レクサスLX 開発責任者に聞く (2015年8月)
レクサスSUVのフラッグシップ レクサスLX。待望の日本導入。
レクサスLXは、1996年、レクサス初のSUVとして北米で発売。SUVに求められる基本性能「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」と高級感を合わせ持ち、北米市場から高い評価を得る。その後、1998年に2代目、2007年に現行モデルである3代目と進化するとともに、中近東、ロシアを中心に世界中で販売台数を伸ばし、レクサスSUVのフラッグシップモデルと位置づけられるワールドワイドなクルマである。しかし、これまで日本国内では発売されておらず、海外専売モデルとなっていた。
このレクサスLXが飛躍的な進化を遂げ、ついに、日本国内でも発売されることになった。レクサスLXの待望の日本導入にあたって、開発責任者の小鑓貞嘉チーフエンジニアにその狙い、開発にかけた熱い想いについてお話を聞いた。
新興国でレクサスのブランドを牽引してきた、という思い
力強さとともに、洗練された印象を心に残すスタイリング。世界中の過酷な大地を、余裕の表情で走り抜ける走破性。SUVにおけるラグジュアリーの究極を具現化した、その突き抜けた存在感。世界を魅了してきた別格のラグジュアリーSUV。レクサスLXというクルマはレクサスのラインナップにおいて、世界の市場においては、一目も二目も置かれる、それくらいに特別な存在なのです。日本やアメリカ、ヨーロッパでは、レクサスのフラッグシップモデルはラグジュアリー・セダンのレクサスLSですが、中東やロシアなどの新興国においては、「レクサスといえば"LX"」といっても過言ではなく、それらの地域においてレクサスの市場を開拓し、ブランドを牽引し、また、販売を拡大してきたのはレクサスLXであると思っています。
レクサスLXの日本国内販売は開発チームの悲願だった
レクサスは、1989年に北米でスタートしてから4半世紀、これまでほぼ全車種・全車両を日本国内の工場で生産し、世界中に輸出してきた、いまや誰もが認める“Made in Japan”を代表するプロダクトです。レクサスLXも、日本国内で、日本人が設計し、日本人の手で造り、世界で販売してきました。一方、日本国内では販売されずにきました。
レクサスLXが国内で販売されなかった背景には、日本国内でレクサスがスタートした2005年当時、SUV市場はそれほど大きくななかったことがあります。また、トヨタブランドのランドクルーザーの存在も一因にありました。ランドクルーザーは海外では実用的なグレードから上級なものまでと幅広いグレードのモデルがラインナップされていて、売れているのは上位グレードではなく、中間クラスのグレードだったりします。よって、海外ではレクサスLXは「プレミアムなラグジュアリーSUV」としてランドクルーザーとの差別化ができたのですが、日本国内では、ランドクルーザーは上位グレードだけをラインナップしていたため、レクサスLXとランドクルーザーが同じ「ラグジュアリーSUV」の分野と位置づけられ、差別化が難しいと判断されたのです。私たち開発チームのメンバーは、初代モデルからレクサスLXとランドクルーザーとの明確な差別化に取り組んできましたが、国内を納得させる域に到達していなかったのだと理解しています。だからこそ、レクサスLXの日本導入は私たち開発チームの悲願でした。
そして、今回のレクサスLXに大幅な改良を施し、飛躍的な進化を遂げ、ランドクルーザーとは全く違う「ラグジュアリーSUV」を造り上げることができ、満を持して日本に導入することができました。
レクサスブランドとしての味付け
レクサスLXとランドクルーザーの関係。それは料理に例えると理解いただきやすいと思います。同じ食材を使って作った料理でも、その調理方法や調味料、味付け、盛りつけ、器、コースのメニュー構成、そしてそれを提供するレストランの雰囲気や接客サービスなどによって、全く異なる料理になります。つまり、ランドクルーザーとレクサスLXは同じ厳選された素材を使っていますが、全く違うクルマに仕上がっているのです。それは日本料理とフランス料理くらい差があります。
ここでいう厳選された共通の素材にあたるのは「信頼性」であり、「耐久性」そして「悪路走破性」です。これは1951年からランドクルーザーがこだわり続け、磨きに磨きをかけてきた世界に誇れる厳選素材です。いわばクルマの「基本価値」にあたる部分であり、レクサスLXのクルマとしての価値を構成する重要なベースになっています。材料が厳選され、良質だからこそ、お客様は安心して食べることができるし、美味しいと感じることができるのです。
そして、レクサスブランドとして独自性を持ち、差別化しているところが、料理でいうところの調理法や調味料、味付け、盛りつけ、器、コースのメニュー構成にあたる、スタイリング・デザインや先進装備、快適装備などです。今回、レクサスSUVの頂点にふさわしい力強さとラグジュアリー性、そして先進性、都会的な洗練さを表現したスタイリング・デザインにしました。とりわけ、スピンドルグリルは他のレクサスとはひと味違う洗練された力強さを感じていただけると思います。インテリアデザインも然りです。そして惜しげもなく投入した先進装備、快適装備の数々。今回、電子プラットフォームは最新のものに一新しています。
これらはクルマの価値でいえば「使用価値」にあたる部分。使い勝手や操縦性、乗り心地に関わる価値です。この部分が違うことにより、同じ厳選素材を使いながらも全く違うジャンルの2つのクルマに仕上がっているのです。
その結果、それをお求めになるお客様も異なってきますし、提供するお店の雰囲気やスタッフの接客も異なってきます。「基本価値」と「使用価値」の絶妙な連携によってもたらされる最後の価値。それが「感動価値」です。
- 新型レクサスLX 本格SUVとしての「力強さ」「ラグジュアリー性」「先進性」「都会的な洗練」を追求したスタイリング・デザイン
- 新型レクサスLX レクサスSUVの頂点としての「先進性」と「高級感」のある機能的な室内インテリア
レクサスならではの最上級のおもてなし
レクサスLXの「感動価値」は、「AMAZING IN MOTION」をグローバルブランド広告のスローガンに掲げ、「期待を超えた驚きと、その先にある感動を提供し続けること」をビジョンにしているレクサスでは極めて重要な価値です。
この「感動価値」創造のために、「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」といった「基本価値」を高めるとともに、先進的で洗練されたスタイリング・デザイン、高級感と機能性を融合させたインテリア、快適な運転をサポートし、同時にオーナーの安全を守る先進装備の数々、配慮が行き届いた室内ユーティリティなどによる「使用価値」を極めることで、レクサスLXならではの「おもてなし」を演出しています。
特に、先進の空調システム「レクサス クライメイト コンシェルジュ」。これはエアコンだけでなくシートヒーター、ステアリングヒーターなどあらゆる空調関係を連携させて自動で温度管理をおこないます。後部座席も含めて全席、どこに人がのっているかセンサーで感知し、必要な場所に対して集中的に暖めたり冷やしたりを効率よくやってくれます。また「出迎えライト」といって足元のサイドステップのLEDランプがドアミラー下のLEDと連動し、ドライバーやゲストが近づくとお迎えするように点灯します。そしてドアを開けると照明が灯り、エンジンをかけるとインパネの様々な計器類の文字がぼーっと浮き出して点灯する。こうした「おもてなし」の空間演出も入れています。
さらに、乗り降りがしやすいようにパーキングの状態ではクルマ全体の車高が自動的に50㎜ほど下がり、乗り込んだあとクルマをスタートさせると自動的に、すーっと車高が上がり、元に戻る。逆に停車してエンジンを切ると、車高がすーっと下がって、クルマから降りやすくなります。こうしたレクサスならではの進化した「おもてなし」を表現することを目的に、様々な機能や機構を開発・採用しています。
- レクサス クライメイト コンシェルジュ 後部座席も含めて全席、どこに人が乗っているかセンサーで感知し、最適な場所に空調設備のON/OFFをするとともに、自動的に最適な温度管理を実施する
基本価値から使用価値、そして感動価値へ。クルマの進化に伴い、お客様が求める価値も移ってきていることは新興国のレクサス店の展開をみているとよく理解できます。中近東、ロシアなどの国では、最初は、トヨタのクルマを販売している店舗の一角に間仕切りをして、レクサス店をショップインの形で開設していました。ランドクルーザーとレクサスLXは同じ店舗内で販売されていて、初期段階ではレクサスLXはあくまでランドクルーザーのプレミアムモデルくらいの位置付けだったわけです。しかし、レクサスLXをはじめ、レクサスブランドの人気が高く、販売も好調となると、これは場所を分けた方がいいとなります。そうして、トヨタの店舗の横に、別棟でレクサス店をオープンすることが多くなり、現在はそこから更に一歩進んで、トヨタの店舗とはかけ離れた場所にレクサス店を開設するケースが増えています。お客様のレクサスLXに対する評価が基本価値から、使用価値、感動価値へと移っていっているからこそ、2つの店舗を離すのです。
新興国でのレクサスブランドの確立と拡大、浸透。これは、これまでレクサスLXが担ってきたフラッグシップとしてのミッションであり、今回の新型レクサスLXには、より一層、その期待が高まってくると思っています。国内はもとより、主戦場である海外市場、とりわけ中東、ロシアなどの新興国市場で、新型レクサスLXの提供する「AMAZING」がどのように評価されるのか、それは今から楽しみでもあり、緊張もしています。
世界が認めた最高峰のラグジュアリーSUVを日本で
いままで国内のレクサスSUVのラインナップにはレクサスRXしかありませんでしたが、2014年はレクサスNXが誕生し、そして今回、新しくフラッグシップモデルのレクサスLXを導入することにより、SUVのラインナップが充実し、一気にレクサスSUVの注目がアップすると思います。
「人をお店に呼ぶことができるクルマ」それがフラッグシップです。これまでSUVに興味なかったお客様はもちろん、レンジローバーやベンツGLなど輸入車のラグジュアリーSUVに乗っているお客様にもレクサスのお店に足を運んでくれることを期待しています。レクサスLXが加わって、レクサスのブランドイメージがまた少し変わって来ると思っています。
エンジニアとして、「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」というSUVに求められる基本性能を磨き上げ、「行きたい時に行きたい所に行け、必ず帰って来れるクルマ」を造ることにこだわり開発を進めてきました。そして、開発責任者の立場でレクサスLXの開発を進めるにあたっては、レクサスとしてのブランドを作り、守っていくことが重要です。基本性能を磨き上げるとともに、安全技術など先進技術を導入し、レクサスならでは風格のあるスタイリングや、お客様をおもてなす様々な装備を充実し、レクサスブランドとして堂々と打ち出せるクルマに仕上がった、と思っています。
たいへんお待たせしましたが、大幅に進化を遂げたレクサスLXは、本物を熟知し、モノを見る目が厳しい日本のお客様にも、期待以上の満足をご提供できると信じております。世界が認めるレクサスSUVのフラッグシップ、LXを日本で乗る、その喜びをより多くの方に感じていただけたなら幸いです。
- <プロフィール> 小鑓貞嘉(こやり・さだよし)
京都市出身。 1985年トヨタ自動車入社。シャシー設計部でハイラックス、ランドクルーザープラドのサスペンションを担当。2001年から第3開発センター&レクサスセンター(現 製品企画本部&LexusInternational)にて、現 ランドクルーザー&レクサスLX、タンドラのプラットフォーム開発に従事。2007年からランドクルーザー&レクサスLXのチーフエンジニアとして開発を指揮。会社生活30年間、入社以来、一貫してフレーム車に関わる開発業務を手掛ける。大学時代に自動車部で始めた国内ラリー競技の魅力にはまり、トヨタ自動車に入社後も含めると17年間参戦。大のクルマ好き。
取材・文:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)
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