第46回 東京モーターショー2019…安東弘樹連載コラム

2019年10月25日~11月4日(一般公開日)、第46回東京モーターショーが開催されました。今回は、入場者が130万人を超え、前回、第45回(2017年)の77万人を大きく上回り、大成功であった、と言っても差し支えないでしょう。

今回の特徴として、出展内容が「クルマ・バイクのワクワクドキドキ」から「未来の暮らし」「未来の街」にまで領域が広げられ、実際に展示内容もクルマを並べているだけではなく、様々な種類のアトラクションが溢れ、あるメーカーのブースでは、ほぼ2時間毎に、ミュージカルの様なショーが行われており、それは、さながらテーマパークにいると錯覚させるようなものでした。

 私は、その隣でトークショーをやっていたのですが、もし時間が被っていたら、恐らく、こちらのトークショーを聴いてくださるお客さんは、ほとんどいなかったでしょう(笑)。
それほど、そのミュージカル?の完成度は高く、且つ、楽しいもので、観ている方の人数も毎回、桁外れと言って良いものでした。

 そう、今回のモーターショーは、CMでトヨタ自動車社長兼日本自動車工業会、会長の豊田章男さんが、おっしゃっていたとおり「東京ヒューマンショー」と呼ぶにふさわしい内容により大成功したと言っても過言ではないでしょう。

 しかし…、クルママニアの私としては、少し寂しい気持ちになったのも事実。
まず海外メーカー・ブランドの出展が、あまりに少なかったことが理由の一つです。

 これは、今回に限ったことではなく、前回、前々回辺りから続いていることなのですが、今年は文字通り、数えるほどしか輸入車メーカーは出展しておらず、出展していても、面積の小さいブースに少数のクルマを並べただけ、というところがほとんどでした。これは海外のモーターショーでもいえることらしいのですが、それぞれの国にとっての国外メーカーの参入が減っているそうです。

 ただ、日本においての「輸入車」というのは、他の国のそれと意味合いが違って、やはり、国内メーカーよりクルマ自体に華やかなイメージがある為、その出展が少ないのは、とても残念です。

 もちろん、今の日本市場では、モーターショーで見たクルマを、その場で契約、といった客は減っていて、しかも輸入車のシェアは10%辺りを停滞して昨年は微増したとは言え、大きくは変わらない状況ですので、出展する意味は薄く、海外メーカーが減っているのは納得できるだけに、何も言えません。

 ですから、今回のモーターショーに関しては、短期的にクルマを買ってもらうよう訴求するのではなく、長期的に「クルマ」というより、楽しい「モビリティ」を提案するという方向性に特化したのだと思います。それゆえ、大成功に終わったのは確かでしょう。それを分かった上での愚痴ですので、何卒、御容赦下さい。

 私の個人的な理想は、それぞれのメーカーが、自分たちの市販車によって、来場者の胸を熱くさせることだと思っています。今回の内容を観ていると、現状、クルマで人を喜ばせる、また、クルマ離れを止めることはできないから、近未来に期待しよう、というメッセージすら感じてしまったのです。

 もちろん、今後、クルマを所有することは減ってくるでしょう。ただ、胸を熱くさせるクルマは、これからも「素敵な物を所有したい!」という、人間が生きる上で持ち合わせている欲望を喚起して、買ってもらえるものだと信じています。ですから、逆に言えば「所有欲を喚起しないクルマ」はシェア用になるということです。

 今回の近未来への提案は、どれもクルマを通じて便利で快適な生活を紹介する、というものが多かったのですが、「これは欲しい!」「無理をしてもこれを買いたい!」という価値を感じることがありませんでした。

 そんな中で、実は私が、これは欲しい!と思えるクルマが2台ほどあったので、紹介させていただきましょう。

 それがHONDAの“Honda e” とMAZDAの“MX-30”です。どちらも完全EV(電気自動車)で、嬉しいことに市販するのと同じ状態のクルマが展示されており、思わず「え!このまま市販するんだ!」と叫んでしまいました。

 どうして叫んだかと申し上げますと、これまで、特に日本メーカーにいえることですが、ちょっと先に市販する予定のクルマという「コンセプトカー」の段階では、思わず「おー!これはカッコいい!」と唸ってしまうデザインをまとい、パワートレインや装備も先進のものが奢られていたにも関わらず、のちに、実際に市販したクルマは、まるで別のクルマの様に「普通」になってしまうことが多かったからです。この2台には、良い意味で裏切られました。

 まず、“Honda e”ですが、とにかくエクステリアデザインが良いんです!

 日本車が苦手な「塊感」に溢れ、且つ、近未来的で、しかも誰が見ても可愛い、というか愛くるしいと思える顔をしています。実際に、クルマに興味の無い、主に女性に、このクルマの写真を見せたところ、ほとんどの人が「え!可愛い!」「これ、売ってるんですか?」という様な反応でした。

 外見だけではなく、内装も、これまでの日本メーカー製のコンパクトカーの常識を完全に覆す質感で、インパネは、完全デジタルスクリーン。両端は、カメラによるサイドミラーの映像を映すモニターになっており、恐らく、現状、市販されているすべての日本車の中で、最も先進的に見えるインターフェイスだと思います。

 MAZDAの“MX-30”の方は、クーペ風のSUVで、エクステリアの特徴としては、且つての“RX-8”を彷彿とさせる観音開きのドアで、クーペルックと利便性を両立させていることでしょうか。MAZDAのテイストを残しつつ、完全に「新しいクルマ」というアピールにも溢れている、秀逸なデザインだと思います。

 内装には「コルク」を積極的に使うなど、先進性だけではなく、アクセントで温かみも感じさせるのも、上手い手法だなと感じました。

 どちらも、欧米のEVの様に、400キロ~500キロの航続距離で0-100Km/h加速、5秒台以下、といった性能を目指すのではなく、航続距離は200キロ程度で、同加速は8秒台位、すなわち、日常で困らない程度にすることで価格も抑えているのが特徴です。

 でも、デザインや雰囲気だけでも「欲しい」と思わせるという、これまで、日本メーカーが最も苦手だった分野のクルマがEVで出てきた、というのは本当に嬉しい限りです。ただ、欧米メーカーと比べて価格を抑えた、といっても、恐らく、これまでの同クラスの日本車と比べたら、価格は上がるでしょう。

 でも、ショールームで、実車を見たら、思わず無理をしてでも契約書に押印してしまう、またその場で押印しないまでも、「いつかユーズドカーが出まわったら購入しよう」と思ってもらえるクルマだと期待しています。

 結論として、今回の東京モーターショーはマニア以外の方たちも楽しめて、気付いたら私も、本気で欲しいと思える日本のクルマに出会えたと考えれば、記憶に残る良いモーターショーであったのかもしれません。

 さぁ、再来年の次回の東京モーターショーが終わった後には、私は、どんなことを想うのか!それまでこのコラムが続いていることを祈りつつ、結びとさせていただきます。

安東 弘樹

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