さまざまな誤解…安東弘樹連載コラム

2030年代までに「ガソリン車」の生産を禁止し、PHEVやEV(電気自動車)にシフトする、という政府の見解が発表されてから、さまざまなインターネットなどでの意見を拝見したのですが、驚くほど、EVに対しての反対意見が多い、という状況に驚きました。

多くの意見は「EVは環境によいわけではない」、「災害に弱い」、「航続距離が短い」、などの他、最近多い大雪での立ち往生が発生したニュース記事に対しても「立ち往生したときに電気自動車だったらと思うとゾッとする」と言ったものです。

必ずしも間違っているわけではありませんが、やはり多くの方がEVを十分に理解しているわけではないことを実感します。

ちなみに、それは長期間に渡る日本におけるディーゼルエンジンへの誤解にも似ていると私は感じました。

最近でこそ「クリーンディーゼル」という言葉が少しずつ浸透し始めましたが、数年前までは、多くの人が「ディーゼルはガソリンよりうるさく、黒煙をはき、燃費が悪く、CO2をばら撒き、何もいいところがない。トラックは燃料が安いからディーゼルエンジンを使っているだけ」くらいの認識を持ち、私がディーゼルエンジンの方が燃費がよく、その結果CO2の排出も少なくなる場合が多い、と言うと信じられないという顔をされたものです。

しかも、長距離を高速道路を使って制限速度で走り続ける場面ではガソリンハイブリッドエンジンよりも燃費がよくなることがある、と説明すると、それこそにわかには信じてもらえませんでした。

そんなときのために、私は長距離走行時の自分のディーゼルエンジンのクルマの燃費計をスマホのカメラに記録しています。1Lあたり20キロ以上走るのは普通で、4時間、淡々と高速道路を巡行したときには22キロ/Lを超えたこともありました。

効率という意味ではガソリンエンジンよりディーゼルエンジンの方が高い、というのは少しでもクルマや内燃機関に詳しい方なら知っていますが、ほとんどのユーザーは、考えたこともないでしょう。

その「クリーンディーゼル」も大気への影響が少なくないことから、最近では「クリーン」という称号も危うくなってきましたが、日本では、ようやく「どうやらディーゼルも悪くないらしい」という認識が広まってきた、という状態で、どうもクルマに関しての最新情報の浸透が遅いようです。いわゆる、「ガラパゴス」状態と言ってよいでしょう。

前にも述べましたが、日本では90年代くらいから都市部を中心に本格的にクルマ離れが進み、クルマの内燃機関の基本的な知識がない方がほとんどになってしまいました。

少なくとも首都圏に住む、私の会社員時代の同僚やスタッフの中でエンジンの基本構造を知っている人はほとんどいませんでした。トランスミッションにいたっては役割どころか名前すら知らない、という状況です。教習所では習っているはずなのですが、興味がないので、すぐに忘れてしまうのでしょう。
以前も書いたことがありますが、クルマがなくても生活に困ることのない首都圏に住んでいることから、「一生、クルマの運転はしなくてもいい」「お酒が飲めないので、むしろしたくない」という人がほとんどでした…。

クルマそのものに興味がないので、電気自動車は何やら航続距離とやらが短く、高価らしい。じゃあ、ますます必要ない、ということになってしまうのでしょう。

また軽自動車天国の地方でも「高いEVだけになったら困る」という意見が多いのが特徴です。

普段は、あまりこのコラムにご意見をいただくことはないのですが、以前EVについて書いたときは「EV化だけが環境問題を完全に解決する手段ではないのですが」という但し書きを付けたにもかかわらず、「EVを薦めるような意見は書かないで欲しい」など、多くの反対のご指摘をいただきました。

ですので、前述したさまざまなEVへの反対意見に対して、私なりに調べた見解を述べたいと思います。

まず「環境によいとは言えない」という意見ですが、確かに「現在の」日本の電力供給の主流は火力発電であり、今、全ての個人モビリティーがEVになったら、少なくとも温室効果ガスが減るどころか増える可能性もあるでしょう。

ただ、クルマが出す「排気ガス」、これは二酸化炭素はもちろん、一酸化炭素、炭化水素、粒子状物質、硫黄酸化物など、どれも「有害」物質であり、よい話ではないですが、排気ガスをクルマに引き込めば、人間の命を奪うことは、ドラマや映画などで知っている方も多いでしょう。

そんな有害物質を世界中のクルマが歴史上、ずっと排出してきたわけです。私は趣味でクルマに乗ってきましたので、ある意味、重罪と言えます…。

もちろん、今すぐ、内燃機関のクルマを全廃するのは現実的ではありませんが、クルマそのものから排出される、これらの物質を減らすことは無意味ではないと思います。

しかもEV化が進む北欧、特にノルウェーでは以前も紹介しましたが電力生産の95%が水力発電によるものですから、EV化は必然でしょう。ちなみにノルウェーは、天然ガスは世界2位、原油は世界7位の輸出国で、自国の発電は水力で行い、豊富な化石燃料資源は輸出している…、何とも言えない皮肉を感じてしまいますね。

そして日本は「今は」火力発電が圧倒的主流ですが、これ自体を本来は変えるべきだという論調にならないのが私には不自然に感じます。これまでのように一か所で電気をつくり、それを送電線で送る、というのに執着すれば、現実的に火力から脱却するのは難しいですが、それぞれの地域の特色を生かした再生可能エネルギーを利用した発電に切り替えるという発想も必要だと感じているのですが、いかがでしょうか。

要はバランスです。急に火力発電をなくしたり、急にEVだけにするのは、それこそ無理だというものです。ただ「EVは日本では必要ない」、と決めてしまっては、そこで止まってしまいます。これからの電力供給方法も含めて議論は必要になってきます。

「災害に弱い」この意見も非常に多かったのですが、以前も申し上げた通り、災害時、電気そのものの復旧は最も早く、急速充電でなければ、EVへの充電は可能な場合が想定され、可燃性の燃料を運ぶリスクと比べても一概にEVが災害に弱いとは言えないばかりか、充電残量がある程度あれば、クルマによっては、電気を供給することが可能ですので、むしろ災害時にはEVが生活を守る場面すら出てきそうです。

またそれに関連して、大雪などで立ち往生してしまった場合は内燃機関のクルマの場合、アイドリングをしなければ、暖房なども使えません。その場合、マフラーなどが雪に覆われてしまった場合、それこそ命に関わるような事態にもなりかねません。

EVは排気ガスを出すことはなく、しかも家に給電する場合、これは日産リーフの場合ですが、満充電ならば一般家庭、一戸の2、3日分の電気を供給できるそうです。EVの電気は走行することに最もエネルギーを使いますから、停まっている状態で車内の暖房を維持するくらいでしたら相当、電気は持つそうです。寒さの程度にもよるそうですが、排気ガスのリスクに備え、定期的にマフラーの周りの雪かきをしなければならないよりは、EVの方が安心して車内で待機できる可能性もあります。

また、航続距離に関しては何度も述べていますが、日本のドライバーの一日の平均走行距離は20キロ~30キロで、遠出といっても100キロくらいの方が多いですから、都市部のマンション住まいの方でなければ自宅で充電できるのはむしろ便利なのではないでしょうか。

あとは価格ですが、これは台数が増えれば増えるほど、当然、下がってきますし、事実現状主流であるリチウムイオン電池の価格もどんどん下がっているようです。実際に今、世界で最も売れているEVは、テスラを販売台数で抜いた中国メーカーの50万円以下のクルマです。航続距離は実質100キロ以下ですが、それくらいで十分というユーザーが多い上に小さいガソリンエンジンのクルマより加速が気持ちよいという理由から、中国では爆発的に売れています。日本では50万円のEVはしばらく販売されそうにはありませんが、少なくとも軽自動車に近い価格のEVを近い内に買えるようになるのは夢物語ではないと言えるでしょう。もちろん、充電インフラの拡充や、使い終わったあとの電池をどうするのか、など、課題がたくさんあるのも確かです。

何度も申し上げますが、私は内燃機関のクルマが大好きで、EV万歳!ということを主張している訳ではありません!

ですが、まだまだ日本においてはEVだけではなくクルマのさまざまなことに対して誤解している方が多い、というのを感じてしまいます。

このコラムを読んでくださっている方にとっては、もしかしたら釈迦に説法かもしれませんが、私の周りの方々は少なくとも、クルマに関して漠然としたイメージを持っている方が圧倒的多数ですので、こんなことを今回、書かせていただきました。

バランスと将来のビジョンを共に考えていきませんか!

安東 弘樹

 

<GAZOO編集部より>
自動車業界は、自動車排出ガス規制(環境問題)に対応するためにさまざまな浄化技術の開発、そして自動車製造過程においても環境に配慮した取り組みが行われています。
また将来に向けて、自工会は2050年にカーボンニュートラルを目指す方針に貢献するため、全力でチャレンジすることを決定しています。
人とクルマと自然が共生する社会の実現に向け、持続可能な社会について考えていただくきっかけになれば幸いです。

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