カー・オブ・ザ・イヤー2017 …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

12月11日、今年から私が選考委員を務めるカー・オブ・ザ・イヤーの開票、表彰式が行われました。私にとって選考委員になって初めてのイヤーカーの発表ですので、かなり緊張して表彰式に臨んだのは言うまでもありません(笑)。

何も分からず現場に着いて、見よう見まねで受付をして、皆に付いて行く形で会場に入り、何となく空いている舞台に近い前方の席に座り、その時を待ちました。

式が始まると、まずはエモーショナル、イノベーション、スモールモビリティーの各部門賞が発表され、いよいよカー・オブ・ザ・イヤーの発表です。

そして、ここから発表の仕方が変わりました。部門賞までは我々選考委員が予め投票したものを集計して、その結果を淡々と発表していたのですが、イヤーカーに関しては初めての私にとって、驚きの発表方法でした!

60人いる一人一人の選考委員の配点を読み上げて、その点を積み上げていく方式で、読み上げられる順番も知らされていないので、いつ自分の番が来るか分からず常にドキドキして待っておりました。

ちなみに順番は「あいうえお」順でもなく、年齢順でもなく、選考委員歴の長さでもなかったので選考委員の間でも、「あれは何順だったのだろうか」と、ちょっとした話題になっておりました…。

選考委員は一人25点を持ち、自分が最もイヤーカーに相応しいと思うクルマに10点、残りの15点を4台に割り振ります。

私は自信を持ってスイフトに10点を付けたのですが(選考理由はCOTYのHPに書いて有りますので、興味のある方はご覧ください)、一人一人「選考委員○○さん、○○メーカーの○○に10点、○○に6点」と読み上げられるのは、テストの答案用紙を読み上げられる様な恥ずかしさと緊張を感じるものでした(笑)。

固唾をのんで待っていたら、私は13番目に読まれました。

「え?一応、キリスト教徒なのに13番目なんだ」等と、教会には2、3度しか行った事が無いくせに呟き、自分の配点が読み上げられるのをじっと聞いていました。

「安東さんは初めての投票なので、皆凄く注目してますよ!」と、私を選考委員に推薦してくれた先輩選考委員の飯田裕子さんに脅されて?いたので、余計に力が入りました(笑)。

他の選考委員に、「やっぱり素人だな」と思われていないかと、普段マイペースな私にしては珍しく人の目を意識してしまったのですが、いや、私は自動車評論家ではないので他の人と違っても構わない、と開き直っているうちに私の点数発表が終わっていました。

そして60人の選考委員、全員の投票点数が足された結果、2017年のカー・オブ・ザ・イヤーは「ボルボXC-60」に決まったのです。

会場にいた殆どの人が驚いていたのですが、一番驚いていたのがボルボのインポーターの皆さんでした。最初から、インポートカー・オブ・ザ・イヤーを狙っていたので、まさか頂点のカー・オブ・ザ・イヤーに輝くとは思っていなかった、とインポーターの皆さん全員が、仰っていました。

インポートカー・オブ・ザ・イヤーは、カー・オブ・ザ・イヤーが日本車だった場合、輸入車の中で最も票を得たクルマに与えられる賞です。

そして驚いたのは世の中の皆さんも同じ様で、しかも、どちらかというと批判的な意見が多かったのに私はショックを受けました。色々なネガティブな意見をまとめると、こんな感じでしょうか。

「多くの日本人が買えない価格帯の輸入車が、日本カー・オブ・ザ・イヤーとは何事だ」

確かに理解出来る部分もあります。

唯、日本カー・オブ・ザ・イヤーは、日本車カー・オブ・ザ・イヤーではないので、輸入車が受賞するのは全く問題無いというか、良いクルマでしたら、輸入車が獲得するのは不自然では有りません。過去には4年前にVWゴルフが受賞していて、今回は2回目となります。
そして、ゴルフの時はあまり批判の対象にならなかった価格帯の話ですが、これもクルマの値段でクラス分けしている訳ではないので、数千万円するクルマは流石に対象外になりますが、ある程度の人数の人が買えるクルマでしたら、対象外にする訳にはいきません。

そして、批判の中で多かったのが「選考委員をボルボが接待漬けにしたんだろう」というものでした。私はある意味部外者で、メーカーやインポーターと普段利害関係がある訳でもなく、また収入源も自動車業界とは関係ない所にあるので、正直に申し上げます。

結論から申し上げますと接待で点が得られるなんて事は、まずありません。

実はCOTY実行委員長の荒川氏は、一番その事を懸念しており、会合の度に「とにかく何に対しても忖度(そんたく)だけは無い様に。忖度が発生した瞬間に、この賞の存在意義が消滅する」と繰り返し仰っていました。

荒川氏は非常に実直な方で、多くの人の批判を十分知った上で、そう忠告していたのだと思います(という事は過去には、その様な事があったのかは新人の私には分かりませんが)。

接待という意味では、前にも、このコラムで書きましたが、試乗会等が昼食や夕食の時間に掛かる場合は、それぞれの食事が出る場合はありました。その内容はメーカーやインポーターによって違いますが、お弁当やちょっとした定食、時には「お汁粉」が振る舞われる、なんていう事もありましたし、また、少しお洒落なレストランでのランチ(例えばパスタとデザート等)という所もありました。

更には遠方での試乗会の場合、飛行機代と宿泊代、現地での食事が出る場合もあります。私はスケジュール的に無理なので海外試乗会には行った事はありませんが、大体、同じ内容だそうです。

これを接待と思うか必要経費を出して貰っていると取るかは、人それぞれかもしれませんが、どちらにしても、各メーカー、インポーターが殆ど同じ内容で試乗会を開いているので、仮にこれが接待と受け取られても、優劣は付けようがありません。

そして、今回イヤーカーに選ばれた「ボルボXC-60」ですが、実際に良いクルマなんです。

現在考えられる全ての安全装備や運転支援システムが完全標準装備であり、シンプル且つ新鮮なデザインでクリーンな室内、個性はしっかりとありますが下品ではない外装、運転していると本当に安心感に包まれて、疲れないシート、等々…。

日本で乗るには大き過ぎるという意見も多かったのですが、大きいという理由だけで評価を下げる程大きくは有りません(確かにコンパクトという表現は、的外れだとは思います)。

でも、実は「ボルボXC-60」に10点を付けた選考委員は9人で、それはトヨタ・カムリ、私も10点を付けたスズキ・スイフトに次いで3番目だったのですが、総得点で1位になりました。要は、好き嫌いを超えて、評価せざるを得ないクルマだったという事です。選考委員それぞれの配点をみると、やはり、好みというのは如実に表れているのが分かります。

イタリアやフランス車といったラテン系クルマ雑誌出身のジャーナリストは、やはりアルファロメオ・ジュリアに10点を付けていたり、クルマを楽に移動する為のモビリティーとして考える方はカムリを評価したり、私の様な運転マニアや、これは嬉しかった事ですが、レーシングドライバーや同出身の方はスイフトの特にスイフト・スポーツを絶賛して10点を入れる方が多かったりするのですが、その人達が、そろって2番目3番目に高い得点、6点、5点をXC―60に配点していたというのは凄い事だと素直に思いました。

ですから、今回の結果は接待による忖度や何か違う力が働いた訳ではなく、実際にボルボXC-60の総合力の勝利だと断言出来ます。スイフト・スポーツMT推しの私も納得しています(笑)。

唯、最後に一つだけ。今後は輸入車を特別扱いするのは、もう止めても良いのではないかとは思いました。何故なら、輸入車がイヤーカーに選ばれても、国産車オブザイヤーは表彰されない、というのは公平ではないですし、もはやコクサン、ガイシャと区別をする時代ではないと思うのですが、皆さんは如何でしょうか?

さて、何はともあれ、来年私は選考委員でいられるのかまだ分かりませんが、1年間、何とか任務を果たしました(真に任務を果たせたかどうかは、これを読んでくださっている皆さんや周りの方の判断かもしれません)。

この激動の時代、来年はクルマ業界にとってどんな年になるのか、あくまで、いちクルママニアとして楽しみです。

皆様、今年も1年間、駄文にお付き合い頂きまして本当に有り難うございました。

どうか良い年をお迎えください!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]