平昌オリンピックの熱戦…の裏?で! …TBS安東弘樹アナウンサー連載コラム

この原稿を書いている、今日、2月25日。
2018年、冬季オリンピック平昌大会が閉幕しました。

日本は金4個を含めメダルを合計13個獲得し、これまでの冬季オリンピックの最高獲得メダル数を更新しました(これまでは、長野五輪の10個が最高)。

私は、と言えば、3月の前、テレビ業界で言う、所謂、改編期に加え退社直前という事で、アナウンサーとしての放送業務も忙しくなり、またマネジメントデスクとしても、激務が続いている為、中々リアルタイムでテレビ観戦は出来なかったのですが、やはり、一つ一つの競技に感動し、時には勇気を貰いました。

しかし!そんな平昌五輪の開催中、一人の日本人“選手”が遠くスウェーデンで偉業を成し遂げました!しかも、金メダルです!表彰台の中央に立ったのです! その日本人の名は、「勝田貴元選手」。WRC(世界ラリー選手権)第二戦スウェーデンWRC2クラスで、見事優勝の栄冠に輝いたのです!

祖父も父もラリードライバーという勝田選手は、2015年に始まったTOYOTAの「GAZOO Racingラリーチャレンジプログラム」の活動の一環として今年もWRC2クラスにスポット参戦しており、本人としては3年目にして、正に悲願の初優勝でした(マシンはフォード・フィエスタR5)。

WRC2とはWRCの一つ下のクラスで、同等のクラス(厳密に言うと違うカテゴリーですが)で日本人が優勝したのは、実に2007年以来、11年振りの事です。

今、勝田選手は24歳。

TOYOTAの豊田章男社長も、「日本人が日本車で闘うWRCという夢に可能性を示してくれた」と祝福をしました。私も同感です。五輪でも例えば、フリースタイルスキー・モーグルでは「ID one」という日本製のスキー板が、世界を席巻しており、それを履いた日本人選手が世界の第一線で活躍していると、私はナショナリストではありませんが、やはり、ちょっと誇らしかったりするものです(笑)。

モータースポーツに於いても、ぜひ実現させたいと思いますが、WRCではかつて「日本車」は年間チャンピオンに何度も輝いているのに、まだ「日本人」はWRC(トップカテゴリー)やF1では、残念ながら年間チャンピオンになった事がありません(レース単位でも、WRCでは1勝、F1では未勝利)。

私は、今回の平昌五輪での、日本人選手の活躍に対して、モータースポーツで日本人が勝てない理由の一つが、日本に於けるモータースポーツに対する無関心があると思っています。

バブル時代には注目されたモータースポーツでしたが残念ながら、モータースポーツへの愛、というよりは一時的なファッション感覚の流行であったとしか言ません。バブルが弾けた後は、ドライバーやチームへの支援は減り、ドライバーが世界に羽ばたくのは難しくなっていきました。

確かに、今回、日本人選手が活躍したウィンタースポーツも普段はマイナースポーツと言われている競技が沢山ありましたが、何しろ日本人は五輪が好きなので、その時期だけは急にメジャースポーツに早変わりです。しかも日本人がメダルを獲ろうものなら、多くの人がルールも覚え、にわか専門家になってしまう程の影響があるのがオリンピックです。

すると、暫くは、そのスポーツ自体が活況を呈しますが熱が冷めると下火になり、また五輪がやって来るとメジャースポーツになり、というのを繰り返していきます。いつも、モータースポーツがオリンピック競技になれば、日本人ももう少し観てくれるのに、等と思ってきましたが、現実的ではないので、やはり最低限、日本人選手の活躍が必須なのでしょう。

しかも日本国内でいくら活躍しても、海外で外国人に勝って活躍する、という事に日本人は関心があるので、やはり“世界選手権”で活躍する必要があります。その点で、今回の勝田選手の優勝は非常に大きいのですが、残念ながら日本での報道は「皆無」であった、と言っても過言ではありません。

勿論、CSのスポーツ専門チャンネルやモータースポーツ系のインターネットサイトでの報道はありましたが、一般の地上波、BS等のニュースでは殆ど報道されていませんでした。オリンピック開催中というのも災い?したのかもしれません。

WRCを応援しているテレビ朝日さんでさえ、「報道ステーション」で“WRC”はオリンピックのニュースの前にスウェーデンラリーの結果を少しだけ、伝えていましたが、“WRC2”の勝田選手の優勝は伝えられませんでした。確かにトップカテゴリーではありませんが、やはり、少し寂しかったです。我がTBSは現在、モータースポーツを一切、放送していないので、人様の事は全く言ませんが…。

TBSの場合、いくら声を上げても現状、スポーツ局や編成局といった、スポーツ番組を決める部署にモータースポーツに関心のある者が一人もいないので、如何ともしがたい状況です。この事は私の退社の理由の数パーセントにはなっているかもしれません(笑)。

テレビ朝日さんは深夜とはいえWRCの応援番組もあるので、私がTBSを退社する4月以降、その番組に出演させて頂くのが、当面の目標です(笑)(且つ、売り込みみたいで申し訳ございません)。

話を戻しますが、WRCを知ってもらうには、勝田選手や、同じプログラムに参加している新井大輝選手(今回のスウェーデンラリーで8位)に、今後もっと活躍して頂いて、トップカテゴリーで優勝した暁には、テレビ朝日さんに大きく報じてもらい、日本の人達に多く知って頂くしかないかもしれません。

平昌オリンピックの閉会式を観ながら、この原稿を書いているのですが、カーリングやノルディック複合に嫉妬している自分がいます。

ノルディック複合も荻原兄弟の御二人がオリンピックやW杯でメダル争いをするまでは、恐らく日本人の殆どが知らなかった競技ですし、カーリングも、マリリンこと本橋選手を始め、今回のオリンピックで活躍した藤澤選手等スター選手が銅メダルを獲得した事で、一挙にメジャーになった事は明白です(ルールも、今回初めて理解したという人が多い様です)。

それに対して、オリンピックで活躍している日本人選手と同じ様に頑張っているラリードライバーの若い二人の事を知っている日本人が、余りに少ないのが凄く寂しいです。彼等は、基本フィンランドに住み、フィンランドで武者修行をしています。お蔭で英語も習得しています。今回も勝田選手が堂々と英語でコメントをしている姿を見て、とても頼もしく思えました。彼等もオリンピックで活躍した選手と同じ努力、結果を出し始めているのです。

どうか、皆さん、この若い二人のドライバー、いや、アスリートを応援して下さい。

このコラムを読んで下さっている皆さんは、恐らく、同意して下さると思いますので、どうか、周りに啓蒙を御願いします!そして、いつか、かつて世界選手権の総合優勝を果たしたモーグルの上村愛子さんと同じ様に、日本メーカーの“ギア”を使った日本人アスリートが世界チャンピオンになる日を待ちたいと思います。

私が後何年、生きられるか分かりませんが、生きている間に、そんな瞬間を観てみたいものです。勝田貴元選手、新井大輝選手、勿論、御自身の為が第一で良いので、日本のモータースポーツの為にも頑張って下さい!

心から応援させて頂きます!

安東 弘樹

[ガズ―編集部]

MORIZO on the Road