またしても届かなかったル・マンの頂 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

この原稿が公開される日には少し古い話題になっているかもしれませんが、やはり今回は、この話に触れない訳にはいきません。

第85回ル・マン24時間レース、またしてもTOYOTA GAZOO Racingは優勝する事が出来ませんでした。

本当に残念です。

去年の「レース終了3分前でのストップ」、の雪辱を果たすべく今年は必勝を掲げ3台体制(7、8、9号車)での挑戦でした。2日間の予選では7号車が小林可夢偉選手の驚異的なコースレコードを叩きだすドライビングによりポールポジションを獲得。8号車も予選2日目で2位を獲得。TOYOTAは見事にフロントロー(グリッド1列目)独占で決勝を迎えました。

そして決勝の現場には豊田社長自ら、応援というより“参戦”、という姿勢でピットに陣取り、正にTOYOTAは“総力戦”という様相です。

しかしレースが始まって8時間、8号車がフロントモーターのトラブルでピットに入り、その後復活するも結果9位(その後、上位の車の失格により8位)。10時間、レースをリードしていた7号車もクラッチトラブルでリタイヤ。その直後、9号車も他のマシンに追突され、その後リタイヤ。

TOYOTA  GAZOO Racingの2017年ル・マン24時間レースは3台中2台がリタイヤ、最高位、総合8位という結果に終わりました。ドライバーの中嶋一貴選手の言葉「速かったが、強くなかった」という言葉が全てを物語っています。

WECの他のレースは6時間で競われますから、他のレースだったら、TOYOTAは前戦のスパ同様、1,2フィニッシュを飾ったかもしれません。しかしル・マンでは、またしてもポルシェの後塵を拝する事になりました。

今年のル・マンでは1番上のLMP1(ハイブリッド)クラスの5台、全てがトラブルに見舞われ、レース中盤から残り1時間7分まで一つ下のLMP2クラス、あのジャッキー・チェンさんがオーナーのチームのマシンが総合で1位を走っていたという、凄まじいレースでした。だからこそ、一貴選手が言う、強いクルマ、強いチームでなければ勝てなかったのだと思います。

去年、ル・マン24時間レースのTOYOTAにとっての悲劇的な結果を受け、私は、本格的なスポーツカーをラインアップしていないメーカー(少なくともTOYOTAブランドでは)が、創業以来スポーツカーを造り続けているポルシェに勝つのは、まだ早いと「勝利の女神」が振り向いてくれなかったのではないか、という非科学的なコラムを書きましたが、今回の結果を見ると、あながちデタラメなコラムではなかったのではないかと、と読み返してみて思いました(苦笑)。

そして、今回は、もう一つ、TOYOTAが勝てなかった要素?を考えてみました。
WRCに参戦している事をTOYOTAのディーラーのサービスマンが知らなかったというエピソードを以前、このコラムで書きましたが、恐らく同様にWECの参戦、そして去年はル・マン24時間レースの優勝直前まで到達した事も知らないTOYOTA関係者もいるのではないでしょうか。

勿論、企業として、それが悪いとは言いませんが、恐らくポルシェの関係者がWECに興味が無い、という事は、まず考えられないですし、フェラーリの社員や関係者でF1に興味が無いという人は絶対にいないでしょう。

“勝利の女神”というものが存在するかしないか、というのとは別に、そのメーカー全体の“魂”とでも言う様な「気」は関係しているのではないかと、ちょっとだけ、考えさせられてしまいました。

勿論、科学的根拠のない“戯言”だと認識しているつもりです。

ただ、先日あるクルマを見にHONDAのショールームに伺った時も営業の方の中には、特にF1には興味は無いし、販売台数に影響は無いとおっしゃる方もいて、やはり拍子抜けしてしまいました。80年代後半~91年のHONDA黄金期の熱気が嘘の様です。

この空気が、HONDAが現在はF1で苦戦している理由の一つなのではないかと、やはり非科学的な事を考えてしまいました。

日本のメーカー直系のレーシングチームの場合、ここ最近は自分のメーカーや関連会社全体から“モータースポーツに参加している”という誇りを感じる事が無くなってきているのではないでしょうか?という事は精神的なバックアップも得られないという事になります。

ちなみにテレビ局で言うと、たとえ、ある番組が高視聴率を記録したとしても、社員や関連会社等、全体的な興味が薄いと、その番組のスタッフだけが評価され、会社には貢献する事にはなりますが、それで終わりです。ところが例えば弊社のドラマ「逃げ恥」の様に、他の番組のスタッフや、所謂「非現場」と言われる部署の人まで、興味を持って盛り上げようという気持ちになると、それぞれが番組エンディングの「恋ダンス」を皆で踊って動画配信する等、一丸となって応援する事になり、気付けば社会現象にまでなっていた、という例もあります。

放送終了後も「逃げ恥」のDVDはかなりの数が売れ、会社に大きな利益をもたらしました。ただ、こういう事は強制しても意味が無いので組織全体が自然と一体となる事が重要です。

そう考えると、暫くは、もしくは未来永劫?メーカーや関連会社が一体となって自らの会社を代表するレーシングチームを応援するという状況になる事はないかもしれません。

では、これからもル・マンで勝つ事は出来ないのか。いえ、光が見えない訳ではありません!

今年のル・マンで解説をしていた脇阪寿一さんは「今年の惨敗のお蔭で、今後は、更に速くて強い、凄いマシンが開発される事になるかもしれない」と仰っていました。そして本格的なスポーツカーが来年には、いよいよTOYOTAから、発売されるという情報もあります。
少し残念なのがパワーユニットは基本BMW製ということですが、ハイブリッドモデルのパワーユニットはTOYOTA製との情報も有る為、個人的にも期待しています。

しかも、そのクルマは「スープラ」と呼ばれるそうで、往年のファンからすると本当に嬉しいブランドの復活です。(ただ、現在の情報ではMTの設定が無いとの事で、私としては、その点については絶望しているのですが…泣)。

さて、それが実現した場合、私理論?からすると来年こそ、“勝利の女神”が振り向いてくれるのではないかと期待せずにはいられません。「漸く本格的なスポーツカーを世に出しましたね。じゃあ今年は勝たせてあげましょう」。

というところでしょうか?

自分で書いていて何と荒唐無稽な、と思ってはいますが、もし来年、TOYOTAのドライバー が見事にル・マン24時間レースの表彰台の中央に立ったら、このコラムを一瞬だけ思い出して下さい。

来年の6月、「祝!ル・マン24時間レース優勝!」というタイトルのコラムを書く事を楽しみに、筆を置きたいと思います。

負けるな!TOYOTA!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]