日本のモータースポーツ 2 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

2016年7月16日(土)、17日(日)、私は日本のモータースポーツの最高峰、全日本スーパーフォーミュラ選手権第3戦を富士スピードウエイで観戦しました。

結果は、家族で応援していた中嶋一貴選手がレース途中までトップを快走するも、終盤に、オリベイラ選手に抜かれ、惜しくも2位でフィニッシュとなりましたが、とても見応えのある素晴らしいレースでした。

一貴選手の弟、中嶋大祐選手も予選で一貴選手(6位)のすぐ後ろ、8位に付け決勝当日を迎えましたが、午前中のフリー走行でクラッシュしてしまい決勝には出場出来ず残念でした。唯、怪我も無く、レース後には、大祐選手と話も出来たので、第4戦に期待します!

さて、本題です。

本当に素晴らしいレースでした!

にもかかわらず…

お客さんが少ない!

勿論、ガラガラではありませんが、自由席には空席も目立ちます。

雨の予報の中、結局、最後まで降雨は無く、ドライ路面で白熱した闘いが様々なポジションで行われ、観戦したお客さんは大満足の内容であったと思います。

そしてイベントスペースでは、各メーカーが工夫を凝らし、特に子どもに対し、モータースポーツの楽しさを伝えようと、本物のF1マシンや日本のフォーミュラマシンのコクピットに乗せて写真を撮るサービスをする等、涙ぐましい程の努力もしています。

混雑が無いお蔭で、長男もそれぞれのマシンのコクピットの収まり、写真を撮る事が出来ました。

でも、何故…、日本のトップカテゴリーのレースに人が集まらないのでしょう…。

ちなみに私は2年前まで、土日に生放送等の仕事をずっと担当して来ましたので、モータースポーツ観戦が可能になったのは、ここ2年です。ですから、スーパーGTは、大人気だけど、国内トップフォーミュラの人気は今一つだと話には聞いていましたが、実際、両方のレースを観戦してみて、その差に驚きました。

以前、私は「日本のモータースポーツ」というタイトルで、日本人は「ナショナリズム」が動機でスポーツ観戦する事が多く、純粋にスポーツを楽しむ人が少数である事から、ごく一部のスポーツ以外は、中々観戦して貰えない、という様な内容のコラムを書きましたが、それに通ずるものを感じました。

ここで、スーパーフォーミュラについて、基本を押さえておきましょう。

マシンは、シャシー(簡単に言うと、車体)がイタリアのダラーラ社製でパワーユニットはNRE(日本レーシングエンジン)という名の2リッター直4のターボエンジンです。ちなみに、そのエンジンはTOYOTAとHONDAがしのぎを削って作っており、毎回、素晴らしい熱戦が繰り広げられています。

基本的には全車イコールコンディションに近いので、ドライバーの腕勝負になり、それだけ白熱したレースになるという訳です。

そして何と言っても、参戦しているドライバーの顔ぶれが凄い!

今年は19人のドライバーが参戦していますが、その内、日本人2人を含む5人がF1経験者であり、カーナンバー41番、ベルギーのヴァンドーン選手は、現在F1マクラーレンホンダチームのリザーブドライバーでもあり、今年、怪我をしたアロンソ選手の代役で出場したバーレーンGPでは、いきなり10位入賞、貴重な1ポイントをチームにもたらしました。ある意味、現役のF1ドライバーとも言えます。

そして、日本の中嶋一貴選手と小林可夢偉選手は言うに及ばず、ですね。他のドライバー達も、間違いなく世界のトップレベルと言って差支えなく、だからこそ毎回、僅差の見ごたえのあるレースになるのです。

皆さん、如何に素晴らしいレースか解って頂けたでしょうか?

では、何故、スーパーフォーミュラが大人気、という事にならないか、私の分析に入ります(笑)。

ナショナリズムという意味では、マシン自体がイタリア製のシャシーという事も含めて、今一つ、何処の国のクルマという色が無い、という事が挙げられます。

F1の場合でも、メルセデスはドイツ製、フェラーリはイタリア製、ルノーはフランス製、マクラーレンホンダは日本製、(厳密に言えば、そうとは言い切れないのですが)という国別の対抗戦という見方も出来なくはありません。

スーパーフォーミュラの場合、エンジンは完全に日本製ですが、メーカー名も全面には出て来ないので、そこに思い入れを持つ事も出来ませんし、ましてや、基本、同じマシンなので、国別対抗心?は湧かないでしょう。

また、前身のフォーミュラニッポンが1996年に誕生してから、スーパーフォーミュラに至って20年、ここ4年は中嶋一貴選手の2回を含めて日本人がチャンピオンになっていますが、それまでは、16回のうち9回は外国出身のドライバーがチャンピオンになっていた事も、もしかしたら、影響が有るのかもしれません…。

スーパーGTの場合、ドライバーは2人一組で乗るので、一人は必ず日本人であり、マシンもGT500クラスでは、TOYOTA、HONDA、NISSANの日本の代表的な3メーカーが競い合い、GT300クラスでは、世界のスーパースポーツカーを相手に、中身は全くの別物ですが、外見と名前だけは自分達にも馴染みの有る日本車が互角に渡り合う、という構図も集客に?がっている要素かもしれません。

私の場合は、より速く(F1と比べても遜色がない)、しかも同じ条件で、一人一人が、その運転技術と精神力でガチンコ勝負するスーパーフォーミュラの方により魅力を感じるのですが、皆さんは如何でしょうか?

正直、好きなレースをあまり混雑しない状況で観戦出来る、今の状況の方が個人的には嬉しいのですが、やはり日本のモータースポーツの最高峰のレースを多くの方に観て頂きたいと切に願います。

蛇足ですが、観戦後、3連休の中日という事もあり、帰りの東名高速道路は、さほど渋滞はしないであろうと予測していましたが、富士スピードウエイ最寄りの御殿場インターチェンジから東京インターチェンジまでの間で4か所も事故や故障車による激しい渋滞が有り、千葉の自宅まで6時間掛かりました。

クルマ離れによって、普段運転しない方が3連休で慣れない高速道路に乗って事故を起こしてしまうのかな?等と考えながら、渋滞の高速道路を3ペダルのMT車を運転していたのですが、改めてMT車の楽しさを実感しました。

以前も、「時間の制約が無ければ渋滞も苦にならない」と申し上げましたが、今回は6時間の内、4時間は渋滞路での運転でした。

クラッチを踏んで、ガスペダルをほんの少し踏みながらクラッチを繋げてトラクションが掛かる瞬間の感触に、とてつもない快楽を感じる私は、渋滞の間ずっと顔がニヤけていたと思います。

渋滞している道をMT車で運転するとクラッチを踏む左足が「つりそうに」なる、と言う方がいますが、それは、よっぽど余計な力が入っているからだと思います。

私は、そのクラッチの反発力に、この上無い充実感を感じるので、何時間、運転しても苦になりません。

そして東名高速事故渋滞を抜けたら、日曜日の空いている首都高速道路が、ご褒美の様に待っていました。今度は時折、ヒール&トゥを織り交ぜながらリズミカルにシフトチェンジを繰り返し、流れに乗って、都心の街を通り抜けます。

正に至福の時間です!

稚拙な結論になりますが、私はモータースポーツと運転が病的に好きで、皆さんにもその楽しさを分かって欲しいと改めて実感した、今回のスーパーフォーミュラ観戦でした。

皆さん!特にクルマの選択権を持つ多くの奥さん!(笑)MT、慣れれば、絶対に楽しいですよ!そして、その楽しさを知ったら、もっと純粋にモータースポーツを楽しめますよ!

ぜひ、お試しください! 私が保証します!

う~ん…、無理があるかな~…。

安東 弘樹

(写真:トヨタ自動車)

[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road