指を指されるクルマ(良い意味で) …安東弘樹連載コラム
先日、MAZDAロードスターのマイナーチェンジに伴う試乗会に出席し、旧型と新型、両方のロードスター、ロードスターRF(メタルトップ)をそれぞれ試乗させて頂きました。相変わらず運転が楽しいばかりではなく、眺めているだけでワクワクするクルマです。状況が許せば本当に自分も所有したいと思いました。
そして、この試乗会の最中、とても嬉しい事がありました。横浜にあるMAZDAのR&Dセンターを拠点にした、首都高と一般道を利用したコースを私は走ったのですが、一般道を走行中、横断歩道のある交差点で歩行者が渡るのを待っていたところ、横断している女子中学生が、深紅のロードスターを真っすぐに見て、こう叫んだのです「あれヤバい!カッコイイ!」
何か、やった!という思いで、めちゃくちゃ嬉しかったのです!どうして、自分や(笑)自分の所有車がカッコイイと言われた訳ではないのに嬉しかったか…。
最近の日本のクルマで「私自身が見惚れる様なクルマが少ない」と思っている中で、このロードスターだけは、個人的に「カッコイイと心から思えるクルマ」だったので、それを女子中学生の感性で見ても、そう感じるという事が分かったのが、何とも嬉しかったのです。
まだ既成概念にとらわれていないローティーンが見ても、そう思えるクルマ。しかも超高額スポーツカーや、ハリウッドスターが乗っている様な巨大で派手なSUVではなく、200万円台で買える小型のロードスターがカッコイイというのがポイントです。
私の経験上、たまたま遭遇した人が思わず形や色を称賛してくれたクルマは、これまで全て輸入車でした。それらは、例えば自分で所有したMINIコンバーチブル。高速道路のサービスエリア等で、しょっちゅう声を掛けられ、私がクルマの所に戻ろうとしたら、誰かが写真を撮っていた事もありました。また1998年に、王様のブランチという番組で、当時発売されたばかりのニュー・ビートルでロケをした時には数十人に「カワイイ!」「欲しい」と声を掛けられました。
当時、ロケの集合場所に、ニュー・ビートルが現れた瞬間、ロケに参加していた若いリポーターの女性たちが一斉に歓声をあがたのもはっきり覚えています。口々に「外車って、やっぱりカワイイですね!」何だか複雑な気持ちで聞いていたのを覚えています。
日本メーカーの人が、この言葉を聞いたらどう思うのだろうか。というか「実際に感想や反論を訊いてみたい」、皮肉ではなく、真面目にそう思いました。そして、去年まで所有していた、黄色のフィアット500。以前もコラムで書いた事がありますが、小さいお子さんや若い女性に何度も「カワイイ!」と横断歩道からも指を指された事があります。
特に日本の場合、フェラーリやランボルギーニ等のスーパーカーに乗っていると(所有した事はありませんが)称賛の眼差しより、エンジンが発する音が大きい事もあってか眉を顰められる事のほうが多いのですが、MINI、ビートル、フィアットに掛けられる言葉には完全に好意しか感じません。
ちなみにポルシェ911をガソリンスタンドで後ろから見ていたお母さんが、思わず「わー、綺麗なクルマだよ!○○君!」と、自分の息子さんに叫んでいる光景も見た事があります。これらのクルマを見て、純粋にデザインに対して、カワイイ!という言葉が思わず出てきてしまうのでしょう。
ですから、今回、日本車に乗っていて、このような称賛を受けたのが初めてだったので特に嬉しかったのです。何か誇らしい気持ちになったのでMAZDAの技術者の方に、報告したのですが、デザイン担当ではないからか、リアクションが薄かったのは若干寂しかったです(笑)。
特に女性がデザインしたという12月24日までしか発注出来ない「キャラメル色」のルーフに明るいタン色の内装の組み合わせのロードスターは芸術品と言って良いほど美しいと私は思っています。
さあ、そこで今回、何が言いたいかと申しますと、「日本のクルマ、最低でも半分はそういうクルマにしませんか!」という事です。勿論、室内スペースを最大限に確保しなければならないクルマや実用車もありますが、それだって絶対に美しくカワイク出来ないとは言えないと思います。
例えば、かつてのVWバスだって良い例でしょう。今、見ても、誰もが思わず「カワイイ!」と声があがってしまうデザインです。
クルマは都市景観の一部だと、これまでも何度も申し上げてきましたが、それに異論がある人は、まずいないでしょう。だったら、極論、全てのクルマがカッコイイ!カワイイ!であるべきだと私は思います。勿論、好みの個人差はあると思いますが、これまで私が例に出したクルマを「醜い」と思う人は、多くはないと思います。やはり大多数の方が良い、と思うデザインはあると思います。
最近の日本車の、特に顔が、カッコイイ!というより。怖い!という物が多くなっているのが私には、どうにも賛同出来ません。各メーカーは「攻撃的なデザインの方が売れる」と仰いますが、私に言わせれば「ダサいよりは攻撃的な方が、所有して優越感が得られる」という事が真意なのだと思います。
絶対にユーザーは、本当にカッコ良くてカワイイ物が欲しいのだと断言します。クルマに興味はないが感性が柔軟で鋭い中学生、高校生(特に女子)は攻撃的な顔のミニバンを「ヤバい!カッコイイ!」とは感じないと思います。
メーカーの皆さん、一部のクルマだけではなく、自分たちが作る全てのクルマが、そのデザインを称賛されたくないですか?見ていて退屈なクルマ、また人を威圧する造形のクルマは必要でしょうか?都市景観の一部という責任感を持って、美しいクルマを作って頂きたいと切に願います。
特に販売台数が多いクルマほど、その責任は重くなりますので、各メーカーは、そのカテゴリーのクルマこそ、渾身のデザインで誰が見ても美しく愛されるものにして頂きたい! そして、2020年東京オリンピック・パラリンピックで日本を訪れた世界中の人たちが、都市や伝統的な建物だけではなく、走っている日本のクルマも「何と美しい!」と思ってくれたら、選手たちがメダルを獲るのと同じ位、誇らしい事ではないでしょうか!
オリンピック・パラリンピックは2年後なので、急には変われませんが、その後もオリ・パラをきっかけに、訪日する人は増えると思われますので、少しずつ「日本に来れば東照宮や姫路城も美しいけど、クルマも見物」というところにまで持っていきませんか?
そうなったら、私が購入するクルマも、今は輸入車が中心になってしまっていますが、日本メーカーのクルマが多くなってくると思います。実際にMAZDAロードスター・キャラメルトップ。心から欲しいと思っています。決して女子中学生や高校生に称賛されたいから、ではありませんよ(笑)。自分が心から「カッコイイ!」と思ったからです!購入出来るように仕事、頑張ります!!
また、今後は、「あれもこれも美しい!どうしよう!」と各メーカーの皆さん、私を迷わせて下さい!
安東 弘樹
[ガズー編集部]
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