EVの楽しさと可能性 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

今日、某メーカーの新しいEV(電気自動車)に乗って来ました。理由が有って、それについては触れられませんが、良い機会ですので、これまで、あまり話をしてこなかったEVの話をしようと思います。

これまでに、お話してきた通り私は3ペダルのMTの運転に至上の喜びを感じる人間ですので、基本的に変速操作が必要無いEVには、あまり興味は有りませんでした。しかも私は、1回に走行する距離が長いので航続距離が短いEVは道具としても使い物にならないというイメージも有ります。一日に500キロは当たり前、以前も書きましたが、島根までトイレと食事以外は休憩無しで行った時にはディーゼル車で無給油で800キロ走りました。

とにかく長時間、運転していたいので、途中で何回も停まるのは論外で、最近、航続距離が伸びたと言っても1回の充電で300キロ走れるかどうかでは私としてはクルマとして、どうにもならないのです。

そんな私がアメリカの“テスラ、モデルS”に初めて乗ったのが4年程前、漸く青山のショールームにモデルSが届いたばかり、という時期でした。そこで乗った印象は、加減速もぎくしゃくするし、私の好きな変速は無いし、回生ブレーキ(エンジン車で言えばエンジンブレーキの掛かり具合?それによって充電の量も変わってくる)の強弱は停まっている状態でしか変えられなかったりで、運転は、どこか人工的且つ無機質な感覚の為、楽しくなかった上、大きくて重い、と言うのを実感できる、どこか鈍重で、軽快感が無い、鈍いクルマというものでした。

確かに加速だけは凄い、というのは強烈に覚えています。航続距離は当時400キロ、と謳っていましたが、実際は300キロ走らないと正直にスタッフの方が教えてくれました。当然、当時は全く食指が動きませんでした。

そして、その1年後、今度はBMWのi3というEVに乗る機会が有りました。テスラと比較すると軽快感が有り、殆どアクセルだけで加速、減速、そして停止までのコントロールが可能で、テスラより好印象だったのを覚えています。

勿論、車体の大きさ、重量が違うので当たり前なのですが、運転感覚そのものが、より自然で、その部分が好印象に繫がったのだと思います。

唯、純EVモデルのi3の航続距離はテスラ・モデルSよりも、かなり短く、発電用のエンジン(レンジエクステンダー)が付いた物でも、300キロ走るのはカタログはともかく、やはり実際は不可能だという事でした(私が試乗した当時のモデル。最新モデルは航続距離が伸びたそうですが、現実的には300キロ前後だそうです)。やはり航続距離がネックで、その時も、「欲しい」という気持ちにはなりませんでした。

そんな事で暫くEVには関心が無い日々が続いていましたが、私がお世話になっていた自分の所有車の担当営業の方(Kさんとしておきます)が突然、会社を辞めたかと思ったら、テスラに転職したという連絡を頂き、驚いていたら早速、テスラ、モデルS試乗の案内を頂きましたが、以前の印象が有ったので、最初は、お断りしました。

しかし、その後暫くしてから、「今度は“富士スピードウェイ”での試乗があるので、騙されたと思って一度、乗って下さい。」としつこく?(笑)誘って下さったのです。

元々、MTのスポーツカーを、そのKさんから購入したのですが、とにかく運転が好きな方で、自分でもレースに出場している様な“カー・ガイ”が、そこまで言うのなら、と予定を何とか空けて富士の試乗会へ家族と参加しました。

最初に体験したのが、停止状態からのフル加速だったのですが、これが本当に凄まじかったです。最初に乗った時も加速だけは良かったという印象は有りましたが、以前とは次元が違いました。

0-100Km/hは2.7秒。

これは少し前のF1のスタート時の加速とあまり変わりません…。

しかも車体は殆ど5m×2m。重量は2t超え。そんな金属の塊がF1の様な加速をするのですから、それは圧巻です。同乗していた家族も、正に腰を抜かさんばかりに驚いていました。そして私にとって嬉しかったのは、運転そのものが楽しくなっていたのに驚かされた事です。勿論、変速作業は有りません。

そしてアクセルだけで、全てをこなせるのはBMW i3と同じではあるのですが、より人間の操作に対して、繊細に反応してくれて、思いのままに操れる、といった感覚でしょうか。

私はCVTが嫌いなのですが、それは例えば加速したいと思ってアクセルを踏んでもエンジン回転数が上がるだけで暫く速度が上がらなかったり、減速時に自分の思う様なエンジンブレーキが掛からなかったり、とにかく自分の意志に基づく動作に対しての反応が鈍いのがストレスになるからです。最近はかなり改善されてきましたが、まだMTや2ペダルのツインクラッチの車には及びません。

しかし、テスラのアクセルは加速も減速も思いのままなのです。急加速したい時はアクセルを踏み込めば、思った通りの凄い加速をしますし、ゆっくり加速したい場合はゆっくりアクセルを踏めばその通りの加速をします。

減速も然りで、ゆっくりアクセルを戻せば緩やかな減速になり、アクセルを急に戻せばかなり急減速してくれます。慣れは必要ですが、慣れてしまった後、実際に自由自在に車を操れるという感覚に夢中になってしまいました。

Kさんが「騙されたと思って乗ってみて下さい」と言った理由が良く理解出来ました。

Kさん自身もエンジンのスポーツカーにしか興味が無かったにもかかわらず、実際に運転してみて転職を決心したそうです。そして、その日から、私のEVのイメージも変わったのです。

これはあくまで私の持論ですが、最近の若い人の運転嫌いはCVTのせいだと思っています。

多くの方が最初に運転するのがCVTの軽自動車やコンパクトカーだとしたら、前述したCVTの鈍い反応は知らず知らずのうちに、運転者にストレスを与えます。ですが、それしか知らないと、車の運転そのものが、楽しくないものとインプットされてしまうのではないか、という論理です。

私が初めて所有したクルマは中古のMTの小さなスポーツモデルで、自分の意のままに引き出す加速に痺れ、パワーアシストの付いていないステアリングと格闘しながらも自分の力でクルマを捻じ込んで曲げるという作業に夢中になりました。操作が下手だと、それは、そのまま車の挙動に現れます。それも含めて、自分が操作した通りに車が動くのが快感だったのです。

それを一つのペダルで出来るのがEVだと気付かされました。慣れれば自分の足の僅かな動きに反応してくれますので、完全に手中に収める事が出来ます。このEVが初めてのクルマだったとすれば、若い人も少なからず運転の快感に目覚めてくれると、今は確信しています。

以前、「クルマ離れ」というタイトルで、コラムを書きましたが、その時に若いスタッフ全員が「運転は好きではない」と言っていた事を紹介しました。実は今、彼らに最近のEVを運転させてみたいと思っています。必ずや「楽しい!」とか「スゲー!」といった言葉が出て来るに違いありません。

しかし、問題は、まだ、どのメーカーのEVも価格が高い、という事です。日本のメーカーでは、まだ2社しか販売していませんし、車種も、それぞれ1種類のみ。しかも1社は軽自動車規格で、性能は、まだまだ人を感動させるという域に到達していないと言わざるを得ません。

テスラは、現在のラインアップは1千万円前後のモデルが中心で、その半額程のモデルの予約は受け付けていますが、日本で走り始めるのは少し先になりそうです。半額と言っても…、気軽に買える価格ではありません。

現状、まだまだ選択肢は少ないですが、運転の楽しさを含めての可能性に、私は今、期待を寄せています。しかし、本当に環境の事を考えた場合、製造工程で発生するCO2の事や、充電する電気をつくる手段も考えなければ本末転倒になりかねません。理想は製造時を含めて再生可能エネルギーによる発電、充電を実現して、それによってEVを運用するという形をシステムとして実現させる事でしょう。

ちなみに私にとっての理想のEVは“クラッチの様なペダル”を踏んで変速するMT操作機能付きのクルマです。操作を誤ればエンストならぬ“電スト”してくれれば完璧です!

うん、出来ないな。そんなクルマ…。

安東 弘樹

[ガズ―編集部]