映像でサポートする「マルチテレインモニター」に、今まで確認できなかった車両下の状態やタイヤの位置が確認できる“アンダーフロアビュー”と車両の傾きに合わせてフロントビューを回転表示し、車両の傾きを直感的に確認できる“フロントビュー回転表示”の2つの世界初となる機能を追加。さらに車両を上から見たような映像を表示する“パラミックビュー”や“タイヤ空気圧警報システム(TPWS)”など、最先端の運転支援機能を加えて、あらゆるシーンでドライバーをサポートしています。

4つのカメラで車体周りの状況確認をサポートする「マルチテレインモニター」?

ランドクルーザーの伝統を次に引き継ぐ

ランドクルーザーは通常の乗用車に比べるとすごくモデルライフが長いクルマです。しかし、だからといって、当然その間、何もしていないわけではありません。常に市場の動向にアンテナを張り、また世界中のお客様から寄せられるご意見・ご要望の把握に努め、それらを次の開発に生かすべく、キャッチアップしています。日本国内で発売されているのは上位の2グレードですが、世界をみるともっと幅広いグレードのランドクルーザーが発売され、世界中の様々な道を走っています。むしろそっちの方がワールドワイドで見れば主流です。中には日本では到底考えられないような過酷な環境でタフな使い方をされているランドクルーザーも存在しています。

そうした現場から上がってくるお客様のご要望は、やはり現地に足を運んで確認しないと理解できません。そのために我々は常に世界中に足を運んで現場でお客様のご意見に耳を傾け、商品改良をし続けています。ですから4年とか8年といった月日はあっという間です。

この歴史のあるランドクルーザーを担当する上で大事なことは、‘ランドクルーザーらしい’変え方をしていくということです。それは同時にランドクルーザーの伝統やDNAを未来に継承し、時代をリードする革新性を探求し続けていくことです。 「ランドクルーザーは地球上最後に残るクルマであると認識して開発に臨むべし!」これが歴代の開発責任者に伝わるランドクルーザーの開発スローガンです。今回の新型ランドクルーザーの開発を通じて、私なりにランドクルーザーの次への進化が出来たと思っています。ぜひ、実車でそれを確認ください。

<プロフィール>

小鑓貞嘉(こやり さだよし)
京都市出身。 1985年トヨタ自動車入社。シャシー設計部でハイラックス、ランドクルーザープラドのサスペンションを担当。1996年に製品企画部門に異動し、ダイナ のフルモデルチェンジに携わり、2001年からランドクルーザー、タンドラ(北米向けSUV)のプラットフォーム開発に従事。 2007年からランドクルーザーのチーフエンジニアとして開発を指揮。会社生活30年間、一貫してフレーム車に関わる開発業務を手掛ける。大学時代に自動車部で始めた国内ラリー競技の魅力にはまり、トヨタ自動車に入社後も含め17年間参戦。

I LOVE CAR,LAND CRUISER!

追伸

小鑓貞嘉チーフエンジニアに初めてインタビューしたのはちょうど1年前。ランドクルーザー70の30周年記念モデルが発表になった時だ。その時はランクルに対する小鑓CEの熱い想いに圧倒された。またランクルが持つ「本物感」にすっかり魅了され、勢い余って、プリウスPHVからの買い換えで、ランドクルーザー70を購入してしまった。

その後、ランドクルーザー70のメディア向け試乗会、今年6月に発表になった新型プラドの開発者インタビュー、7月に期間限定で鎌倉・由比ヶ浜にオープンしたランドクルーザー ビーチハウスのオープンイベント、そして今回の取材と1年のうちに5回もじっくりお話を聞く機会を得た。取材の回数を重ねる中で、小鑓CEのクルマづくり、そしてランドクルーザーに対するこだわりや情熱を少なからず理解することができた。

取材・文・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)