東京モーターショー…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
10月28日、東京ビックサイトで行われた、第44回東京モーターショー、プレスデーに行って来ました。 恐らく、ここ20年は、毎回、行っています。隔年開催ですので10回は観ている事になります。
僕、個人としては毎回ワクワクしながら観ているのですが、行って感じるのは、ここ数回、徐々に、東京モーターショーの規模や熱が減って来ている、という事です。その間、お隣の上海モーターショーは、ドンドン規模も大きくなり出展社数も来場者も増えている様です。市場規模が違うので当然かもしれませんが、やはり寂しさを感じます。
仮にもGDP世界3位、自動車が基幹産業である先進国の日本市場が魅力の無いものになっていくのだとしたら日本人のクルマ好きとしては、本当に寂しいです。
しかし、プレスデーではなく、一般開催日に行って、来場している人の会話を聞いたり、車に対して、どの様な興味を持って観ているか等を観察すると、ヨーロッパのメーカーが日本の市場に興味を失っても仕方がないかな、と思ってしまいました。
多くの方は、ハイブリッドのファミリーカーやEV、そして自動運転等に興味を示し、スポーツカーや、運転を楽しむ様なモデルには、一瞥して「カッコイイね」と呟く位で、覗き込んで見る様な人は皆無、という感じでした。今や日本では、車に憧れやロマンを感じる人は少なくなった、と実感しました。
特に、私の様に、運転操作そのものを快楽と感じる人間は本当に少数派になっている様です。快楽としての運転経験を提供する為だけに存在すると言って良い、フェラーリやランボルギーニ。経済力は勿論、スマートな運転が出来ないと所有するのに気後れしてしまう様なベントレー等の超高級ブランドが東京では出展しない事も理解出来ます。
勿論、今後の環境の事を考えたら、今のスーパーカーでは負荷は、まだまだ大きいですし、まだ、ステイタスシンボルとして、また投機目的で購入している様な人も、いらっしゃるので、存在そのものが時代錯誤と言えるかもしれません。
唯、各メーカーの地道な努力により、スーパースポーツカーも、燃費が良くなり、排出ガスも減少してきています。更に、その車の性能を存分に発揮して楽しんでもらえる様なドライビングスクール等のソフト面の充実も図って来ている様です。
BMWのi8やポルシェ918スパイダーの様なハイブリッドのスーパーカーの登場も良い例かもしれません。
仮に、今のスーパーカーが全て、今のハイブリッドコンパクトカーの様な燃費で走れる様になったとしたら、こんなに楽しい事はありません…、と思う人が日本には、どれ位いるのかが心配です(笑)。
というのも、私が「運転が楽しい」と言うと
「運転って労働でしょ?」とか「(私は下戸なのに)お酒が飲めないのになんで?」とか、「運転って疲れるよね?」等と言われ、変人扱いされる事が増えてきたからです。 不思議な事に私と同世代で、かつては車好き、というイメージだった同僚まで、「今は全く興味無いな~」などと言っているのが現実です。
私が、何故、この様に「運転の楽しさ」に拘るかというと、日本の車メーカーが、それを忘れると、日本の家電メーカーの二の舞になってしまうのではないか、という危惧を持っているからです。
日本の家電メーカーは、ひたすら「安くて、壊れなくて、機能的」というのを追求し、一時期、正に世界を席巻しました。ところが、韓国や台湾等のメーカーの家電が低価格のまま、少しづつ、品質が上がって来ると、数々の日本メーカーの苦戦が始まり、いくつかのメーカーは吸収合併等を余儀なくされ、様々なメーカーの名前は消滅しました。
そんな中でも、メーカーそのものが「ブランド」になっているところは生き残っています。
大手の数社は勿論ですが、例えば、アナログの「レコード針」を作っている、ある日本のメーカーは、その「ブランド力」のお蔭で、最近のアナログ回帰の流れもあり、売り上げが飛躍的に伸びてきているそうです。この針でなければ出せない音が有る、と多くのマニアが言っています。この例は、家電メーカーとは少し違いますが、もし、この会社が「これでなければ駄目」と思わせるプロダクツを作っていなければ淘汰されてしまっていたのではないでしょうか?
これから、自動運転の電気自動車が主流になって来ると自動車も「家電」になって来ます。
そうなっても、自動運転装置等が機能しなくなった時には咄嗟に人間が制御する必要があるので、当面は「運転免許」は必要になるようです。
恐らく、状況によって「自動と手動を切り替える」という形になる…という事は、今もアナログレコードを楽しんでいる人がいる様に、手動運転を楽しむ人は消えない、という事が推測されます。
そうなると手動運転を、わざわざ選ぶ人、というのは間違いなく「運転を快楽として楽しむ人」という事になるので、今以上に、そのメーカー独自の「フィーリング」等が問われるようになると思います。
そうなった時には、多くの運転を楽しみたい方に選ばれるフィーリングが備わった車をつくっているメーカーが生き残るのではないでしょうか?ですから、今こそ、日本メーカーには運転好きに訴求する「味」を磨いておいて欲しいのです。
そんな事を考えながらモーターショー会場を歩いていたら、楽しみな車をTOYOTAブースで見つけました。それがS-FRです。コンセプトカーではありますが小型軽量のFRスポーツカーで、何と言っても素晴らしいのが、そうMT! 市販される際にはリーズナブルな価格になる、という事ですので、このクルマが「初めての愛車」になる人も多いはず。そうなった人は間違いなく、運転好きになると思いました。
実際、私の後輩、TBSの皆川玲奈アナウンサーは、CVTのコンパクトカーに乗っていた時は、運転に対して、歓び、というのは感じなかったそうですが、お父様がクルマ好きな事からMT車を運転する様になったら、その楽しさに目覚め、大学では体育会自動車部に入って、ジムカーナに夢中になったそうです。
1トンから2トン程の重量がある、テクノロジーの塊をダイレクトに、意のままに操る…
こんな楽しい事が有るでしょうか?!(勿論、そこには決して軽くない責任が伴う事も決して忘れてはいけませんが)
出来ればTOYOTAさんには、S-FRで運転の楽しさを覚えた人が、将来選ぶであろう、運転が楽しい、86よりちょっと上のクラスの「MTも選べる」スポーツカーも作って頂きたいです。
ヨーロッパやアメリカのメーカーが今でも高級スポーツカーにさえMTを残している(ポルシェ、アストンマーティン、GMコルベット等)のに対して、日本のメーカーには、その様な車は皆無です。
日本メーカーの皆さん!MTかどうかだけではなく、ダイレクトなフィーリングの、運転が楽しい車を、ぜひ、世に出して下さい。
その様な車は、特に今の日本では、利益をもたらさないかもしれません。
唯、その先には「このメーカーの味でなければ」というファンが増えて、クルマが電動自動化された後も、世界中の人から選ばれるブランドになる…そんな未来が待っているのではないでしょうか。
(テキスト/安東弘樹)
[ガズ―編集部]
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