EVに対しての温度差…安東弘樹連載コラム

10月に「いよいよEV時代の到来か」というコラムを書かせていただいたのですが、改めて日本の現状とヨーロッパとの違い、また問題点も含めて今回もEVについて書かせていただきます。

改めて日本のEV普及率は最新のデータで0.7%(2020年7月時点)で、欧米諸国、特にヨーロッパ諸国と比べると遥かに少ないのが現状です。

ちなみに主要欧州国のEVの普及率を観てみましょう。
これは2020年9月のデータでプラグインハイブリッドやハイブリッド等、エンジンが付いているものは含みません。純粋な電気自動車のみの数字です。
実は10月に書いたコラムでもEVの普及率を紹介したのですが大幅に更新された国もありますので改めて載せてみます。

  • イギリス         6.7%
  • フランス         5.9%
  • ドイツ             8.0%
  • スウェーデン  12.7%
  • オランダ         17.7%
  • ノルウェー      61.5%

ざっと、このような状況です。確かに日本とは明らかに違う数字が並び、これだけ見ると完全に日本は遅れているように見えます。

前にも紹介しましたが、特にノルウェーは既に半数以上が電気自動車になっており、最新の新車販売におけるEVの割合は更に高くなっているようです。しかも発電する方法が環境に高負荷ではEVが増えても存在意義が消滅してしまいますが、ノルウェーの場合、国内の電力供給の95%が水力発電によって賄われているため、EVが普及する土壌が整っているとも言えるでしょう。

更にEVを購入する際のインセンティブも、しっかりと担保されており、日本に住んでいると、にわかには信じられないほど、クルマの電動化が進んでいるのです。

実際に、恐らくノルウェー在住だと思われる方のYouTube動画を観ると、その方が走っているクルマの対向車がほとんどEVである状況が、良く分かります。

その動画には対向車のEVのクルマに、その車種の字幕が付けられており、面白いようにEVが続くのです。

トランプ大統領は環境問題など存在しない、と主張していましたが、地球環境の悪化は温室効果ガスが原因で、やはり進んでいると考えるのが主流であり恐らく間違いないでしょう。だとするとやはりクルマは変わっていかなければなりません。

ただ、EVの普及にはさまざまな意見があるのも確かです。日本のように火力発電が主流で、自然エネルギーによる発電が、進んでいない国や、経済を優先せざるを得ない途上国はどうするのか、また現状、製造に必要な場合が多いレアアースの供給は大丈夫なのか?俯瞰で見た場合にEVだけが地球環境を救う唯一のモビリティと断言はできません。

しかも現状、まだまだ高価なEVが多いのも事実で、そのことも日本でのEV普及を阻む一つの要因かもしれません。

日本の国自体のGDP(国内総生産。会社で言えば経常利益と言ったところでしょうか)は御存知アメリカ、中国に次いで第三位ですが、一人当たりのGDP(厳密に言えば違いますが極めて分かりやすく表すと、社員の給料)は2018年時点で、26位と、この数字だけをみて判断するのは乱暴ですが、国は潤っているが個人は潤っていない、と言っても大間違いではないでしょう。

日本メーカーの涙ぐましい?努力によって、日本で最も売れている軽自動車やコンパクトカーの価格は、かなり抑えられていると私は思っています。

最近のクルマは高すぎる、という声を、よく聞きますが、今や軽自動車でも自動ブレーキやアクティブクルーズコントロール(前車追従、停止、再加速も含む)等が求められることを考えれば、割高と言うのは個人的には抵抗があるのです。

しかし年々、一人当たりのGDPが下がっている状況で、相対的にクルマの価格が高くなっていると言えるのもまた確かなので、これは本当に景気が良くなることを祈るほかありません。

何が申し上げたいかと言いますと、まだ日本ではEVの価格は、多くの人が現実的に購入できる状態ではないということです。
前述しましたが、ノルウェーではインセンティブが大きく、(例えば日本の消費税にあたる付加価値税25%の免除に加えて補助金も)更に一人当たりのGDPが同じく2018年現在で世界第五位と、実質的に日本より豊かであることも関係しているかもしれません。

更に、ノルウェー国民に言わせると、「まだまだ少ない」というEV用の充電器の数も日本とは比べものにならず、最近のノルウェー オスロ空港に降り立った外国人が、まず驚くのが駐車場にズラッと並んだEV用の充電器だと言われていますので、その数を理解していただけるはずです。

そして決定的に違うのが国の姿勢でしょう。

ヨーロッパ各国やアメリカのカリフォルニア州等は、本気で内燃機関のクルマの存在を許さない姿勢を強めています。

ノルウェーは2025年までに、イギリスも最近、ジョンソン首相が2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止、2035年からはハイブリッドやプラグインハイブリッドも禁止すると発表しました。

とにかくヨーロッパでの動きが早く、日本では国から、このような動きは、まだ感じられません。

長い目で地球環境のことを考えた場合、できるだけ早い時期に完全EV化するのが良いのか、時期尚早なのか、それとも水素等、他にも方法があるのかは私には分かりません。

ですが日本でのEVの普及が、さまざまな解決策のバランスを考えても遅すぎるのは個人的には問題だと思っています。

充電設備の数だけではなく、その出力もいつの間にか日本は完全にガラパゴス化しており、ここ数年で見てもいかにインフラが進んでいないか、が分かります。まさに鶏か卵か、と言える状況で、設備の不備が普及の妨げになっているのか普及しないから設備が整わないのか、両方なのか。とにかく先進国の中で突出してモビリティの電動化が遅れているのは確かです。

更に私が思うのが環境問題だけでなく、EVの加速感やドライバビリティの気持ち良さ、更に、その先進性を多くの日本人が、まだ経験したことが無いのが残念でなりません。

多くの日本のクルマに搭載されているトランスミッション「CVT」で、普段、運転している人ほど、EVの加速に驚き、その運転感覚に「病みつき」になるに違いありません。

そして電気自動車の欠点として挙げられる航続距離ですが、欧米と比べても一日の走行距離が極めて少ない日本での使い方で問題になることは、まず無いでしょう。

私のように一気に九州まで行きたい、というドライバーにはEVは、まだ向いていないかもしれませんが、ほとんどの日本のユーザーは一日に20~30キロ位の走行ですから、少なくとも一軒家に住み、自宅で充電できる方はスタンドまで行かなくて良い分、利便性は高いと思われます。しかも電気代が安い夜間での充電が多くなると思われますのでランニングコストもエンジン車と比べて低くなるのは間違いありません。都市部では集合住宅に住んでいる方も多いので、最新のマンションではない限り充電設備が無い所がほとんどでしょうが、電気さえ駐車場に来ていれば後付けで小型の充電器を引くことが可能な場合もあるようです。また災害時に困る、という方も居ますが、実はほとんどの災害時、ガソリンスタンドよりも電気の方が早く復旧しており、そこも自然災害が多い日本に向いていると言えるかもしれません。

こうしてみると日本のクルマユーザーがいかにEVに親和性があるかが分かりますが、後はやはりイニシャルコストと言われる、購入時の経済的負担をいかに抑えられるか、という所が、ポイントになってくるでしょう。

実質的に日本で購入できるEVで最も価格が低いのが日産リーフの330万円位で、まだ高価に見えますが、日本でも減税や補助金(自治体による)が有りますので、ランニングコストも考えれば、例えば最初の車検が来る3年で3万キロほど走った場合は、同クラスのエンジン車と比べて、ほとんど変わらないという試算もあります。

何度も申し上げていますが私個人としては死ぬまで、少なくとも1台はエンジンのMT車に乗り続けるつもりです。でもそれ以外のクルマはEVにしようか本気で考えているのです。自分の操作に、かなり忠実に反応してくれるEVの感覚も好きだからです。

皆さんも地球環境のことも念頭に入れつつ、単に新しい種類のクルマを試してみるつもりで、最新のEVを一度、運転してみませんか?

新しい世界が見えるかもしれませんよ!

安東 弘樹

コラムトップ