『2019-2020 日本カーオブザイヤー』決定!…安東弘樹連載コラム
さる12月6日、『2019-2020日本カーオブザイヤー』が発表されました。我々、選考委員も自分の投票以外、つまり、他の選考委員の配点はわかりませんので、発表当日は緊張感をもって迎えます。
そして、今回のカーオブザイヤーはTOYOTAの“RAV4”に決まりました。
総合評価を見ると、「新時代のSUVとしてあらゆるニーズに高いレベルで対応した。3種類の4WDシステムなどのパワートレーンと最新のプラットフォームの組み合わせによる走りは快適性、楽しさともに秀逸。またラゲッジスペースは広く、使い勝手も良好。さらにDCMを全車標準装備とした上でリーズナブルな価格設定としたことも高く評価した。」
と、なっており、私は、最高点こそつけなかったものの、やはり点数はつけましたので、おおむね納得の受賞だと思います。
そしてインポートカーオブザイヤーはBMWの“3”シリーズが受賞しました。
前回、前々回と、輸入車がイヤーカーに選ばれたことで、私は、インポートカーを別に選出する意義があるのかと、疑問に思っているのですが、今回は、全体の3番目の得票があり、いつも通り、輸入車の中で最も多い得票を得たため、当該賞の受賞ということになります。
確かに良いクルマですので、納得できない訳ではありませんが、賞の意義については、今後、再考した方が良いという考えに変わりはありません。
イノベーション部門賞と、エモーショナル部門賞に関しては、かなり選考委員の個人的な感覚による部門ですので、特に私が申し上げることはないのですが、特にエモーショナル部門賞に“ラングラージープ”が選ばれたのは良い意味で驚きました。確かにエモーション、感情に訴えるという意味では納得しましたが、私の見解とは違いました(笑)。
エモーションを感じたいのですが、ドライバーシートに座った時、右ハンドル化の弊害で、左足の置き場が無く、悪路で踏ん張る時に、どうしていいか分からず、しかもディーゼルエンジンに慣れている私には、搭載されているガソリンエンジンに関して、トルクがなかなか出てこないように感じてしまい、全体的に「惜しい」というというクルマだったからです。
たしかに、比類なき悪路走破性や、“他のクルマに似ていない”無骨な内外装、“使える”装備など、これからも無くなってほしくないクルマですので、他の選考委員に評価されたのは嬉しいことです。
しかも、ジープのイメージとギャップのある?エレガントな女性広報の方曰く、「新車購入者の平均年齢が37歳!」とのことで、若年層の「クルマ離れ」が叫ばれる中、これは驚異的なデータで、心底驚きました。
しかも、500万円前後のクルマが、売れていることにさらに驚きます。現在は、かなりの納車待ちになっているということで、輸入元のFCAジャパンさんにとっても嬉しい悲鳴が続いており、これは確かに受賞に値するでしょう。
ちなみに、残価設定ローンを使っている方も多いとのことですので、やはり、経済的に厳しくても、本当に欲しいものは、買いたい!と思う方が多いということの表れだと思います。
もちろん、絶対数は多いとは言えないのですが、価格と販売台数のバランスを考えたら、日本メーカーは参考にしても良いのではないでしょうか。
さて、実はちょっと個人的に、今回の結果と私の思いが乖離していたのが、スモールモビリティ部門賞でした。私はHONDAの“N-WGN”を推したのですが、結果は日産“DAYS”と三菱“ekクロス” “ ekワゴン”が受賞したのです。
私の選考基準は、とにかく運転していて楽しい、最低でもストレスがかからないのというのが最低条件なのですが、それに該当するのが“N-WGN”でした。トランスミッションが私の嫌いなCVTである点は、他のクルマと変わらないのですが、その制御が巧みで、ターボモデルを、ステアリングに付いたパドルを駆使して運転すれば、見事にクルマの加減速をコントロールできて、ストレスなく運転できます。こんなCVTのコンパクトカーに出会えたのは初めてかもしれません。
デザインも、奇をてらうことなく、シンプルで上品。流行りの攻撃的な造形も無く、それでいて安全装備も抜かりなし。まさに、世界のどこに出しても恥ずかしくないコンパクトカーであると確信していただけに、結果には驚かされました。
しかし、軽自動車は、基本的に日本市場専用のクルマであり、利用する人の多くは、運転の楽しさよりも、利便性を重視することを考えれば、日本カーオブザイヤーのサイトで発表された受賞理由を読む限り、なるほど!とは思います。さらに、“N-WGN”の部品不具合で、生産が停止してしまったことも影響したようです。
ただ、私は滑り感の強いCVTが、日本人の「クルマ離れ・運転離れ」を加速させたという考えに、絶対の自信を持っていますので、引き続き、日本メーカーにはその点に関しての努力はお願いしていこうと思っています。
ちなみに、今回の、この部門に関して、何人かの選考委員が「選考辞退」しており、その理由の主旨は、「いくら軽自動車の枠で進歩しても、乗員の安全確保の面で限界があり、個人では所有する気にならないため、そのクルマを選考することはできない。」というものでした。これには私個人としても賛同するところがあり、今後「軽自動車」の概念も変えていかなければならないと思います。
安くて便利という、一定の正義はありますが、道に出れば、高速道路にも他のクルマと同様に乗れますし、その場合、大型トラックとも混走するわけです。最大4人が、室内の広大なスペースと引き換えにした、薄いドアの中に命を預けるわけですから、その辞退理由を読んだ時、納得せざるを得ないと思う自分がいました。
しかも、安くて便利と書きましたが、最近は200万円を超える軽自動車も珍しくなく、安くなく、装備も満載だが大きさは変わらないという、いびつなカテゴリーになっているということは、付け加えておきます。
様々な背景を持つ60人の選考委員が選ぶ、『日本カーオブザイヤー』。ネットの反響を見ると、正直、あまり肯定的な意見は見られません。
私が言うのもなんですが賛同できる意見も沢山あります(笑)。
ただ、私はともかく、選考委員によっては、とても常人が経験できることができないような、領域のクルマに関する経験値がある方も選んでいる賞ですので、「無意味」ということは無いと思います。
様々なご批判があるのは、十分に理解できますが、一年に一度、耳を傾けて頂けると、仕事の合間に、多忙の中、試乗会に参加したり、徹夜でクルマの記事を書いてきた“かい”があるというものです。
これからも、私は、「自分の操作に対して即座に素直に応じてくれて、運転自体が手段ではなく、目的になる様な楽しいクルマ。」を基準に選考委員としての義務を果たしていきたいと思います。しかし、そうすると、私は、どうしてもMTのクルマを選んでしまうということが分かりました。
前々回、イヤーカーに選出した“スイフト”や、“スイフトスポーツ”のMT車を3時間も運転し、あまりの楽しさに、これはイヤーカーだ!と確信し、前回は“カローラスポーツ”の「iMT」の出来栄えが嬉しく、ロケでさんざん乗ったクルマを、ロケ終わりにテレビ局に返す時も運転し、自分の中でイヤーカーに確定。
そして、今回はMAZDA3のスカイアクティブXエンジン搭載のMT車に乗って、やはり、そのクラッチ踏反力を含めたフィールを味わった瞬間に笑顔が止まらず、イヤーカーに決めてしまいました。どうしても、即座に思った通りに反応する、という意味で他のトランスミッションがMTに叶うことが無いのです。
しかしEV(電気自動車)は別です。アクセルだけで思い通りに反応してくれるクルマもあることが、ここ数年で分かりました。今後はどんどんEVが増えてくるでしょう。私の中でもMT対EVの異種格闘技を楽しみにしています。
どうか今後も『日本カーオブザイヤー』をよろしくお願いします!
安東 弘樹
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