クルマを楽しんでもらう方法 …安東弘樹連載コラム

先日、超高級輸入車の、あるインポーターが主催する、内覧会の司会をさせて頂きました。

詳しい内容は、お話出来ないのですが、一言で申し上げると宿泊施設等も併設の会員制プライベートサーキットの内覧会です。

会員になると、利用制限人数を超えていなければ、いつでも利用可能。冷暖房完備の専用ガレージに愛車を停め、専属のメカニックが走行の前後には整備もしてくれます。オーナーは、ひたすらサーキット走行を楽しむだけ、という施設です。

サーキットの内側には宿泊施設や温泉もある為、例えば父親がサーキット走行をしている間、家族は、その走行を見ながら温泉に浸かる事も出来ます。しかもサーキットコースは、全長もレイアウトもかなり本格的、且つチャレンジングで、コースを見た、あるレジェンドレーシングドライバーの方は「これは僕でも、油断したら、あっと言う間にすっ飛んじゃいますよ」と仰っていました。

この会社は「腕を磨いてもらえるようなコースにしたかった」と説明しています。クルマ好きには“たまらない”施設ですが、会員になるには我々庶民からすると“天文学的”と言っていい対価を支払わなければなりません(笑)。

唯、その施設を建設する理由は大いに納得出来るものでした。日本において、最近の高級スポーツカーを公道で楽しむのは完全に不可能です。下手をしたら、一発で社会的地位を失う事になるかもしれません。そうなると顧客がクルマから離れてしまう可能性もある。

そこで、思う存分、クルマのポテンシャルを発揮させられる場所を提供する、という事になるのは必然だったようです。しかも、既存のサーキットの場合、一般の人が使える日は限られており、手続きやライセンス取得等、煩雑な事も多いので、気楽には使えないのが実情です。そこでインポーター自らが、顧客を楽しませる施設を最初から造ってしまおう、というのが、この施設の成り立ちです。

ちなみに、一旦、会員になってしまえば、使用する時は大した手続きも必要ないので、正に「好きな時に、好きなだけ、クルマを全開で走らせる事が出来る」のが最大の魅力。更にサーキット走行を楽しむ本人だけではなく、その家族も楽しめる様に配慮してあるのが印象的です。実際にコースや宿泊施設の模型などを見ましたが、クルマ好きにとっては、正に楽園の様な場所になっていました。

その楽園を楽しむ権利を得たいのは山々ですが、何しろ“天文学な”財産を持っていなければならないので(恐らく、皆さんの想像を遥かに超えていると思います。少なくとも私は相当、大げさに高い金額を予想したつもりでしたが、実際は、その倍以上でした)それは「夢」のままになりそうですが、そのコンセプトは無条件で賛同出来るものです。

確かにクルマを公道で運転する、という事にはリスクが伴います。ましてや、高級スポーツカーの性能を発揮させようとしたら免許が何枚有っても足りませんし他のクルマの迷惑にもなるでしょう。この様な施設が有ったら、そこに行くまでの公道で無駄にスピードを出す気持ちになりにくく、間接的には交通安全に寄与するかもしれません。

クルマの楽しみ方が増えるという意味で、他のメーカーやインポーターにも続いて欲しいと強く思います。勿論、全く新しいサーキットや付随の施設を造るには莫大な費用が掛かりますので、これと同じ方法を真似るのは難しいというのは理解出来ます。

ですから、既存のサーキットや例えば飛行場等を上手く使って、一定の期間、サーキットを貸し切り、近隣の宿泊施設と手を組んで、ツアーという形で具現化するのも良いかもしれません。その際は「自由に使える」のがポイントになるので、簡単なレクチャーは必要でしょうが、コースを思いっきり楽しんで貰う様なカリキュラムにする事が大前提です。その様な取り組みが普及すれば、もう少し広い範囲の方々にクルマを楽しんで貰えるようになると私は確信しています。

そんな事を考えながらインターネットで検索してみたら「富士スピードウェイ」近郊にTOYOTA系の東和不動産が「モータースポーツヴィレッジ」というモータースポーツを楽しむというコンセプトの施設の建設を計画している事を知りました。

記事を読むと、自分のクルマを走らせる、という趣旨ではないようですが、そこにはホテルもできるようですので、将来的には私のイメージしている使い方も可能なのではないかと期待しています。

例えば、一日目、富士スピードウェイでスポーツ走行を思う存分、楽しんで、疲れた身体を、すぐ隣に有るホテルで休めて、次の日もまたすぐに、コースイン。あー、想像しただけで、笑顔になってしまいます(笑)。

この様なクルマを使った楽しみをメーカーやインポーターが提供しなければ、本当にクルマは単なる家電の様になる…どころではなく、危険が伴う事もあり、完全自動運転にでもならない限り、ますます、忌避される道具になってしまう様な気がしてならないのです。

確認の為にもう一度申し上げます。私が求めているのは現在も幾つかのメーカー、インポーターが開催している「ドライビングスクール」の様なものではなく、自分のクルマを思う存分、好きに走らせる事が出来る場を提供する「テンポラリー(一時的な)プライベートサーキットサービス」を、メーカー・インポーターに主催して頂きたいのです。

実現にはリスクマネジメントも必要ですし、越えなければならない壁は幾つかあるでしょうが、様々な意味で突出しているインポーターとはいえ、一つの民間企業が実現しようとしている訳ですから、他のメーカーも不可能と断言は出来ないのではないでしょうか?

TOYOTAさん、インポーターが出来るんですから世界ナンバー1の自動車メーカーが出来ない訳がありません。モータースポーツヴィレッジの次は、プライベートサーキット、やってみませんか?

そこでクルマを楽しんだ父親の背中を見て育った子は間違いなくクルマ好きになります。

将来への投資と思って、是非、お願いします!

安東 弘樹

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