モリゾウ選手に、ぶち抜かれました(笑)…安東弘樹連載コラム
先日、今年で30周年を迎える、『メディア対抗4時間耐久レース』というものに出場してきました!これが私の人生、初レースです。
これまで、自分が乗っていたクルマのメーカーやインポーターが主催する、「走行会」という形でサーキットを走ったことはあるのですが、「レース」というのは完全に初めてです。
どうして、出場できることになったかと申しますと、以前、取材でお世話になった、ある雑誌の編集長から声をかけていただいたのが、きっかけです。そこでまずは「レース」に出場する為に必要なA級ライセンスを取得するところから始めました。
私の初レースの記事は皆さんにモータースポーツの楽しさを伝える、という趣旨ですので、その雑誌では素人である私が、ライセンスを取るところから順を追ってレースが終わるまでを伝えてくださることになっています。
ですので、当たり前ですが、費用もすべて自分持ちで経済的負担も自分の体で感じつつのレポートになりました。ちなみに、私が、これまで持っていたサーキット走行用の道具は「走行会」に必要だったヘルメットとレーシンググローブ、それにドライビングシューズだけでしたので、道具も揃えなければなりません。
その費用も考慮した場合、モータースポーツというのは、やはりお金がかからないと言えば嘘になります。しかも持っていた道具は、調べてみるとレース出場に必要なFIA(国際自動車連盟)認定になっていないものでしたので、すべてを買い揃えなければならないことが分かりました。
涙目になっていたら、グローブ以外は、ありがたいことにお借りできることになりましたので、もし、これからモータースポーツを始めたい、という方が、いらっしゃいましたら最初は、借りたり、中古品を買うことをお勧めします。そうではないと、始める前に心が折れてしまうかもしれません(笑)。
さあ、準備も整って、いよいよレースですが、その前に、このレースの概要を説明させていただきましょう。このメディア対抗レースはMAZDAが1989年の第一回から特別協賛しているレースで競技車両のMAZDAロードスター(以前はユーノスロードスター)は、なんとMAZDAさんが全チームに貸与してくださっているものです。
完全にイコールコンディションのクルマを使って、普段、クルマや様々なレースを取材する側の雑誌やweb媒体などが、自分達の誇り?をかけて、真剣に、且つ楽しく闘い、自分たちの身体でモータースポーツの楽しさを感じて、それを読者や視聴者の皆さまに伝える、という趣旨の伝統あるレースです。
4時間耐久、という形で1チーム4人から5人がエントリーし、ドライバー交代の回数を揃えるために4人のチームは必ず一人が2回、ドライブしなければなりません。一人が約45分間、走る計算です。
今回、私は雑誌チームにドライバーとして入れていただいて、共に勝利を目指すことになりました。しかしライセンスを取る所から始める訳ですから、皆さんの足を引っ張ることは必定です。
闘いの場である、筑波サーキットは走ったことが無いので無謀と言えば無謀な挑戦なのですが、ライセンス取得までの期間、ギリギリで決まった企画ですので、練習する時間も無く、ぶっつけ本番という状況になってしまいました。
そこで、事前にシミュレーターを使って少し練習をさせて頂くことになりました。指導してくださるのは今回のチームエースである、レーシングドライバー・ジャーナリストの中谷明彦さんです。
レーシングドライバーの中でも屈指の理論派と言われる中谷さんのご指導を受けられるのはクルマ好きとしては、たまりません!実際にシミュレーターの隣に立って私の走りを見ながら指導して下さる言葉はシンプルですが説得力があり、何より分かりやすいので、自分で言うのも何ですが、どんどんタイムが良くなっていきました。
最終的には1分9秒台という夢の様なタイムがシミュレーターの時計には刻まれたのです。中谷さんは渋い声で一言「このタイムが本番で出たら優勝だよ」とおっしゃいました!すっかり舞い上がった私ですが、本番で現実の厳しさを知ることになります。
そして当日。これまで私が読んできた雑誌も含めて様々なメディアのチームが集まっていました。我々のチームに中谷さんがエントリーしている様に、参加24チームの中にも幾つかのチームにはプロのドライバーが混ざっていますので、緊張感が否応なく高まってきます。
その緊張を最大に引き上げたのが、モリゾウ選手、そう豊田章男、トヨタ自動車社長が私と同じ2人目のドライバーと分かった時です。何とMAZDA特別協賛の、このレースに“媒体”「トヨタイムズ」チームのドライバーとしてモリゾウ選手が初参戦したのです!
以前から、このレースにご興味があったというモリゾウ選手がメーカーの枠を超え、一編集者?として参加されたと聞いて、何とも言えない感慨を覚えました。素晴らしいことだと思います。かくして、私が直接対決をすることになったので、レース前にご挨拶に伺いました。
実は初めてお会いするので、緊張しつつ、「私も本日2人目のドライバーを務めさせていただきますので、何卒、よろしくお願いします!」と申し上げましたら、「煽らないで下さいよ!」と驚きのコメントが返ってきましたので、「とんでもございません!ニュルブルクリンク24時間レースにも出場している、セミプロのドライバーには言われたくありませんよ」と訳の分からない返答をしてしまいました(苦笑)。
その後、握手をさせていただいたら、いつの間にかカメラマンに囲まれていて、一斉にフラッシュが光り、改めて豊田社長の存在の大きさを感じました。当日は常にメディアに囲まれていた様です。世界最大級の自動車メーカーのトップというのは本当に大変ですね。
さあ、9月7日、16時、いよいよレーススタートです。予選は当然、中谷さんが走り6番グリッドを獲得。そして我がチームの第一ドライバーはK編集長。スタートは悪くなかったのですが、実は去年の入賞でタイム加算があり、すぐにピットに入り、それを消化します。順位は21位まで落ちましたが、そこからチーム全員で追い上げる作戦でした。
30分が過ぎた所で、いよいよ私へ「準備せよ」の号令、レーシングスーツは既に着ていたので、心拍数が上がる中、ヘルメットを被り、F1ドライバーと同じように頭部や首を守るハンス(HANS)を付けグローブをしたら、外部からの音が制限される分、自分の呼吸の音が大きく聞こえ、その緊張はピークに達します。
そしていよいよドライバー交代!K編集長からステアリングを引き継ぎました!しかしドライバー交代の練習を全くしていなかったこともあり、シートベルトが変な場所に落ちてしまい、手間取ったことでタイムロス。前途多難です。
それでもエンジンをかけ、未知の世界へ走り出しました。シミュレーターでは1分9秒台。
各チーム第一ドライバーのタイムは1分13秒~18秒位でしたので、何とかなるかと走り始めたら、後ろから来るクルマにバンバン抜かれるではないですか!あれ、こんなはずではないのに!なんで、皆、こんなに速いんだ!と、うろたえていたら、最初の1周の私のタイムが無線で知らされました。
「1分27秒!」「え?!そんなに遅い?!」「シミュレーターは何だったんだ!」
中谷さんからも無線で「もう少しタイムを上げて下さい」の指示。「頑張ります!」と答え、何とか1分22秒台まで上げましたが、そんな時、「あの」クルマが背後に迫っていたのです!そう「トヨタイムズ」号、モリゾウ選手です!お手本の様に後ろにピタッとつけ、いわゆる、スリップストリームを使い見事に私を抜き去りました。
本当にアッという間でした。しかし「世界の」豊田社長にオーバーテイクされたのも良い思い出になる、と、とても清々しい気持ちになったのです。
私が走った夕方5時前~5時半過ぎは夕日が眩しく、走りにくい部分もありましたが、その光景は美しく、夢中でクルマを操り、無線で「仲間」とやり取りをしていたら、珠玉の時間はあっという間に終わりを迎えました。「ドライバー交代です」と告げられた時はホッとしたのと同時に何とも寂しい気持ちになりました。
ピットロードの制限速度に気を付け、クルマを停め、クルマを降りたら、色々な感情が一気に溢れてきました。自分の遅さに愕然としながら、チームに申し訳ないと痛感し、でもクルマを壊さずスピンもせずに帰ってきた安堵感。でも最終的には「楽しかった!」という感情に落ち着きました。
日本において確かにモータースポーツのハードルは、残念ながら高いと言わざるを得ません。今回の私のレースデビューも雑誌社が全面的にバックアップして下さったことで実現したのであって、個人では中々アプローチできるものではありません。だからこそ心から感謝しています。
でも皆さん、レースでなくてもサーキットを走るだけでしたら、割と気軽にできるのです。信号も交差点もないコースをご自分のクルマで思いっきり走るという経験をしてみませんか?お住い近くのサーキットを検索してみて下さい。
必ず、一般の方が自分のクルマで走行するプラン等のお知らせがあるはずです。そこから何かが始まるかもしれませんよ!
あ、最後に…、私を抜いていったドライバーは、どうやらモリゾウ選手ではなかったことが、たった今、分かりました。ネットのニュースを確認した所、モリゾウ選手は結局、第一ドライバーとして走った様で、私を抜いていったドライバーは別の方だった様です。
でもスミマセン、キャッチーなので、タイトルは、このままにさせて下さい!
良いですよね!
安東 弘樹
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