ジャーナリストって難しい…TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

いよいよモータースポーツシーズンが本格的に始まりました!私の家のHDの容量が劇的に減ってくる季節、到来です。

先日、そのモータースポーツの一つ“WRC”の番組を観ていて違和感を覚えた事が有りまして、その事について、お話させて頂きます。

WRC第4戦、ツール・ド・コルス(フランス・コルシカ島でのラリー)の最終日の最終ステージ、生放送でした。スタジオにはキャスターの栗田佳織さんとTOYOTAの86開発主査だったTさん、某車雑誌編集長Jさん、そしてモータージャーナリストの、Kさんが、ゲスト解説として、いらっしゃいました。

レース自体の生放送は1時間で終わり、1時間半尺の番組の放送、残り30分はレースを振り返ったり、ラリー界やモータースポーツ、更に車メーカーの開発の裏話等をしたりしていくコーナーです。

レースではTOYOTAの1台、ラトバラ選手のヤリスが4位になりましたが、第2戦のスウェーデンで優勝しているだけに、TOYOTA、次は頑張れ!という雰囲気になっていました。

そこで、WRCの番組を2011年から担当しており86のオーナーでもあるキャスターの栗田さんが本領を発揮し、様々な“本音”の質問を繰り出すのですが、その内容が、思わず「良く訊いてくれた!」と呟いてしまう程、本質に迫る、的を射たものばかりで、元々ファンでしたが、更に栗田さんに対する信頼が深まりました。

まず感心したのが、「スウェーデンで優勝して以来、TOYOTA社内はWRCに関して盛り上がっていますか?」という質問です。一見普通の質問ですが、更に「スウェーデンで優勝した時は色んなメディアでTOYOTAヤリスの優勝が取り上げられて、私も嬉しかったんですが、それ以降、優勝していない事もあるのか、あまりTOYOTAのWRCの活動について目にする事が、ぱったり無くなりましたが、プロモーションは頑張っていますか?」
と、思わずスタジオのTOYOTAのTさんが、苦笑する質問で畳み掛けました。

それを聞いたJさんとKさんは、大爆笑です。

「流石!訊きにくい事を生放送で、ずばっと訊ける栗田さんは凄い!」と、褒めてはいますが、「素人ならではの質問だな」という若干、上からの爆笑だったのは言うまでもありません。

ただ、私は、そこに違和感を覚えました。

本来であれば立場的に「あなたたちが生放送で訊かなければならない事じゃないですか?」と思ってしまいました。

確かにTOYOTAのラトバラ選手がスウェーデンで優勝した時だけ、様々なメディアで取り上げられましたが、その後は、ぱったりと報道が無くなりました。これは我々、メディアの責任が大きいのですが、そこから、更に栗田さんの攻撃?が続きます。

何で「社内は、盛り上がってますか?と訊いたかと言いますと、先日、愛車86のバッテリーがあがってしまいまして」そこで、またJさん、Kさんは爆笑。「今度は車に苦情だ!」と大盛り上がり。

それにめげず、栗田さんは話を続けます。

「バッテリーが上がったのは、私があまり車に乗ってないのがいけないのですが、バッテリーを交換に来て下さったディーラーの方に、{WRCスウェーデン優勝、おめでとうございます!}と言ったら、え?何の事ですか?と訊き返されてしまったんですよ!」

と、またJさんKさん大爆笑です!
そこで、私は、栗田さんのコメントに感心すると共に、ただ、笑っている、おじさん二人(失礼!)に若干、苛立ちを覚えました(笑)。

今、実に鋭い、しかも純粋な気持ちで、TOYOTAの言わば当事者に思いをぶつけている栗田さんに対して失礼だし、そこは本当に、どうなっているのか、JさんもKさんも、Tさんに質問しなければならない状況にもかかわらず、なんとKさんは「TOYOTA の立場で言うと」との枕詞を付けて、こう言いました。

「TOYOTAの様な大きな企業では仕方がないんです。だからディーラーの人がWRCについて何も知らなくて、良いんです」と。

私は思わずテレビの前で、叫んでしまいました。

「いやいやKさん!それじゃあ、駄目ですよ!」勿論、現実を知り尽くしているからこそのコメントであるのは分かりますが、「大きな企業だから現状は仕方がないけど、これから浸透させましょう」なら、理解出来ます。

私とKさんは知らない仲ではないので、敢えて言いますが。Kさん!「知らなくて良いんです」は無いんじゃないですか?!

自分の会社の大きなプロジェクトを心から応援するかしないは、それこそ大きな企業ですから、全員が同じ方向に向くとは限らないので仕方が無いにしても、全く知らない、というのはいくらなんでも、「TOYOTAは、やる気があるのか?」と疑ってしかるべきだと思います。

ましてジャーナリストが何故、「TOYOTAの立場で」語るんですか!そこは、きちんと訊きましょうよ(笑)。

TOYOTAのTさんも、苦笑してないで、栗田さんの素朴な疑問(私も同じ疑問を持っていたので多くの視聴者も聞きたかった筈です)に答えて頂きたかったです。

ジャーナリストというのは本来、取材対象者が話したい事を聞き出すのではなく、一般視聴者や消費者が知りたい事を訊く職業で、それは往々にして取材対象者が訊かれたくない事、話したくない事が多いものです。

それを訊いて伝えるのがジャーナリズムというものではないでしょうか?

ちなみにこれは自戒も込めてお話しています。

現状、私も属している、特に大手メディア全体に言える事で、特に日本の場合、例えば記者クラブの存在からも分かる通り、取材対象者と同じ方向を向いてしまいがちです。

COTY(Car of the year)の総会に行って、様々なメーカーの広報の方に会って御挨拶をしましたが、皆さん、情熱を持った素晴らしい方ばかりでした。

クルマ好きとしては、正直、皆さんと色々な話をしたいし、仲良くなりたいという衝動に駆られました。しかし、私は車に関してはジャーナリストではありませんが「選考委員として」、一定の距離を保たなければと、心に決めました。

クルマの事を心から愛しているからこそ、それこそ交流が深くなってしまうと、同志の様になってしまう可能性が高く、そうすると確実に情が入ってしまうと思うからです。

特に前回の自分のコラムを読むと、どなたかを傷つけてしまったのではないか、と後悔すらありますが、まだ対象の顔が、はっきり見えないからこそ、「偽らざる気持ち」を綴れたのだと思います。

今回のコラムも個人攻撃だと思われたら本意ではありません。WRCの放送を視ていて日本メディア全体の傾向を再認識してしまい、思わず、筆を走らせてしまいました(実際はキーボードを叩きました)。

これまで、ずっと視てきた、このCSチャンネルのWRCの番組を栗田さんが担当して、もう7年目です。

最初の頃は、本当にハラハラしましたが(スミマセン!)、その後、海外ラリーの取材も行い、国内では実際にラリーに参戦する等、知識も経験も重ねられ、しかも純粋な疑問もぶつけられる稀有なジャーナリストとして、今、私は栗田さんを見ています。

今はわたしの目標ですらあります。訊きにくい事を訊いても、嫌な感じにならない術も勉強していきたいと思っています(笑)。

どうしても、私は、車の事になると熱くなってしまい、文章も言葉も、キツクなってしまいがちですので、嫌な感じにならないコツを、番組を観て盗みたいと思います!

あ、でも技術的な事だけではなく、コツは、あの笑顔ですかね…。

笑顔…、苦手なのですが頑張ります!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]