長距離ドライブができるまでは。…安東弘樹連載コラム

新型コロナウィルスの感染拡大防止の為の緊急事態宣言が東京や神奈川、千葉等でも解除になってから2週間程過ぎました。皆さんは、どの様な生活をされているでしょうか?私はと言えば、緊急事態宣言下とほとんど変わらない生活を続けていますが、仕事は少しずつ変わってきました。

雑誌の取材が入ったり、リモートではない生放送が始まったりしたのですが、もちろん、それぞれソーシャル・ディスタンスを保ったままで、例えば雑誌の場合は撮影の瞬間以外、生放送に関しては放送中以外は出演者もマスクをしながらの業務となっています。

とは言え仕事以外では不要不急の外出はできるだけ避け、県境をまたいでの移動もやめているのは言うまでもありません。

しかし、私自身、このGAZOO.comサイト以外で「クルマを楽しむ」、というテーマのコラムを2つほど担当しており、これまでは何とか「番外編」の様な形で乗り越えてきましたが、いよいよネタに困っております。

そんな折、私の長男はクルマに乗るのが大好きなのにも関わらず2か月以上、クルマに乗っていなかった事に気付きました。そこで緊急事態宣言解除から半月経った、先日、県内で数時間で戻って来られる「林道」を走りに行かないかと長男を誘ってみました。

私の長男は非常に真面目な男で、これまでは「気分転換にクルマでコンビニに行こうか」と誘っても、できるだけ店内にいる人が少ない方がよいから、お父さん一人で行ってきて」というタイプで、文字通り不要不急の外出は絶対にしてこなかったのです。

ところが緊急事態宣言が解除になり、毎日日課のようにしている新たな感染者数を確認したところ、我々の住む千葉県の新たな感染者数が前日は0だったこと等から、「人に会わないで済むなら行こうかな」という返事が返ってきました。

私は以前から「林道」を走るのが好きでしたが、結婚してからコロナ禍前まで、妻が徹底してインドア派であること等から、しばらく「林道」から離れていたので、最近、久しぶりに走ってみたくなっていたのです。

また、コラムに書くこともなくなっていたので何とか「クルマで楽しむ」方法を模索し、県境をまたがず、また途中で食事もせず、可能であればトイレにも寄らず帰宅できる範囲にある林道を探していました。

そして緊急事態宣言が解除された後、自分一人で、久しぶりに千葉県内にある、天津線という林道を走りに行き、自宅から往復4時間半で、文字通り、完全に人と会うことなく往復できることを確認していたのです。ですから今回は、クルマに飢えていた長男を誘ってみることにしました。

次男は途中でトイレに行かないというのは難しいですし、そもそもクルマに対して、あまり興味がありません(笑)ので妻と留守番です。かくして、長男と二人で県内プチ林道ツーリングとなりました。

自宅から林道入り口までの距離は60キロ弱で高速道路を含めて1時間半。そこから、いよいよ林道ドライブです。

緑におおわれた道を、ゆっくりと走っていると、途中「歴史を感じる」隧道(トンネル)があったり、舗装されているとは言え、苔におおわれている道があったり、ちょっとした冒険気分です。

道幅はほとんどの場所で離合が不可能なほど細く、道のりの半分以上はガードレールもありません。長男も、その様子に「スゲー!こんな自然が千葉にはいっぱい残っているんだね」と興奮している様子でした。

今回走った林道の途中にはお寺があって、隣接している展望台からは太平洋まで見通せる壮大な眺望も拝めます。なぜ、「拝める」という表現を使ったかと申しますと、その展望台には大きな仏様が鎮座しているので、景色と同時に文字通り「拝む」ことも可能ということで、その様な言葉になりました(笑)。

我々以外は誰もいないということもあって、現実離れした幻想的な雰囲気に包まれた空間を長男と共有することになったのです。

そこから残りの林道区間を走破し国道に戻ったときには、まだ時間に余裕があったため、鉄道ファンである長男のリクエストで、小湊鉄道のある駅に寄ることにしました。小湊鉄道は鉄道好きで知らない人はいないという有名なローカル私鉄線で、停車駅の多くは無人駅です。

その中でも長男が気になっていたのが「海士有木(あまありき)駅」という無人駅らしく、帰宅までの道程の途中と言ってよい場所でもあったので、そのリクエストに応えることにしました。

到着すると小さなロータリーと自転車置き場以外は何もないのですが駅舎は正に歴史を感じる佇まいで、国の登録有形文化財にも登録されているだけあって、それだけでも見応えがあります。

残念ながら、我々が行った日は瓦屋根の修復のための足場に駅舎全体がおおわれていて、その佇まいを全体で感じる事は叶わなかったのですが、構内に入って細部をみても、その歴史を十分に垣間見ることができました。

また少し草むしたホームや、ひらがなで書かれた駅名標等も、それが、そのまま博物館に展示されていてもおかしくない様な佇まいで、心から来てよかったと感じ、思わず長男に「連れてきてくれてありがとう」とお礼を言ってしまいました。

100%、クルママニアの私も、こういうときは鉄道ファンの気持ちを深く理解できます。

この駅を使っていた、もしくは使っている人々の想いに“思い”を寄せながら、駅を後にしました。ちなみに、我々の滞在時、その駅に利用者は一人もおらず、足場で作業していたと思われる方が二人、いらっしゃいましたが、挨拶をするだけで当然2メートル以上離れたまま、場所をはなれましたので、お互いに感染のリスクはなかったと言えるでしょう。

そこからは40分程で自宅に到着。今回のドライブ時間は5時間で、途中、ほとんど他者と接触することはありませんでしたが、二人とも十分な満足感を得ることができました。

帰宅した後、長男は「イヤー、やっぱり海士有木駅はすごかったなー。正にタイムスリップだったよ」と嬉しそうに母親に話しているのを見て私も嬉しかったのは言うまでもありません。

ちょっと寂しかったのは林道のドライブよりも駅の方が印象に残った様で、やはり長男の身体は“鉄分”の方が濃いことを確認できてしまったことでしょうか。

でも延期になっているF1の開幕は、今か今かと楽しみにしていますので、クルマも嫌いではないのが、せめてもの救いです(笑)。

今回は確かにドライブを楽しみましたが私としては、やはり長距離を走って泊りがけで行くクルマ旅への渇望感があるのも否めません。いつになったら以前の様に気兼ねなく旅ができる様になるのか。人類の中で、その答えを知る人は一人も存在しません。そう考えると、気が遠くなりそうですが、“明けない夜は無い”と信じて待ちましょう。

クルマに限らず全ての旅好きにとって本当に今はつらい状況ですが、皆さん、完全終息までは、最小限の人数で身近な場所で何とか楽しく過ごしていこうではありませんか!

写真、テキスト 安東 弘樹

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