モノづくりの考え方 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム
秋の足音が聞こえてくる今日この頃、皆さんは如何お過ごしでしょうか?
なんて書き出しを何故か、秋にはしたくなりますね(笑)
さて、私は、いくつかの自動車雑誌を定期購読しているのですが、今月は、偶然、二つの雑誌で別のジャーナリストの方が、それぞれクルマ以外の物を引き合いに出し、ドイツと日本のモノづくりの考え方の違いについて言及されていました。
大きく内容を纏めると、「ドイツの製品は、使っていくうちに、色々と壊れる事も有るが、メーカーは部品を限りなく長い期間作り続ける事もあり、壊れた箇所を直しながら使っていると、半永久的に使えるが、現代の日本の工業製品は大したメンテナンスをしなくても10年は壊れずに機能するが、10年程、経つと急に壊れ、その後は完全に使い物にならなくなる。そして、メーカーも10年を目処に部品も作らなくなるし、ストックもしないので、それ以上使い続けるのは難しい」という内容でした。
そしてお二方共に、どちらかと言えばドイツの物作りに対して肯定的な意見でした。
実は私も基本的には同意見ですが、勿論、日本メーカーの、10年間、とにかく壊れない、というのも驚異的であるのは間違いありません。
唯、愛着を持って一つの物を使い続ける、というのは、持続可能な社会の実現に必要不可欠であるとも言えます。
コストを考えれば、もう生産していない製品の部品を生産、保管しておくのは非合理的かもしれませんが、その製品が長く使われる事で、価値が高まり、それがブランドとなり、更に新しい顧客を生み出す、と考えれば、長い目で見れば、コスト以上に、利益をもたらす事になるかもしれません。
実はドイツと日本のモノづくりの違いに関して、自分の出演している情報番組で、ある工学博士が、こんな話をして下さいました。
2012年の中央自動車道、笹子トンネルの崩落事故の検証を番組で放送した際に、その博士がドイツで研修を受けた時に驚いた事、として、お話を頂きました。 トンネルが専門のその先生は、ドイツ郊外の、あるトンネルを見て、あまりに頑丈に造られている事に驚き、また、その費用を聞いて更に驚いたそうです。日本の同規模のトンネルの3倍以上のコストを掛けて、造られていた、との事です。
「公共事業であるトンネルに、こんな費用を掛けて大丈夫なのか?」と訊いた所、「基本的には少しのメンテナンスで100年間、持たせる様に造るので、何回も造り直す事を考えれば、長い目で見ればコストダウンになる。」との答えが返ってきたそうです。
ドイツでは、小さな製品から、クルマ、トンネル等の建造物に至るまで、モノを造る(作る)に当たって、その精神は徹底されているようです。
蛇足ですが、メルセデスベンツには、一台のクルマを長く所持し、長い距離を走ったオーナーを表彰する制度が有ります。
メーカーとしては本来、“利益をもたらしてくれる”多数のクルマを購入してくれる顧客を表彰したいはずですが、この制度からも、その精神を窺い知る事が出来ます。
一方の日本は戦後の急速な経済成長に伴い、急ごしらえでインフラを整え、その結果、40年問題と言われる、建物や社会インフラの老朽化の波が襲ってきています。
殆どの建造物を造り直すか、大規模な補修をしなければならない事を考えると、結果100年単位で考えた時には、どちらがコストが嵩むかは、明らかです。
その博士は、笹子トンネル崩落事故の様な悲劇が繰り返されないようにする為にも、今後、日本は、ドイツの様な思想でインフラ整備をしていくべきだと、提言をされました。
そして、クルマに関しても、両者の考え方が反映されていると言わざるを得ませんが、現実的に、その使われ方が、両国でハッキリと違うので、ある意味、仕方がないのかもしれません。
ですが、皆さん、モノづくり、という事で言えば、日本人は元来、今のドイツ以上に、長い目で、モノを作っていたと思いませんか?
千年以上前に造られたお寺が、何度かの修復を経て、現存している事を考えれば、日本人の“本来の”モノづくりの姿勢が分かります。
戦後、あらゆる価値観が変わってしまった事で、また急速に前に進まなければならなかった事で、モノづくりの精神まで、急激に変わらざるを得なかったのかもしれません。 という事は、今後は、本来の日本人の姿勢に立ち返り、長く使える、本当に良いモノをつくっていく、という風に少しずつ、シフトしていけるのではないでしょうか?
建物や家具等、本当に少しずつではありますが、一生モノ、というか何世代モノの製品が日本からも出てきている様です。
では、クルマは、どうか。
残念ながら、そのクルマの魅力、という意味でも、質という意味でも、一生、いや何世代、に渡って愛着を持って所有し続けるというクルマが、今の日本では、見当たりません。
勿論、ドイツメーカーの車も、以前と比べれば、何世代と乗り継ぐ、という様なクルマは減ってきている様に思えます。
だからこそ日本メーカーの皆さん、この、クルマにとって厳しい今だからこそ、法隆寺とまでは言いませんが、息子や孫にも乗り継いで欲しい、と思える様な、そしてメンテナンスさえ、きちんとすれば、現オーナーの孫も快適に楽しく乗れる様なクルマを造ってみませんか!?
トヨタさん!1967年には、孫の代まで乗り継ぎたい、そして、50年後に、発売当時の何倍もの値が付く事になったトヨタ2000GTを造ったじゃないですか?世界一の自動車メーカーになった今、造れない訳がありません。
何十年に一台、というペースではなく、常に、その様な車がメーカーのラインナップに1台は有る、という状況にして頂ければ有り難いです。
トヨタだけではなく、日産はGT-Rが、それに近いかもしれませんが、乗り継ぐ、という意味では、失礼ながら、後一歩、という感じでしょうか?
ホンダはNSXが、その様な存在のクルマになるのか、これからの評価になるでしょう。 マツダは新しいRX-7が、そんな存在になれるでしょうか?!
スバルは“小さいメーカー”と自ら言っていますが、ボルボの倍の規模のメーカーですボルボ240等が、長年に渡りファンに愛されている事を考えたら、そろそろ、その様な存在のクルマを、同じ位のコストを掛けて造ってみても良いのではないでしょうか?
三菱自動車は、伝説になるようなクルマを今だからこそ造って、起死回生の一発に賭けてみる位の気概が欲しいです。
スズキやダイハツも、そろそろコスト度外視の(前述しましたが、ブランドの再構築が出来る様な)真の意味での小さな高級車と言える軽自動車を造ってみる時期ではないでしょうか?その際は、くれぐれもパワートレーンやシャシーを他のクルマと共有、なんて事はしないで下さい。メーカー渾身の軽自動車、心の底から見てみたいものです!
素人が生意気を言っているのは重々、承知していますが、私は本来の日本のモノづくりを体現した日本車に乗りたいんです。
これまでも何度か触れていますが、これからの自動車メーカーは2極化、そして淘汰が進んでいくと思われます。各日本メーカーは、それぞれ、どの様な道を選ぶのか。
皆さん!改めて言わせて下さい! 本来の日本のモノづくりを思い出して下さい!
おのずと答えが見えるはずです!
今回は本当に私の魂の叫びでした!!
安東 弘樹
[ガズ―編集部]
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