世界三大スポーツイベント…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

連日、リオデジャネイロ五輪の熱戦が繰り広げられています。
この原稿を書いているのは陸上男子4×100メートルリレーで見事、日本チームが銀メダルを獲得した直後ですので、私自身も興奮しています!

日本選手団は8月20日現在、史上最多の41個のメダルを獲得し、私自身も時差が12時間あるリオでの五輪を観る為、睡眠不足と闘っています(笑)。

仕事柄、放送で競技の結果や裏側等を伝える為に、リアルタイムで観る必要が有る事から、文字通り、連日、半徹夜で応援しています。

もっと純粋に楽しみたい、と思う事もありますが、放送しない部分の映像などもチェック出来る場合もあるので、役得だな、と思う事も有ります(笑)。

正に日本中が興奮して観戦、応援していますが、実は海外では、オリンピックの報道は、日本程ではありません。

オリンピック期間中、例えばアメリカのNBC(基本的に米4大ネットワークの中で一局だけが放送権を買っている)やBBC等、色々な海外の放送局を会社で観る事が出来るのですが、色々なニュースや番組でトップでは伝えていますが、例えばBBCなどは自国、イギリスの選手が金メダルを獲っても少しの動画と静止画だけで、5分程、伝えて通常のニュースに変わる、という感じです。

私は入社以来初めて五輪の取材に行ったアテネで、海外と比べて日本の報道陣の多さに驚きました。

基本的に日本以外は一国、一放送局が現地に入るのに対し、日本はNHKと民放キー局で“ジャパンコンソ-シアムという共同企業体を作って、大挙して現地に入り、放送に取り組みます。

ですから、例えば人気種目で自国の選手がメダルを獲った場合、他の国とは比較出来ない程の数の報道陣が選手の元に集まります。

取材に行っている張本人であるにもかかわらず、初めての五輪取材だっただけに、ちょっと衝撃を受けました。

1964年の東京オリンピックが色々な意味で、日本復活の象徴であった事も大きいと思うのですが、やはり日本人にとって、オリンピックというものの存在の大きさは、他の国と比べて、別格なのかもしれません。

そこで、今回のタイトルの話です。

皆さんは世界三大スポーツイベント、というのは何か御存知ですか?

一つは、今、行われている“近代オリンピック”

もう一つは、“FIFAサッカーワールドカップ”

そして三つめは…、“FIA F1グランプリ”

なんです。

実は、三つめは様々な意見があって、F1は“ラグビーW杯”そして自転車レース“ツール・ド・フランス”等と争っている?様です。

これは、観戦者数、テレビ等での視聴者数、そして経済規模等で計算している様ですが、中々、結論が出ない様です。

三大スポーツイベントであろうがなかろうが論争の中にあるだけでF1が、世界で多くの人を熱狂させているのは確かです。

唯、皆さんも、お分かりの様に、日本に於いては明らかに三大スポーツイベントには入っていません。

この三大スポーツイベントについて調べようと、ネットで様々なサイトを見たところ F1支持者は日本では極端に少ないばかりか、敵視すら感じます。

異常な拝金主義(金持ちの道楽というイメージも多い)、とか、環境に良くない、とか、選手は座っているだけで、あんなのはスポーツではない。等、ここまで嫌われているのか、と思わず苦笑してしまいました…。

そんな事もあり、連日、五輪を観て、応援しながらも、少し、五輪に対して「嫉妬」している自分もいます。

日本では“ナショナリズム”が動機でスポーツを観るのが主流である、という話は以前もしましたが、それには五輪、サッカーW杯は最適です。

現在、F1には日本人ドライバーがいない上にエンジンサプライヤーであるHONDAも勝てないが故に?クルマ好きではない方は、HONDAが参戦している事すら知らないでしょう。

日本人が興味を持てないのは仕方がないですが、敵視までされる理由が先程挙げたネットでのF1への批判にあるならば、それぞれの意見に具体的に対抗?したいと思います。

まず、拝金主義。

これは、否定は出来ませんが、今や五輪もサッカーW杯も批判の対象になっているので、F1だけに言える事ではありません…。

続いて環境負荷の話です。 これは、今、アメリカのインディーカーシリーズで活躍している佐藤琢磨さんがF1に参戦している時の某雑誌のインタビュー記事の受け売りなのですが…、「F1の一年間のテストや開発、レース、そしてチームの世界各国への移動も含めた総CO2排出量よりもアメリカメジャーリーグの全チームの移動を含めた一年間の総CO2排出量の方が遥かに多い」そうです。

でも、F1等、モータースポーツばかりが環境負荷の批判を受け、野球は、そういった批判を受ける事が無いのは私としても不満です。

実際は市販車の省燃費化や安全化、様々な技術革新にモータースポーツが多大に寄与している事が、あまり知られていないのも、悲しい限りです。

そして、“選手は座っているだけでスポーツとは言えない…”これも、誤解、無知による意見としか言いようがありません…。

競技にもよりますが、選手(敢えてそう書きます)は一つのレースで2、3キロ痩せてしまう事も珍しくないそうです。

実際にプロのドライバーの身体を見ると、その鍛えられ方は半端ではありません。

我々が想像出来ない様なG(重力加速度)に耐えて、信じられない反応速度で様々な操作をしなければならないドライバーは、フィジカルトレーニングだけではなく、色々なハードなトレーニングをこなしています。

以前中嶋一貴選手が「フィジカルトレーニングは嫌いですけど、やはり、やらないと絶対に勝てない」と言っていました。

この様な、様々な誤解が解ける様に私も、色々な媒体で、何とか真実を伝えていきたいと思っているのですが、一人では中々進みません。

ですから、このコラムを読んで下っている、クルマに少なからず興味が有る皆さんが、ぜひ周りの、日本で五輪に夢中になっている多くの方々に、そういう事を伝えて頂きたいと切に願います。

後は、ナショナリズムでスポーツを応援する日本人に訴求する為に、トップクラスで闘える日本人ドライバーが、どうしても必要になります。

勿論WEC(世界耐久選手権)では、現在も中嶋一貴選手や小林可夢偉選手が日本メーカーであるTOYOTAのマシンに乗って、正にトップクラスで闘ってはいますが、日本ではF1と比べるとWECの知名度は、致命的に少ないのが現実です(もっとTOYOTAは宣伝すべきですが)。

そうすると、やはり日本に於いても抜群の知名度を誇るF1で、そういったドライバーが必要になってくるのですが、残念ながら、これまで選手権のトップを争える日本人は一人も登場していません。

今、現実的に、スポンサー等の金銭的なバックアップ無しで、F1のシートを獲得するのは極めて困難です(これも拝金主義と言われる理由の一つですが)。

そこで提案ですが、日本の自動車に関する団体、メーカー、そして国(これまでずっと基幹産業として日本の経済を支えて来た自動車産業をさらに応援する意味も含めて)が束になって、日本人の一流ドライバーを金銭的にも応援する訳にはいかないでしょうか?

これまで才能や技術はあるのに、“お金”で敗れた日本人ドライバーは少なからず存在すると思われます。

世界のトップに並ぶのであろうドライバーの見極めは難しいですが、日本のモータースポーツを日本に於いてメジャーにするのには、それしかないと思っています。

いつか、オリンピックと同じように、表彰台の頂点に立つ日本人ドライバーをテレビで観て、多くの人が涙を流す日を夢見ています。

私には何が出来るか、まだ分かりませんし、遠い夢かもしれませんが、多くの五輪メダリストがそうであった様に、決して諦めないつもりです。

安東 弘樹

[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road