初仕事 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

先日、私が「カー・オブ・ザ・イヤー」(以下、COTY)の選考委員になって初めての実質的な仕事、10ベストカーの投票をさせて頂きました。

11月の初めに投票をして8日に開票、そして、発表となりました。

ここではその10台を書きませんが、インターネット等で確認する事が出来ますので、気になる方は検索をしてみて下さい。

私が選んだ10台のクルマの内、7台が10ベストカーに選ばれましたので、やはり、他の選考委員の皆さんと大きくは違いませんでしたが、他の3台は、私にはあまり響かなかったクルマでしたので、それぞれの選考委員によって個性が出るのもまた事実です。

私は、数少ない“非専門家”ですので大変恐縮ですが、私の物差し“とにかく運転が楽しいかどうか。また、それが燃費や快適さとどう両立しているか”その点だけで評価させて頂いたと言っても過言ではありません。

そして、11月下旬にその10台を集めて改めて試乗する「取材会」があり、それぞれのクルマを再確認し、私達選考委員が数日後に投票、その上で、12月11日に“カー・オブ・ザ・イヤー”と各部門賞が発表される、という流れになります。

それにしても、選考委員になってから半年強で、様々なメーカー、ブランドの試乗会に参加させて頂きました。

正直、会社の仕事との両立に関しては不安があったのですが、空き時間と休みの日を徹底的に試乗に当てまして、自分でも驚く位のクルマに乗る事が出来たと思います。

唯、メーカーやインポーターが主催して下さる試乗会は、平日の泊まりがけのものもあり、そうなると、会社員である私は流石に参加が難しいのですが、1つだけ(某輸入車ブランド)は、特別に変則スケジュールを組んで頂いた事で、辛うじて参加する事が出来ました。愛媛県・松山と広島県・尾道を、しまなみ海道を通って往復する、というもので、しっかりと、そのクルマを堪能、取材する事が出来ました。

そして長い時間、クルマに触れる事で、様々な事が分かるものだと実感しました。

この場を借りて、私のスケジュールに対して柔軟な対応をして下さった、そのインポーター様には御礼を申し上げます。

唯、その上で、10ベストカー、そしてCOTYの選考には純粋にクルマの良し悪しだけを見て決めさせて頂くのは言うまでもありません。

そして、半日や数時間で完結する試乗会には可能な限り(会社の仕事をずらしてでも…)参加する事によって、何とかCOTYノミネートのクルマ31台のうち、30台には乗る事が出来ました。

残る1台は11月下旬の取材会で時間を割いて、乗って、触って、徹底的に検証?しようと思っています。

これまでも雑誌のコラムの取材等で、何人かの広報の方とお会いする事はありましたが、今年から「選考委員」として、メーカーやインポーターの方々と深くお話をさせて頂く様になって、改めて「クルマを作って売る」という事の難しさを知る事が出来ました。

どのメーカー、インポーターも、それはそれは情熱的にクルマに向き合っているのは確かで、私が、これまでは興味が持てず、むしろ批判的であったクルマを作り、輸入している方とも、正に胸襟を開いて話しましたが、皆さん真正面から私の意見を聞いて下さりました。

当初は、どの試乗会に行っても、選考委員・ルーキーである私に対して、皆さん「どうして、TV局のアナウンサーが選考委員なのだろうか?一体、どんな人物なのだろうか?」と、少し警戒?されているのが手に取る様に分かりましたが、少し話をさせて頂くと、私の変態的クルマ好きを御理解頂けて、お互いに話が止まらなくなるというパターンの繰り返しになりました。

そして最終的には、私も思った事を全て言わせて頂ける様になり、また、それに対して先方も、本音でぶつかって来て下さる様になったと思っています。

特に開発に携わっている方と話すと、目がキラキラ輝いていて、やはり真のクルマ好きに悪い人は居ないと確信するに至りました(笑)(ちなみに、どんなクルマに乗っていようと、公道で人を煽るような危険な運転をするドライバーを私はクルマ好きとは認めません)。

しかし、皆さんの目が輝いていて、話が盛り上がったとしても、やはり私の先に述べた基準は絶対に譲れません。

他のプロの選考委員の方も、それぞれ基準をお持ちだと思いますが、私は極めて偏った“3ペダルのMT至上主義者”として、とにかく自分の手足の様にダイレクトに操れるか、路面の情報が不快ではなく、ステアリングを中心にクルマ全体から伝わってくるか、つまり運転して、思わず頬が弛んでしまうかどうか、を中心に、そこに近いか遠いかだけで、まず10ベストカーを選ばせて頂きました。

今回は、軽自動車やコンパクトカーで、それに近いクルマがあったのは嬉しい限りです。

そして恐らく、イヤー・カーもその基準で選んでしまうでしょう。

実は、選考委員に決まった直後、今後は使命や責任が伴う事で、これまでのクルマに対する気持ちや、純粋に「好き」という感情に変化が生じてしまうのではないかと少し不安になった事もありましたが、それは杞憂に終わりました。

クルマの専門家の皆様と交流する機会が増えて、自分はクルマの事を話しあう相手に飢えていた、という事が良く分かりました。

例えば、あるブランドの試乗会では、ドイツ人女性の新人広報の方とドイツ在住経験がある日本人の広報の方と3人で、ドイツと日本の道路状況や行政の違い、また日本とドイツのクルマやドライバー気質の違いなど、話しこんでいたら試乗予定時間を1時間も過ぎてしまっていた事がありました。

試乗担当の方が「3人が、あまりに楽しそうにお話しているので、声を掛けられませんでした」と、待っていて下さっていました。

平謝りで、1時間遅れで試乗をさせて頂きましたが、良い迷惑です…本当に。

また、ある日本メーカーの試乗会では、そのメーカーのクルマが私の初めての愛車であった事もあり、試乗を終えた後、当該車の開発主査の方と、各部門の開発担当の方と、そのマニアックな私の初愛車の事で盛り上がってしまい(盛り上がっていたのは私だけかもしれませんが)、気付いたら試乗会終了時間を大幅に過ぎて、やはり迷惑を掛けてしまっていました。

その開発主査の方には「安東さんは知っていましたが、局のアナウンサーで選考委員なんてどんな人だろうと思っていたら、正直、度胆を抜かれました。素人で、こんなにクルマについて話が止まらない人は初めてです」と呆れられました…。

本当に、色々な所で迷惑を掛けてしまったと反省しております。

結論から申し上げますと、選考委員になっても、全くそのクルマ熱は変わらず、むしろ話し相手が増えて喜ばしいと感じている自分に気が付きました。

ただ、交流して下さっているプロの自動車評論家やジャーナリスト、様々な雑誌の記者の方も、初対面の時は、私の変態ぶりにとにかく驚いて、しばらくは珍しさもあって?話に付き合って下さっていますが、今後は、徐々に面倒くさくなってしまうのではないかと危惧しています。

適度に空気を読んで、暴走しない様に今後は気を付けたいと思っています。とにもかくにも、迷惑を掛けつつ、初めての任務を半分果たしました。

選考委員になって初めて知ったのですが、“イヤー・カー”に選ばれると、その後、やはり販売店を訪れる人が増えたり、販売数が増えたりする事もあるそうです。

選考委員になる前は「賞を取るクルマは、あまり売れない」という噂を聞いた事がありますが、実際には販売に影響はあるそうです。

自分の基準でしか車を選んでこなかった私は、これまで“COTY”を気にした事などありませんでした。それだけに、そんな事を知って、身が引き締まる想いです。最終選考まで1か月弱、最後まで責任をもって任務を果たしたいと思います。

今年の“カー・オブ・ザ・イヤー”の称号は、どの車が獲得するのか!選考委員としても、1人の「クルマ好き」としても、とても楽しみです!

[ガズ―編集部]