レクサスRX 開発責任者に聞く (2015年10月)

RXを超えた先にあるRX

1998年に世界初のラグジュアリーSUVとしてデビューしたレクサスRX。発売直後から北米市場で爆発的な人気モデルとなり、後に、世界中のメーカーから、レクサスRXが開拓したラグジュアリーSUVというカテゴリを追随するモデルが数多く発売されることとなった。2009年の3代目モデルからは国内でも販売が開始されている、レクサスの中での最量販車である。
このレクサスRXが、2015年10月にフルモデルチェンジを施された。開発を指揮した勝田隆之チーフエンジニアにお話を伺った。

シャシー設計を経て、製品企画へ。そしてレクサスRXのチーフエンジニアとして先代モデルを立ち上げ

子どもの頃から飛行機が大好きで将来の夢はパイロットでした。大学では工学部の航空工学科に進み、流体力学の研究をやっていました。そんな私がトヨタに入社したのは、エンジニアとして「モノ作り」をするなら航空機も魅力的でしたが、自動車もかなり面白そうだと思ったからです。航空機と自動車を比べると、開発のサイクルが大きく違います。航空機の場合、モデルサイクルが25年以上だとか、かなり長い。自動車の、どんどん新しい技術を開発して次々にモノにしてゆく活気と、自分で運転して感じて、お客様と同じ目線に立てるところに、大きな魅力を感じました。

1985年にトヨタに入社して最初の配属先はシャシー設計部。若い頃から結構、自由にやれせてもらえる部署で、制御サスペンションの先行開発、レクサスLS、クラウンのエアサスペンションの開発などを担当させてもらいました。欧州にも駐在して、入社して17年経った2002年頃から、アベンシス、ヴァーソ(欧州専用車)のシャシー設計の開発マネージャーを担当。そんな時、企画部で製品企画をやってみないかとお誘いを受け、2004年に異動しました。前年に2代目のレクサスRXが立ち上がり、九州工場に加えてカナダでも生産が始まったところで、次に向かって新しいチームが作られる中、3代目レクサスRXのコンセプトプランナーとして加わることになりました。

レクサスRXはデビュー以来、ラグジュアリーSUVという新しい市場を開拓し、牽引してきたクルマです。そして今もそうですが、販売の主力である北米の競合ひしめくセグメントの中で、常に販売台数ナンバーワンの地位を維持している、レクサスの最量販車です。ですから、営業サイドの3代目にかける期待というか、プレッシャーも半端ではありません。さらに、翌年には母国日本でのレクサスブランド立ち上げが目前に迫っていましたし、RXも3代目から国内に導入することも決まっていました。

そんなクルマの企画を最初から担当するなんて、大変名誉なことですし、有り余るくらいにやり甲斐がありました。しかし、それを遥かに上回るプレッシャーも感じていました。プランナーとは「何を企画してもいい」と言う立場でしたが、そう言われても、最初は何をどうやっていいのか見当がつかない。当時の私は異動してきたばかりで、シャシー設計出身だったので足回りについては分かるものの、エンジンやボディ等は何から手を付けてよいのか分からない。シートとか内装など柔らかいものに至っては、もうお手上げという状態でした。

とにかく、いろいろな開発部署を回って、「次にどうしたらいいと思う?」とか「何から良くしてゆくべきなんだろう?」など、議論を通じて勉強して、営業部門や販売店、お客様を訪ねて、要望を聞いて確認する。その繰り返しの中で考え抜いて、自分で納得できる企画にまとめていきました。 その後、開発全体を指揮・統括するチーフエンジニアとなり、3代目レクサスRXにまとめ、2009年に発売することができました。おかげさまで3代目は、足掛け7年かかりましたが累計販売台数が100万台を超え、10年近く生産した2代目RXの累計販売を塗り替えた新記録を達成することもできました。

RXでありながら、RXを超えるために

3代目レクサスRXの立ち上げが終わった後、引き続き、今回の4代目モデルもチーフエンジニアとして開発を担当させてもらえることになりました。4代目の開発にあたり、私が掲げたテーマは「RXでありながらRXを超える」こと。2世代続けてRXの開発を担当し、やっとRXを知り尽くしたかなと思えたからこそ、落ち着いて挑める飛び幅の大きな進化。それが今回のフルモデルチェンジのテーマです。
RXのお客様の特徴は、セダンともオフロードカーとも違う独特のスタイリングを気に入ってお選びいただいているケースが多く、3年くらい乗って次もまたRXに買い替えていただける方がとても多くいらっしゃることです。だからRXはお客様のご期待に応えるために、いいところは残しながら、代わり映えを出していくところは、どんどん進化してゆかなければならない使命があります。3代目の時もかなりの改良を加えましたが、今回のモデルチェンジでは、同じような進化の量では足りません。自分で色々思い巡らして、開発メンバーにも「とにかく飛べるだけ飛んで考える」ように発破をかけて、企画にまとめました。

ホイールベースをのばし、新しいプロポーションを構築

まず、最初に考えたのがデザイン面での大幅な進化です。歴代のレクサスRXがずっと好評だったということは、逆に言うとイメージが定着しているということで、ここに危機感がありました。
進化とは、時代の変化のスピードを超えて初めて遂げられるものです。ラグジュアリーSUVの市場はレクサスRXが先駆者として開拓し、ずっとそれを牽引してきたと自負しています。しかし市場が成熟し、今までのサイズだけでなく色々なキャラクターの競合がでてきている中で、RXはすごく広い幅のニーズを一つの車種でカバーしてゆくのが難しくなってきていました。
そんな中、レクサスブランドに新しくコンパクトSUVのレクサスNXが加わる計画が最初からあったことが、今回4代目の企画の大きな変換点になりました。 ラグジュアリーSUVでは最近小型のライバル車が多数投入され、新しい市場が急速に拡大してきてます。一方、真のラグジュアリーにとって「ゆとり」は欠かせられませんので、結局今後のグローバル市場の主力はRXクラスであることが続く、と考えられています。今回、NXが小型サイズへの挑戦を引き受けたので、RXはサイズに拘らずに真のラグジュアリーを追及する企画に集中して、まとめることができました。
元々RXは歴代、実際よりも少しコンパクトに見えるスタイリングを心がけていたのですが、今回ホイールベースを50㎜伸ばして、タイヤをひとまわり大きくした新しいプロポーションを与え、その素質を素直に伸ばしてもらうようにデザイナーに造り込んでもらいました。
伸びやかで堂々としたプロポーション。艶があって滑らかな​面質にシャープなエッジが効いた、メリハリのあるエレガントなシルエット。SUVらしい実用性や居住性を確保しながら、「力強さ」と知的な「大人の色気」を兼ね備えて、より一層存在感のあるクルマに仕上がったと思っています。

乗り心地・操縦安定性に一層磨きをかける

2つ目のポイントはフロントのプラットフォームの改良で、大きく分けてエンジンマウントと、サスペンションの変更を行ってます。このクルマにもとめられる、安心して早く走るためには、ハンドルが伝えるドライバーの意思に、もっと素直にクルマが反応することが必要でした。そのために着目したのがエンジンの抱え方で、クルマが向きを変えるたびに左右に動かないよう、載せ方を変更しました。ハンドルをゆっくり切っても、コーナリングで頑張っても、いつでも素直にクルマが向きを変えてくれる、そんな素性を得ることができました。同時にサスペンションでは、スタビライザーとコイルスプリングの設定と前後のバランスを大幅に変更して、クルマのロールを少なくしながら、ゆったりと柔らかい乗り味が出るようにしています。

パワートレーンについては、個性を際立たせる狙いで、V6 3.5Lのハイブリッドと、2.0Lターボエンジンの2つに絞り込みました。「レクサス=ハイブリッド」という、ブランドイメージを牽引するハイブリッドモデルは、国内販売の主力に位置付けられています。大規模に新開発した直噴V6 3.5Lエンジンを採用して、フラッグシップユニットにふさわしい環境性能や運動性能に磨きをかけました。一方で、ハイブリッドにはこだわらない、普通のエンジンを選ぶというお客様も多数いらっしゃいますので、燃費と走行性能を両立した直噴2.0Lターボエンジンも採用しました。NXで採用しているターボエンジンをベースに、クルマが違う分だけギア比を低くして、駆動力を強化しています。
ジャーナリストの方々にも試乗してもらいましたが、みなさん先ず最初に、このクラスで2.0Lエンジンのパワー不足を心配していたようです。しかし、乗り終わったら一様に「期待以上に良く走る」と驚かれていたのが、作り手としては嬉しかったです。

レクサスRXはお客様を含めて、みんなで造っていくクルマ

レクサスRXというクルマは、レクサスブランドの中の最量販車です。最量販ということは、一番多くのお客様に乗っていただいて、実際にレクサスとは何か?を直接感じていただけるクルマ、とも言えます。レクサスLSやレクサスLXといった、ブランドイメージを引っ張る憧れのフラッグシップモデルとは違った意味で、ブランドを支える大事な役割をはたしています。
また歴代RXは、お客様の保有年数が比較的長い、というのも大きな特徴で、10年以上も大切に乗っていただいているお客様も数多くいらっしゃいます。一度乗っていただいたお客様に「ずっと愛される」クルマであるからこそ、長く使っていただいても飽きがこないクルマにすることも大切です。だからこそ、すべてのお客様にご満足いただけるように、お客様の声の一つひとつに注意深く耳を傾け、同時にエンジニア全員の知恵を集めて、細部にまでこだわって造り込みました。チーフエンジニアひとりの想いや好みだけで、クルマはできあがるわけではありません。

彼らエンジニアのチーフとして私は、メンバーの意見を良く聞こう、そのための敷居は低くしておこう、リラックスした雰囲気を作ろう、と心掛けるようにしています。例えば、会議の時はいつも「一発笑わせてやろう」と狙っていたり、ふとした弾みでいいアイディアが出てくるきっかけを大事に思っています。一方、開発にはもちろん失敗もあるし、叱る時には叱りますけど、失敗から学びを得るために、深く真剣な議論をします。そして、メンバーには常々「どんなに深刻な話でも、バッドニュース・ファーストで教えて」と言っています。それで本当に必要な情報が正しく入ってくるか、自分が試されることだと思っています。チームの一体感を高め、デザイン、足回り、エンジンなど部位毎の専門家のベストのアイディアを集約して、お客様のお手元にRXが届くまで、しっかりとした品質でまとめ上げる。これが私の仕事だと思っています。

4代目のレクサスRXは、こういう想いで作り上げてきたクルマです。デザインや乗り心地・操縦安定性だけでなく、最新テクノロジーを搭載した安全装備、先進装備もふんだんに盛り込んで、大幅な進化ができたと思っています。また、モノづくりの部分でも細部にまでこだわり、多くの改良を施して、手間ひまかけて造り込んで仕上げました。ぜひ一度、レクサスのお店で実車をご確認いただきたいと思います。

<プロフィール>
勝田隆之(かつだ・たかゆき)

1985年九州大学工学部航空工学科卒。同年、トヨタ自動車入社。シャシー分野の開発部や設計部に在籍した後、欧州に赴任しアベンシスやカローラバーソの現地開発を担当。帰国後、シャシー設計部でマネージャーを務め、商品開発本部(現在のLexus International)に異動。3代目RXのコンセプトプランナーを経て、3代目、4代目レクサスRXのチーフエンジニアに就任。子どもの頃の夢はパイロット、そして学生時代はバイクに​明け暮れた日々を送り、プライベートでは今でも飛行機模型作りや空を飛ぶことを楽しむなど、根っからのエンジニア気質である。

取材・文・写真:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)

[ガズー編集部]