そうだ、サーキットへ行こう!と、なる為に …安東弘樹連載コラム

去る22日、スーパーフォーミュラ開幕戦を鈴鹿サーキットで観戦しました。これは鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドさんから依頼された取材も兼ねて、長男と二人での観戦でした。その詳細については後日、(かなり先ですが)某サイト等で記事になりますので、そちらをご覧いただくとして、その際に感じた、モータースポーツ観戦に伴う課題と、私が思う改善の提案について、お話させて頂ければと思います。

今回は取材の内容により、私としては珍しく東京から新幹線等を使って、公共の交通機関によるアクセスでの観戦でした。かなりスムーズでしたが、その詳細も後日の紹介になりますので、サーキットに着いてからの課題と提案です。

特にレース観戦初心者に、これからモータースポーツ観戦を繰り返して貰えるか否か、というお客さん目線で考えてみます。元々のファンは、現状でもこれからも応援してくれると思いますので(笑)。

3年前から生のレース観戦を始めた初心者の私が、最初に戸惑ったのは、レース全体の状況が自分の席からは非常に分かりづらいという事です。

テレビ観戦ではつぶさに分かる全体の順位や、アクシデントの種類、状況等が、サーキットでは例えばグランドスタンドの席に座っていても、テレビ中継の映像が大きなモニターに映されているものの、少なくとも私の目には細かい字幕は殆ど見えませんし、場内の実況も音が反射しているのとマシンの音で、まず聞き取れません。

せっかく、交通費を掛けて、宿泊代を払って、入場チケットも買って観戦に来ているのに、テレビ観戦より状況が分かりにくいというのは何か釈然としません。勿論、所謂「好き者」にとっては、生のエキゾーストノートを聞くだけで、ゾクゾクするでしょう!私もそちらの傾向が無くはないですが、何しろテレビ観戦をずっとしてきた者としては全体を把握出来ないのが本当にストレスになるのです。

応援しているドライバーはどのような状況なのか、ピット作業は上手くいったのか等、自分の席から見える範囲でしかリアルタイムでの情報が中々入ってきません。

タブレットやスマホで生放送の実況を聞きながら観戦している人もいますが、自分の席にいても、途中で飲みものを買ったりトイレに行ったりして移動している時も、爆音でその音は大体聞き取れません(笑)。

飲み物を買うと言えば、日本のサーキットでは野球場で見かける様なビールや軽食などの売り子さんを見かけた事が無いのですが、何か理由は有るのでしょうか?

例えば親一人子ども一人で観戦する場合、途中で親が何か買ってくる事が多いのですが、特に小さい子どもの場合、一人、席に残すのも抵抗が有り、買い物に行く度に子どもを連れて移動するのも一苦労で、いつも売り子さんがいてくれると助かるなと思っています。

話を戻しますがリアルタイム情報について、今回の取材に同行して下さった、国内外のモータースポーツを長く取材している記者兼ジャーナリストの方に訊いたら、海外ではかなり状況が違う様です。

まず一番分かりやすいのはアメリカのインディカーシリーズ等でお馴染みのオーバルコースです。あれはレースとして実は奥深いというのをレースファンは御存知だと思いますが、もう一つ、というか最大のメリットは観客が常にレースの全貌を見渡す事が出来るという事だそうです。

正に目から鱗が落ちた思いでした。観客が如何に楽しむか、世界ナンバー1のエンターテイメント先進国は、それが優先順位の常に最上位にあります。

確かにオーバルでしたら自分の席の反対側も距離は遠いながらも、常に肉眼で各マシンを追うことが出来ます。そしてコースの真ん中にも様々なアミューズメント施設を設置でき、その中からも常にレースを楽しむ事が出来ます。順位表示のタワー(リーダータワー)を殆どの場所から確認する事が出来るのもメリットの一つでしょう。

そしてヨーロッパを代表してル・マン24時間レースを擁するWEC(世界耐久選手権)では常にトップカテゴリーのマシンのオンボード映像を配信しており、自分の好きなドライバーやマシンのカメラを選んでいつでもスマホやタブレットを使ってリアルタイムで状況を確認出来るそうです。

そうすることで、飲食の為に少しの時間、席を外しても、また自分の席以外で、生でマシンの走行を観たい場所にレース中に移動しながらも、実況だけではなく、常に自分の気になるマシンの状況を目で確認しながら、レースを安心して楽しめます。

ちなみに同様のシステムは「日本GP以外」のF1でも今シーズン途中から導入されるそうです。何やら大人の事情で日本では出来ないそうですが、これは是非とも導入して欲しいと思います。

レース観戦初心者には、とにかく情報を増やすことが必要であると、身をもって痛感しました。

今回も歩き回ってコースの様々な場所に行ったのですが、長男は膝が痛いと言い出し、途中でグランドスタンドに戻ったら状況が若干変わっており、「何が有ったのかな?」と二人で実況に耳を傾けましたが、状況を把握するのに時間がかかりました。

F1も含めて日本のモータースポーツ観戦者の数は徐々に減っているのが現状です。

現在のファンに対しても様々なアピールは必要ですが、何といっても新規のファンを増やさなければ将来は絶望です。ここは大人の事情等を忘れて一丸となって事を進めて頂きたいと切に願います。

それから鈴鹿サーキットの方から伺った事ですが、F1の日本GPにおける外国人客の割合は10%程で、これは他国のGPと比較にならない程、低いそうです。例えば同じアジアのシンガポールGPは何と50%以上が外国人で、外貨獲得にもかなり貢献しているとの事。

勿論、国の経済状況の差も有って、観戦出来る日本人の割合が高いという事も有るでしょうが、日本を訪れる外国人は増えているのに、日本GPを観に来る外国人は全く増えていないそうで、これは明らかに運営方法にも問題が有りそうです。

その一つとして考えられるのは、鈴鹿サーキットでF1や日本のレースを観戦して気付くのがとにかく英語の案内の不足です。まず場内の実況や解説は日本語のみ。せっかく敷地内に遊戯施設が有っても、その案内も日本語のみですし、食事などを提供するお店の方や客席で案内をする方の多くは細かい説明が出来るほど英語を話せません。

ましてや、スーパーフォーミュラやスーパーGT等、最高峰のレースでさえ、今は海外のドライバーが多くなっているにもかかわらず、運営も場内のアナウンスも案内板も日本語が主流です。これでは外国人が安心して楽しめる訳がありません。

観戦の話からは少し逸れますが日本人ドライバーが海外で活躍しやすくする為にも、モータースポーツの世界のコミュニケーションは、カートなどの入門カテゴリーから基本的に英語で行うのはどうかと私は考えています。

場内のアナウンスも日本語と英語で常に行い、実況も日本語と英語、チーム内のコミュニケーションは全て英語。

日本人の速いドライバーが英語を話せない事で、F1を頂点とする海外のレースにステップアップ出来ないのはあまりに勿体無いですし、レースを行っているチーム、ドライバー他、様々な所で英語が溢れていたら、間違いなく日本のレースは、海外の人達にとってもっと身近になると思います。

それに日本のトップカテゴリーのレースに外国人のドライバーも多く参入し、今以上に激しいレースを観られるのではないでしょうか? 井の中の蛙でいてはいけないと思います。

更に言うと、英語が足枷にならなくなった速い日本人ドライバーが世界最高峰のレースで、もっともっと活躍すれば日本のモータースポーツ人気は上がって来るに違いありません!

副産物として、世界の中でも異常な程、英語が苦手な我々日本人にとっても良い勉強になるかもしれません(笑)。実際にDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)では基本的に全てのコミュニケーションは英語です。ドイツ語ではありません。如何でしょうか?

観客により楽しんで貰う提案をまとめますと

  1. とにかく何処にいても、いつでもレースの状況が分かるシステムの構築
  2. 客席で、飲食物を購入出来るシステムを導入
  3. レース運営を英語でする事によって、インバウンド需要も増やす。

しかし、これらは観戦に来てくれたお客さんに対する改善点です。その前に今は興味の無い人に観戦に来てもらうには、とにかく大きなメディアを使っての宣伝以外にありません。

現在、レースについてテレビでも地上波では殆ど目にする事はありません。
ネットでも殆どレースそのものの宣伝は見ません。ですから一般の人が知るスターも不在です。

ここは無理をしてでも、サーキット運営会社、自動車メーカー、自動車部品メーカー等が一丸となって、大手メディアに宣伝の大攻勢を掛けるべきではないでしょうか。それぞれの商品の宣伝の一部をレースの宣伝に当てるのは無理でしょうか?

例えばYOKOHAMAタイヤさん。せっかく、一社でのタイヤ供給ですから、スーパーフォーミュラ関係のCMをテレビの地上波で流しませんか。

スーパーGTに参戦している三メーカーさん、「そうだ、スーパーGTを観に行こう」CMを共同で流すのは如何でしょうか?それぞれのメーカードライバーをスポンサーの力で(笑)、どんどんCMやテレビ番組に出演させて、スターを作りませんか?

その後でサーキットに来て頂いた方々に対しての工夫は前述の3つを参考にして頂ければ嬉しいです。

いつか、サーキットにレースを観に行くのがプロ野球やJリーグの試合に行くのと同じ感覚で語られる日が来るのを願ってやみません。

安東 弘樹

[ガズー編集部]