思い切った判断ができない日本…安東弘樹連載コラム

コロナウィルスによる自粛ムードが日本を覆っています。私の息子二人も休校で、それぞれ中学と小学校を休んでおり毎日、家にいます。

最近は、久しぶりに息子と将棋をしたりトランプをすることが増え、また以前のようなコミュニケーションが戻ってきた、といった副産物も生まれましたが、やはり、いつになったら平常時に戻るのか、不安な部分もあります。

ただ、特に次男は学校の休みをとても前向きに?楽しんでいるようですが…(苦笑)。
そんな次男の明るさに家族4人が救われている所もあり、全ては考え方によって変わってくるものだな、なんて思ってみたりもしています。

しかし、その休校の「要請」に批判があるのも確かです。

政府が突然、休校の「要請」という、ある意味中途半端な姿勢を表明したため、学校の現場が混乱したためでしょう。

元大阪府知事の橋下徹氏は、休校が良くないのではなく、最終的な責任を回避するために「要請」という形を取ったことが致命的で、政府が全ての責任を取る形で「命令」を出し、その代わり、一人で子供を育てている方などへの補償を、明確にすれば良い。とコメントされていました。

正に、そのとおりだと思います。

実際に台湾では、感染者が一人確認された段階で「要請」ではなく一早く学校を休校にし、その後、子供へのリスクが、さほど大きい訳ではないことや、他の政策などで感染が拡散していないことが分かると、休校措置は早めに解除されました。

その後も、もし感染者が学校で一人確認された場合、そのクラスが学級閉鎖、二人以上確認された場合は学校閉鎖、と明確に決まっているため、混乱も最小限にとどめられています。日本はいまだに「要請」のままになっているせいで、独自の判断で休校していない学校は地域などの圧力を受けてしまい結局、休校にせざるを得なくなったそうです。

要は国が責任を取りたくないからか、思い切った判断ができないため、混乱を招いていると言わざるを得ません。

なぜ、私が、このGAZOOのコラムで、こんなことを書いているかと申しますと、日本では企業でも同じ事象が起きているのではないかと感じているからです。

先日、イタリアの国民車「FIAT500」の新しいモデルが発表され、私は、その内容に驚きました。

愛らしい、誰が見てもキュートなエクステリアデザインは更に洗練され、それだけでも私は心を奪われましたが、更に度肝を抜かれたのが、新500は全車「EVのキャンバストップ」だということです。

航続距離は320kmと、このカテゴリーでは長いもので、内装も質感とデザインが両立し、このクルマ自体に誰もが胸をときめかすのではないでしょうか。

クルマに全く興味の無い妻も、その映像を見せたら、「ナニコレ!めちゃくちゃ可愛い!これなら欲しくなるね!」と文字どおり叫びました(笑)。

私も同感です、しかし価格は現地でも350万円は下らないそうですが、完全EVなら仕方がありません。

本来は国民車ですから、価格は抑えるのが常識ですが、FIATは「思い切った判断」をしたのです。

クルマを取り巻く状況は大きく変わっています。クルマの価格を、限界まで下げても一般的な若者が新車を買える経済状況にある国はほとんどありません。

だったら思い切った転換をして、新車時には多少、価格を上げても良い物を造り、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人や経済的に余裕がある人に購入してもらい、ブランド力を確固たるものにして、将来ユーズドカーでも欲しいと、若い人を含めた多くの人が憧れるクルマにする、という選択をしたのだと分析できます。

何しろ先代のモデルの2倍と言っても過言ではない価格ですから。(ただ、FIATは今回のモデルは新型ではなく「新」500との表現を使っているので内燃機関のモデルチェンジ版500も示唆している)。

最近、日本メーカーからも相次いでコンパクトカーの新型が発売されました。

正直に申し上げます。どのメーカーの新型車を見ても、「おー、これは凄い」とか「手に入れたい!」というものはありません。

もちろんそれぞれ、先代と比べて良くはなっています。中には劇的と言えるものもあり、ジャーナリストの評価も上々です。ただそれは正常進化の延長上に過ぎません。「想定どおり」なんです。

こりゃ参った!という言葉は出てこないのです。それだけに先日のFIAT500の発表には「参りました。」

政府のコロナウィルス対策と比較することに対して、お叱りを受けるかもしれませんが、つくづく今の日本社会では「思い切った」戦略や既成概念を覆すような判断はできないのだと痛感している自分がいます。

なぜ、日本メーカーはCMで、その姿を見るだけで「おー、なんだこれは!」とか「うわ、カッコいい!」とか「えー!可愛い」と言わせるプロダクトを生み出さないのか。

私は技術がないわけでもセンスがないわけでもなく、それは、ひとえに「デザインも、中身も」思い切った判断をして失敗をすること、また、その責任を引き受ける覚悟が無いからだと思っています。

それは私も同じかもしれません。また良くないことに、国の中枢でも企業でも誰かが大きな挑戦をして、一度失敗をすると足を引っ張るチャンスとばかり、集中砲火を浴びせ、二度と再生ができなくなってしまうという風土も、思い切った判断をしにくくさせる原因でしょう。

実は私の知人が、某省庁の官僚として仕事を始めて数年で転職したのですが、その理由が「言われたことだけを遂行し、他には何もしないことが最大の美徳」という雰囲気に驚いたから、というものでした。

あることの効率を高めるためにシステムを変えようとすると「余計なことはしなくて良い。誰が責任を取るんだ」と大真面目な顔で言われたそうです。

日本メーカーの新型車に話を戻すと、パワーユニットもさまざまな装備も、これまでの物を良くする、という作業を感じるのですが、「いっちょ、やったるか!」という雰囲気は感じません。

それだけにFIATが羨ましくなるのです。

新しい500はブルガリやアルマーニなどの高級ブランドとのコラボモデルから始まります。国民車ですが、そのプロダクトを見た上で、名だたるブランドが「コラボしたい」と思う力が、そのクルマにはあるということです。

私自身、2年前に会社を辞めた際、周囲の人に「大丈夫か」とか「思い切ったな」などと言われ驚きました。なぜかと申しますと私自身は、そこまで「思い切った判断」をしたつもりではなかったからです。

その時に、まだまだ日本社会では既成概念というものが大勢を占めているということを実感しました。世界は凄いスピードで変革しています。

イタリアの国民車が、いち早く電気自動車になってしまいました。
本来、技術的には日本に優位性があるはずなのですが、判断が追い付かないというのが現実なのだと思います。

そんな中、以前も話しましたがHONDAのEV「HONDA e」 には期待しているのですが、こんな噂を耳にしました。日本では「リース専用車」になるのではないか…。

これからのクルマの使い方で「リース」という方法も一つの選択肢ではありますが、所有したいという希望が叶えられないのは残念です。しかも理由が、数多くは売れないかもしれないという理由でしたら尚更残念です。ここは自信を持ち「思い切って」Made in Japanの洒落たEVを日本でも売って下さい!

そして他の日本メーカーの、これからの「思いっ切り」にも期待しています!

<関連リンク>
FIAT 500 (チンクエチェント)(FIAT公式サイト)
https://www.fiat-auto.co.jp/500/

安東 弘樹

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