中国メーカーの本気度 …安東弘樹連載コラム
皆さんは最近の中国の自動車メーカーについて、どれ位、御存知でしょうか?
クルマ関連のサイトの記事を目にした事が有る、という方は御存知かもしれませんが、その勢いは留まる所を知りません。
少し前までは、中国車についての記事に対して、一般の方のコメントは「パクリだし雨漏りしないの?」等、揶揄するような内容ばかりでしたが、最近の中国メーカーのクルマを知れば、そんな言葉は、もう出てこないかもしれません。
今日は中国メーカーの中でも、EVのSUVに特化したNIO(ニーオ)というメーカーについて紹介しながら、日本メーカーの今後の方向性についても私なりに考えていきたいと思います。
まずNIOという会社、2014年設立の若い会社で創業者は北京大学出身のウィリアム・リー氏、43歳。設立当初から、始まったばかりのフォミュラーEに参戦し、初代ドライバーズチャンピオンを輩出。お陰で資金も集まり、2017年にはEP9というEVスーパースポーツカーで、当時の内燃機関のクルマも含めたニュルブルクリンクのラップタイムの記録を更新。このクルマは1億3000万円で6台が販売されました。
そして去年、ES8というEVのSUVの販売を開始したのです。
その販売方法も新しく、ディーラーでは販売せずスマートフォンアプリで購入します。
“NIOハウス”と呼ばれるショールームを有し、そこでオプション装備等を実際に見たり、様々なサービスを受けられるのですが、購入契約はあくまで、アプリで行うのです。ですから、そこには“セールスマン”は居ないという事になります。
このES8、そのスタイリッシュな内外装と現在、考えらえる全ての運転支援及び安全装備を備え、そしてダッシュボードには様々な表情を表示し前後左右に向きを変える可愛い球体のAIモニターが鎮座し、その名前はNOMIと言います。
ドライバーは「ハイ、NOMI!」と挨拶をし、様々な指示を口頭で行うと、それに音声で応えて、指示通りにクルマを操作する訳です。ちなみに、今は中国市場専用なので、中国語にしか対応していませんが、当然、今後は各言語に対応させてくるでしょう。
何より、このクルマ、7シーターのSUVなのにも関わらず、0-100Km/h加速、4.4秒という俊足ぶりであることから、欧米や本国では“ポストテスラ”と言われています。しかも価格は中国市場で800万円弱とテスラを大きく下回っている事から中国では販売台数でテスラを超えたという報道も有ります。
そうそう、オートメーションでバッテリー自体を3分で交換できるというのも、特筆すべき事かもしれません。今年はES8の弟分、5シーターのES6も発表され、何人かの日本のジャーナリストもサーキットで試乗しています。
試乗したレーシングドライバー兼ジャーナリストの方に直接、印象を伺った所、「オールアルミボディでハンドリングも良かった」そうで、ネガティブな言葉は全く出てきませんでした。そして、そのコメントを裏付ける様に多くのジャーナリストが、「これは売れる!」と言っています。
私は世界中のジャーナリストが動画投稿サイトに上げている映像を観た上での印象しか言えませんが、確かに各国のジャーナリストが、その完成度に驚いているのが印象的でした。このNIO、開発はドイツのミュンヘンで行われ、経営陣も技術系幹部も多国籍で、NIOのサイトを見る限り、どこの国のメーカーか分かりません。デザインも含めてその無国籍感が、私には新鮮にうつりました。素直に「カッコイイ」と思えたのです。
さて、今回のタイトル「中国メーカーの本気度」というのは、NIOが本気で、これらのクルマを「テスラより売ろう」として造っている事を表しました。将来、燃料電池や他の動力源ではなく、EVがクルマの本流になっていくかは、まだ分かりませんが、少なくともヨーロッパのメーカーや中国メーカーはEVになると信じて、本気で「売れる」クルマを造りだしています。
翻って日本メーカーは、まだ悩んでいる様に見えるのです。だからこそ、どう考えても本気で売ろうとは思っていない様な燃料電池車やプラグインハイブリッドを「取り敢えず」販売している様に私には見えてしまうのです。
本気で売ろうと思っていないと疑ってしまう根拠が、まず、その価格です。NIOは最初から、プレミアムクラスのEVのみを開発し、本国での価格が日本円にすると800万円~と、明らかに購買層を絞っています。分かりやすく言うと、これまでテスラに乗っていた様な客を奪う、という明確なビジョンが見えるのです。
一方、各日本メーカーの新世代パワーユニット(EVやモーターメインのPHEV等)のクルマの価格は、500万円~700万円前後と補助金を考慮に入れても中途半端で、ユーザー像が見えないのです。
これまでのユーザーが完全に離れると困るけど、これまでのクルマと同じ価格ではコスト的に作れない。だから本気でユーザーの想定もせず、取り敢えず「こんなクルマも作れます」という意志表示の為に世に出しているとしか私には思えません。
実際に、残念ながら、それらのクルマは殆ど売れていないのが現状です。EVを本気で市販する事に関して「日本メーカーは機を見ている」と言う人もいますが、これ以上、遅れると機が熟し過ぎてしまうのではないかと危惧してしまいます。
現在、日本メーカーでEVを本腰入れて販売しているのは実質、日産だけです。しかし、その日産もEVは、一車種のみ。とても良く出来ているクルマなのですが、買うとなると、その価格は実質350万円~500万円と、平均以上の収入がなければ手が出ない様な価格ですが、現在、所謂“高級車”に乗っている様な層にはクルマとしてのスペックや装備が物足りない。そして一台当たりの利益率は恐らく、そんなに高くはないでしょう。これも私には中途半端に感じられます。
ちなみにTOYOTAは、正にNIOの本拠地で4月に行われた上海モーターショーで、「2020年」C-HRベースのEVを市販すると発表しました。このクルマが、どの位のスペックで、価格帯はどの様になるのか。恐らくNIOとは競合しないクラスになると思いますが、私の言う「中途半端な」スペックや価格にならない事を願います。それによってTOYOTAの「本気度」が分かるかもしれません。
価格で言えば「最近のクルマは高くなった」と批判されているのを承知で敢えて言いますが、全ての日本メーカーが基本的に高くなったなりに、どうしても横並びの価格帯から脱却出来ない事も私は心配です。現在でも十分、そうなっていますが、これからは益々、日本市場だけでは商売が出来なくなります。その場合、ヨーロッパも含めて世界で勝負出来るクルマを生み出していかなければなりません。
特に利益率が高い、ハイエンドのクルマを、どれ位提供出来るかが勝負になってくると私は個人的に思っています。何故なら、そんなに遠くない将来、道具としてのみクルマを使う人は間違いなく、クルマを買わなくなるでしょう。カーシェアで十分だからです。これからはシェア用のクルマを薄利多売で作るメーカーと、突出した魅力を備えた所有欲を満足させてくれるメーカーに別れると私は思っています。しかも少なくとも、暫くはEVが主流になってくる事を考えると、魅力に溢れたEVの製造は避けて通れない道になるのではないでしょうか。
今は、TOYOTAが売り上げ30兆円を達成する等、まだ企業の規模としても日本メーカーの優位性は揺るぎませんが、もし日本メーカー全体で、内燃機関からの転換に迷っているのだとしたら、今後、これまで、あまり気にしていなかった中国メーカーが国のバックアップも受け、EVで世界を席巻する日が来るかもしれません。
一クルマ好きとしては、魅力的なクルマが有るなら、それが、どこの国のメーカーのものでも構いませんが、やはり日本人のクルママニアとしては、もし欲しい日本メーカー製のクルマが皆無、という状況になったら、それは寂しいものです。
この原稿を書く前にMAZDAが内燃機関と電動化の両面で開発を続けていくとのビジョンを発表しました。最近のMAZDAのクルマのデザインや完成度に感心する事が多く、個人的に好きなブランドですので頑張って頂きたいのですが、NIOのクルマを見て実際に運転した何人かのジャーナリストの方の印象などを聞くと、そのビジョンが何だか古く感じてしまいました。
私自身は、まだまだ内燃機関の、しかもMTのクルマに乗りたいという気持ちが強いので、MTの設定を多く残してくれている「今の」MAZDAが好きなのですが「将来のビジョン」という事で、「内燃機関も突き詰めていく」と聞いて、少し心配になってしまったのです。
NIOのクルマは、細部を見れば映像でも、完成度という意味では、まだ日本の各メーカーにアドバンテージが有る様に思えます。
唯、彼らは自分の得意分野を最初から突き詰め、ユーザーも絞り、世界中の叡智を貪欲に集めて、クルマを造り始めたのです。それに、これまでの“伝統”や“プライド”という、ある意味足かせを付けた日本メーカーが、どう立ち向かっていくのか、危機感を持って応援しながら注視していきたいと思います。
安東 弘樹
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