トヨタ ノア VS 日産 セレナ 比較レポート

アピールポイントの多い新型ヴォクシー/ノアだが、やはり注目すべきはこのクラス初となる本格ハイブリッドモデルを設定したことだろう。

ここではノアのハイブリッド車と“簡易型”ハイブリッドシステムを搭載する日産セレナとを比較する。
これまで3年間販売台数トップであったセレナに新型ノアはどこまで迫れるのか?
そして追い越すことができるのだろうか?

エクステリア ~ますます強まるミニバンの主張

これまでのヴォクシーとノアは、デザインや販売店などの戦略の違いにより、カスタマーターゲットが異なっていた。かなり大ざっぱな言い方をさせてもらえば、若い男性ユーザーまで取り込めたヴォクシーに対し、ノアはファミリー色が強い。また“ママユーザー”が多いのも特徴である。
そこで生まれ変わった新型ノアだが、まず最も印象的なのがフロントグリルの造形だ。旧型からの流れは継承しているものの、押し出しの強さは「ミニバンの王道」ともいえるデザイン。やはり旧型はこの部分が足りなかったのであろう。

新型は新開発の低床プラットフォームを採用しているが、全長は100mm長く(エアロ系は異なる)、ホイールベースも25mm拡大。一方で全高は25mm低くなっている。横から見ると特にサイドウインドゥ面積が大きくなっていることが視覚的にもわかる。これらにより外観からでも「このクルマは広い空間を有している」という印象が伝わってくる。エクステリアにはこんな役目もある、ということを気づかせてくれるデザインとも言えるだろう。

一方、挑戦を受けて立つ側のセレナはどうだろうか。ノア(ヴォクシー)が年明けにフルモデルチェンジを行うことをキャッチしていたのは当然で、それより先に商品力強化を行うことで顧客の流出を食い止めたい考えだ。すでに2013年の東京モーターショーで参考出品されていたが、その翌月の12月25日に「ビッグマイナー」という触れ込みで発売を開始した。エクステリアではバンパーからフェンダー、ボンネットフード、そしてヘッドランプのデザインまでも変更する気合の入りよう。人気の「ハイウェイスター」はサイドシルプロテクターやアルミホイール、LEDコンビネーションランプの形状も変更している。パッと見た感じは特にフロントグリルが立体感のある形状になっている。これにより上位モデルの「エルグランド」に通ずるような上質感を持たせることに成功している。ただノアより40mm高い全高とウインドゥの見え方で腰高感があり、ハイウェイスターでも“スポーティ感”はやや足りない印象だ。

  • 3代目となる新型からラインナップに加わった、ハイブリッド車の「ノア」(写真左)。2014年2月24日に発売された。
  • 日産のベストセラーミニバン「セレナ」の現行型がデビューしたのは、2010年11月。その後も改良が重ねられ、2013年12月にもデザインの小変更や安全装備の追加などマイナーチェンジが施された。
  • 「ノア」には大きく分けて2種類のエクステリアが用意される。写真左はガソリン車に含まれるエアロパーツ装着車。右がその他ガソリン車とハイブリッド車に与えられるノーマルな外装である。
  • 写真のモデルは、装備充実の「ハイウェイスター」。専用のエアロバンパーや高輝度リヤコンビネーションランプが外装の特徴となっている。
  • フロントフェンダー部(写真)とバックドアには、ハイブリッド車オリジナルのエンブレムが添えられる。数少ない、ガソリン車との識別点だ。
  • ボディサイドには、S-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)のエンブレム。

インテリアと視界 ~セレナのメーターは最も未来的

インテリアの基本造形はシリーズ共通だが、ハイブリッド車の場合はインパネ内に「ハイブリッドシステムインジケーター」などを搭載した専用仕様となる。「プリウス」や「アクア」等の場合、システムの“今”がわかるエネルギーモニターが装備されるが、このクルマの場合はインパネ中央に設置されるマルチインフォメーションディスプレイに表示される。

一方のセレナは、地面からのヒップポイントは760mm(ノアは720mm)。たかが40mmの差と思うかもしれないが、乗り込む時の印象はかなり異なり、やや登るような感覚だ。もっともこれが今までのミニバンの姿ではあったのだが……。視界に関しては、ノアに比べると見晴らすような感覚が強く、良好の部類である。ただ三角窓が縦に長く横に狭いので、どうしても死角は多くなる。インストルメントパネルのデザインは空調の吹き出し口が上でナビスペースが下という構造だが、視線移動は少なくてすむため、地図が見にくいということはない。またセレナに採用されるマルチグラフィックアッパーメーターは、エコ運転を常に視覚的に意識させられるグラフィック表示の切り替えなどが可能。発売したのはかなり前だが、このあたりのデザインは最も未来的である。

  • 広さ感と見晴らし感を追求したインパネ。これまでに比べ、三角窓の面積を2割以上拡大するなど、良好な視界が得られるよう配慮されている。
  • なだらかな局面で構成される「セレナ」のインストルメントパネル。デザインのイメージは、「クルーザーのアッパーキャビン」とされる。
  • ハイブリッド車専用のオプティトロンメーター。ブルー基調のカラーリングや、左側のパワーメーターがオリジナル。
  • 「セレナ」のマルチグラフィックアッパーメーター。デジタル式スピードメーターのほか、目盛り表示のタコメーターやECOメーターがレイアウトされている。
  • インパネ中央部のマルチインフォメーションディスプレイでは、時計や外気温、燃費などの数値が確認できる。写真のエネルギーモニターは、ハイブリッド車だけに表示される画面だ。
  • 「セレナ ハイウェイスターG」のシート。このグレードに限り、簡単に汚れがふき取れる表皮を持つ「イージークリーンシート」がオプション設定される。
  • モダンリビングを意識してデザインされたインテリア。助手席手前に見える大きなオープントレイも、その重要な構成要素である。

広さと機能 ~パッケージの革新で広々室内を実現

ノアのハイブリッド車は、定員7名。つまり810mmの超ロングスライド機構付きキャプテンシート装着モデルとなる。新開発の低床プラットフォームの採用で、室内高は1400mmとクラストップ。またホイールベースも25mm拡大していることで2列目&3列目の膝まわりスペースを旧型より大幅に拡大している。また7人乗り仕様に共通なのが セカンドシートのベルトがシート組み込み式になっている点だ。コストもかかる仕組みだが、これにより前後左右多彩にシートアレンジを行うことができる点は、高く評価できる。

一方のセレナの定員は8名。特にセカンドシート中央に組み込まれている「スマートマルチセンターシート」がポイントだ。ある時は3人が座れるベンチシートの中央席としての顔、またアームレストやテーブルとしての顔も持つ。さらに独立して前後に大きくスライドする機能を持ち、これを運転席と助手席の間にセットすれば2~3列目をウォークスルーすることもできる“多芸”ぶり。またグレードによっては、頭部をサポートするリラックスヘッドレストの設定もある。ノアに比べると見た目より室内の寸法は狭くなるが、これらの機能を活用することで使い勝手を向上させている。

  • ハイブリッド車は、7人乗り仕様のみ。セカンドシートはセパレートタイプとなる。シート間には、カップホルダー付きの「折りたたみ式サイドテーブル」が備わる。
  • 「日産セレナ」の乗車定員は8人。セカンドシートは標準状態ではベンチ式だが、中央席部分のみ独立して前後にスライドさせられるのがポイントだ。
  • サードシートを跳ね上げ収納すると、セカンドシートは定位置よりもさらに後方に下げられるようになる(超ロングスライド機構)。前後のスライド幅は、最大なんと810mm。
  • セカンドシートの中央席を前方にスライドすると、ウォークスルー可能な空間が生まれる。これにより、サードシートへのアクセスが容易になる。
  • 定員3人のサードシート。中央席を使う際には、取り外し式のヘッドレストを追加する。
  • 定員3人のサードシート。左右にスライド可能なセカンドシート左側を中央に寄せれば、セカンドシートを倒さなくてもサードシートへの乗り降りができるようになる。
  • ラゲージスペース。左右分割式のサードシートを側面上方に跳ね上げることで、積載容量を拡大できる。
  • 標準状態のラゲージスペース。サードシートは「ノア」と同様、左右独立型の跳ね上げ式となっている。
  • サードシートを跳ね上げ、セカンドシートを前方にスライドさせると、ご覧のような積載スペースが生まれる。先代モデルより60mm低い500mmのフロア高も、セリングポイントのひとつ。
  • 「ノア」とは異なり、サードシートを跳ね上げた際の、収納位置は低くなる。室内スペースへの張り出しは大きくなるものの、3列目のウインドゥがシートで遮られることはない。
  • ラゲージスペースの後部床下には、予備の収納スペースも設けられる(ハイブリッド車の容量は111リットル)。写真右側に見える黒いボックスは、補機用のバッテリー。
  • 後部の床下には、予備の収納スペースも設けられる。必要に応じて蓋を取り外し、高さのある荷物を積むこともできる。

走行性能 ~乗ってびっくりの静粛性

トヨタが誇るハイブリッドシステム「THS II」。基本システムはプリウス、正確には「プリウスα」の5人乗り仕様(ニッケル水素電池)のものをベースに改良を加えている。試乗して一番感心したのがいわゆる電池の“置き場所”だ。バッテリーはフロントシート下、それも従来の縦置きに対し横置きにしている。低床プラットフォームの恩恵も大きいが、この配置によりミニバンが持つウォークスルー機構やラゲージ下の大容量サブトランクなどを犠牲にせず性能を達成したという。車重は、プリウスαに対して150kg前後プラス。しかも乗車人員の変化が大きいミニバンであるが、実際の試乗では十分といえる加速性能だった。ただしアクセルを深く踏み込んだ際のTHS II独特のこもるような音は、遮音がきいているとはいえ、その音と実際の加速感に若干のギャップを感じる。一方、普段使いであれば、静粛性の高さはお見事という感じ。実は静粛性に関してはガソリン車でも十分その実力を体感できたのだが、ハイブリッドモデルはさらにその上を行く。このクラスでは“初めての経験”とも思える新鮮な車内環境を堪能することができるのである。

ではセレナはどうか? これがなかなかの実力なのである。確かにノアのように本格的ハイブリッドが登場したことで燃費面では差が生じるだろう。しかしセレナはエンジンのどの回転数でも静粛性に優れ、さらに背の高いボディでありながら狙ったラインを難なくクリアできる、非凡なまでのハンドリング性能を持っている点は無視できない。燃費性能や静粛性ではリードするノアだが、乗り味の部分ではエアログレードやセレナに比べてもう少し洗練度を上げたいところだ。

  • 「ノア ハイブリッド」は、ガソリン車の「ノア」と同じくレギュラーガソリン対応。燃費はJC08モードで23.8km/リットルを記録する。
  • 2013年末のマイナーチェンジで、新たなフロントグリルを得た「セレナ」。ヘッドランプも2段式の新デザインに改められた。
  • リヤまわりは、サイドに張り出したリヤコンビネーションランプなどで、中の広さ感が伝わるようデザインされている。
  • 「セレナ ハイウェイスターG」のJC08モード燃費は15.4km/リットル。グレードによっては、最高16.0km/リットルを記録する。
  • パワーユニットは、1.8リットルのガソリンエンジンをモーターがアシストするタイプ。ハイブリッドシステム全体で、136PSの最高出力を発生する。
  • 再始動用「ECOモーター」を使って加速時にエンジンをアシストする「S-HYBRID」を備えるパワーユニット。燃費改善効果は限られるものの、コンパクトな設計であるため、室内空間への影響がないのがメリットだ。

“真のナンバーワン”への課題

新型ヴォクシー/ノアの発売後約1カ月の販売データによれば、両車合わせて、予定の8倍近いオーダーが入っているという。そのうちハイブリッド車が約4割ということからも、いかにユーザーがこのクラスのミニバンのハイブリッド化を求めていたかがわかる。ヴォクシーに関しては、ガソリン車の比率が7割に迫る勢いで、これにはエアログレードの存在による部分も大きいと予想する。

ライバルにこれまで辛酸をなめさせられたヴォクシー/ノアもこれからがいよいよ逆襲の時。まさに死角なし、と言いたいところだが、注文もしっかりある。今回のセレナのマイナーチェンジではエマージェンシーブレーキやLDW(車線逸脱警報)などの先進安全装備が装着されているのに、ヴォクシー/ノアには設定すらない。また販売店へは「なぜエアログレードのハイブリッドが無いのか」という問い合わせも多いと聞く。特に先進安全機能に関しては、昨今では軽自動車にも一部機能が採用されるほどである。もちろん安全装備である以上、搭載するためには超えなければならないハードルがあるのだろう。しかし、ライバル車で採用されている以上、無視することはできない。これとエアログレードのハイブリッドモデルがそろった時、名実ともにヴォクシー/ノアはMクラスミニバン・ナンバーワンの座を奪還することになるだろう。