第45回東京モーターショー2017 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

去る10月25日、2年に一回開催される東京モーターショー(以下、TMS)のプレスデイに取材に行って参りました。そして3日後の28日、週末の土曜日には、今度は家族と一緒に、完全な観客としてTMSを観に行きました。

やはり、普通の観客目線でも観てみないと、見えない、感じられない事も有ると思いますので、私は毎回、この様な形で2回は足を運ぶ様にしています。

まず、プレスデイで感じた事からお話したいと思います。

今回は冷たい雨が降る状況で、私が到着したのが午後2時を過ぎていたからかもしれませんが全体的に来場者数が少ない様に感じました。

一昨年までは、ここに居る人すべてがプレス関係者とは信じ難い程の数の人が、熱を持ってショーを取材していたと記憶しているのですが、特に海外メディアの姿が大幅に減った様な気がしました。

確かに、ここ数回のTMSの来場者数は多少の増減はあるものの全体として右肩下がりというデータが有りますが、ここまで「減ったなー」と実感したのは初めてです。

世界的にモーターショーへの来場者数や参加メーカーは減っているそうですが、ここTMSが最も減少率が高まっているというデータが裏付けられた印象です。

世界初公開、いわゆる“ワールドプレミア”が減っているのも、大きく頷けます。

今後、日本の人口が減っていく為、市場として魅力がなくなっているのは仕方がありませんが、「数」以上に日本全体で、クルマに対する情熱が減っているのが国内外のメディアにも伝わっているのが原因だと私は思います。

これまでのTMSでは多くの同業者(アナウンサー)に頻繁にお会いして、名刺交換をする機会が多かったのですが、今回、一人のアナウンサーとも名刺交換をする機会は有りませんでした。

勿論、タイミングが合わなかっただけかもしれませんが、4時間弱、会場に居て、一人の同業者に合わないというのは正直、驚きました。

それを裏付けるかの様に私の局では殆どTMSの話題がニュースや情報番組で放送される事は無かった様です…。

私が出演している「ひるおび」という番組でもプレスデイの翌日、番組の最後に数秒、音の無い映像が流れて、字幕で開催日程が表示されただけでTMSに関しての放送は、それで全て終わりでした。

私が苦情を言うと(笑)、プロデューサーは一言。「今、皆、あんまり興味ないだろ」

ああー、これが現実かと打ちのめされました。

しかし、そのプロデューサーが言った事は、的を射ているかもしれません。

私の学生時代からの友人で数回に1度、TMSに共に行っていた者がいるのですが、前回から「もうモーターショーはいいかな。(もう今後は行かない。の意)」と宣告されてしまいました…。

理由を訊くと、「20年位前までは、いつかは憧れのクルマが買える様になるから、参考の為に、と、リアルな目線で、観ていたし、今は買えない金額の車でも、どこか、将来は買える様になるのではないかと、ほのかな期待も有って、だからこそ本当に高嶺の花と思える様な車も華やいだ気持ちで観る事が出来たけど、最近は将来の限界も見えてきた中で、現実的に買える車は、どれも“燃費が良い”だの“室内が広い”だの、“安全”だの、全て確かに必要な事だが、お!カッコイイ!と感情に訴えて来る車は日本メーカーではコンセプトカーばかりで、実際に販売されるときは、見事に良い所だけ無くなった、似ても似つかない車になっているので期待はできないし、お!これは欲しい!と思える車は殆ど輸入車で、金額的に、とても手が出る物ではない事が多く、最後は虚しくなるので行かない」

という、何も言い返せない論理的な返答が返って来ました。

彼は、クルマに詳しいわけではなくスペックにも興味が無いのですが、まさに感覚で、これまでも車を購入してきた者です。

何度か車の購入の際には相談を受けてきたのですが、恐らくここ10年はクルマを変えていません。

買える範囲の値段で欲しい車が皆無なんだそうです。

彼の車は日本メーカーの車ですが、確かに個性的で、今の日本メーカーからは、まず販売される事はないと思われる、“素敵な”車で、価格も、現実的なものです。

今回のTMSでも、日本のメーカーから、そんな“素敵な”クルマが「コンセプトカー」の中には多数、出展されていました。

敢えて車種は言いませんが、それぞれのメーカーに、1台や2台、心で欲してしまう車が見られました。

それは、このまま、販売出来たら、車離れなんて吹き飛んでしまう様な人の心を惹き付けるデザインやコンセプトの車で、もし日本メーカーの平均的な価格で販売され、このままの形でこの様な車が多数、街を走りだしたら、街の景観すら変えてしまうかもと思える物も有りました。

写真を見て下さい!

そう、クルマは戦後から現在まで日本の基幹産業であり続けてきて、街の景観や人の気持ちまで変えてしまう、無くてはならない存在なんです。

ですから日本メーカーの皆さん、自動運転だろうが電気自動車だろうが、一目見て、思わず声が出てしまう位、魅力的な車を作って下さい!

現段階では、クルマに興味の有る長男はともかく、さして興味の無い次男が“現実に販売されている車”の中で、「カッコイイ、カワイイ」と言って指を指す車が、全て輸入車だったという現実を伝えておきます。

今回はアメリカ、特に子どもに訴求しやすいスポーツカーが多いイタリア、そして、イギリスのブランドが出展していない中で(それぞれのメーカーは日本市場に期待をしなくなってきている為?)次男を惹き付けたのがフランスメーカーの車ばかりだった事も付け加えておきます。

高コストで作られた価格が高い、ドイツのプレミアムメーカーの車ではなく、価格帯も近いフランスの車への、子どもの、純粋な感性での評価という所が、ポイントです。

私が懇意にさせて頂いているジャーナリストが、おっしゃっていました。

「先日取材に行ったフランクフルトのモーターショーでは自国開催のドイツメーカーのブースの規模、ワールドプレミアのみならず、出展車の数、そして演出等、全てに圧倒されました」

「そして、明確なメッセージが、それぞれのブランドから強烈に発信されていました」

同じくクルマが基幹産業である日本で、TMSでの日本メーカーは海外メディアを圧倒出来ているのでしょうか?

今回、数が少ない為、出展メーカー全てをあっさり周り終えてしまった時に、日本でのクルマ業界、産業は、この先どうなってしまうのか、危惧を持ったのが正直なところです。

各日本メーカーは「愉しさと安全」を盛んに謳っていましたが、本気で「愉しさ」を追求しているのか、そこは私には分かりませんでした。

ドイツメーカーは、小さいものから大きなものまで、とにかく圧倒的な性能、質を追求しているのが良く分かります。

フランスメーカーは同じく全ての車で「愉しく」「瀟洒(しょうしゃ)」である事を徹底的に追い求めているのが伝わってきます。

ひるがえって、日本メーカーは、この車は実用車だからコストダウン、この車は多少お金が掛けられるから装備を充実させよう。これは少しお洒落にしてみるか、あ、これなら多少スポーツカーっぽく作れるかも、と、車種毎にコンセプトがバラバラで、一貫したメッセージが伝わって来ません。

勿論、そういったメッセージを発信しようとしているメーカーも有りますが、何処か迷いというか、自信の無さをそれぞれのブースから感じてしまいました。

その背景には政府のバックアップの少なさもあるかもしれません。
今回、プレスデイに、元アウディのチーフデザイナー(実際は、もっと複雑な肩書ですが)でいらっしゃった和田智さんにお会いして少しお話が出来たのですが、ドイツにおける政府の有形、無形の後押しは想像以上だったと、おっしゃっていました。

そして国全体が自国の自動車産業に誇りを持っていて、政治家や国のトップが、その代表であるそうです。

日本メーカーからドイツメーカーに移ったからこそ、その差を実感したという和田さんの言葉には説得力が有りました。

日本メーカーからメッセージを感じられないと申し上げましたが、それ以上に、明確なビジョンが無いのが政府かもしれません。

この先、モビリティをどうしていきたいのか、以前もコラムで書きましたが、日本としてEVにシフトするのか、内燃機関はどう扱っていくのか、インフラを含めて国が舵取りをしてくれなければメーカーとしては迷ってしまうのも当然です。

衆院選で圧勝したこの国の舵取り役の皆さん、どうか、正しくスピーディーに車業界を導いて下さい。

そこまで考えさせられた、今回の東京モーターショーでした。

[ガズ―編集部]