高級セダンのベンチマークに乗りました…安東弘樹連載コラム

先日、インポーター主催のメルセデスベンツSクラスのジャーナリスト向け試乗会に参加してきました。

試乗会と言ってもコロナ禍です。

指定された都内のホテルの地下駐車場に向かうとスタッフが待っており、キーを受け取って、軽く操作、機能説明を受け、そのまま駐車場に停めてあるSクラスに乗り込み、指定の行先である箱根のホテルのロビーで写真撮影をして、また都内のホテルに戻る、という試乗コースです。今回の試乗会で「対面」したのは3人だけ。
インポーターの感染予防対策は徹底しており、キーだけでなくクルマの内部は試乗者が交代する度に毎回、消毒され、換気も充分にしているとのことでした。

コースに関しては指定の時間に都内ホテルの駐車場にクルマを返せば、何処に行って何処を走っても問題はありませんが、私は指定のコースであれば高速道路も自動車専用道路もワインディングロードも市街地道路も全て網羅されると思い、推奨通りの行程を選びました。

実際に箱根の市街地では、コロナ禍とはいえ、平日にもかかわらず、想像以上の観光客数で賑わっており、感染拡大防止の観点から考えると心配になるほどでしたが。観光業の方々にとっては歓迎されることですので、複雑な心境で、その光景を見ながら走っていると、人が多いだけにクルマも多く、ガッツリ渋滞に遭遇しました。その状況下でのさまざまなチェックもできたという意味では良かった?と言えるかもしれません。

私が乗ったのはS400dという6気筒ディーゼルのショートボディモデル(ショートと言っても5メートル18センチありますが)。3L、6気筒のディーゼルエンジンは330PS、700Nmという高スペックを持ち、言うまでもありませんが、アイドリング時から、5千回転位まで回しても嫌な振動はありませんし少なくとも車内にいる限り、ディーゼルエンジンだということに気付かないほど静かです。

東名高速道路走行中、妙に遅いトラックを追い越した際も、700Nmというスペックが示す通り、軽くアクセルを踏み足すだけでシフトダウンもせずに加速しストレスなくトラックを抜かすことができました。

そして各種、運転支援システムですが、基本的に自動運転への移行段階で申し上げると、レベル2の支援で、車線維持機能付きアダプティブクルーズコントロールに自動車線変更機能も付帯されているもので、ステアリングからは手を離さないのが前提のシステムです。
このシステムもいろいろと試してみましたが、これまでのメルセデスのクルマでスムーズにできていた自動車線変更がなかなか作動せずに困惑しました。

ウィンカーレバーを操作するとクルマが後方の状況も検知してステアリングを自動で動かし車線変更をするはずが、根本的に「作動状態」にならないのです。

後で担当者に確認したところ、これまでより「車線変更可否」の判断が厳しくなり、従来の同メーカーのクルマが、車線変更可能と判断して自動車線変更を始める状況でも、特に後方のクルマに対する検知が厳しくなり、これから移動する車線に存在するクルマまでの距離が相当、離れていないと機能しない、とのことでした。確かに当日の東名高速道路は交通量が少なくはありませんでしたが、その状況で、これまでのメルセデスのクルマでは安全に車線変更ができていただけに、これでは、使える状況が極めて減ってしまうと感じたのが正直なところです。

アダプティブクルーズコントロールが相変わらずスムーズで洗練されているだけに勿体ないと思いました。

室内に関してですが、先進性を感じる大きなモニターは想像よりも見やすく、視認性にも優れますが、ナビ画面の縮尺を変えたいときなど、走行中のスワイプやピンチ作業には慣れが必要で、これは他のクルマにも言えますが、走行中はしない方が無難でしょう。

ナビは道の規模や交差点までの距離に応じて自動的に縮尺が変わるタイプなので、走行中に操作する必要性は、あまりないかもしれませんが、私は自分で、全てを決めたい性格ですので、縮尺を変えたい場面が頻繁にあり、ちょっとイラつきました(笑)。

前席のシートは電動で細かく調整できるのは当然として、ヒーター、ベンチレーター、マッサージまで付いていて申し分ないのですが、後席はヒーターは付いているものの、ポジションの調整はできずベンチレーターはナシ。オプション込みで1500万円を超えるクルマとしては、ちょっと残念と言わざるをえません。

中でも驚いたのが空調で、前席は左右別に温度調整ができるのですが、後席独自の調整はできず、クルマ全体でいわゆる、2ゾーンの調整しかできないことです。

私が家族で乗るクルマは必ず、前席と後席で温度を別に調整できるクルマを選びます。何故なら、そうでないと私と主に後ろに乗る妻の温度感覚が違うため、同じ空間で、どちらかが不快になるからです。私はいわゆる暑がりで妻は冷え性。つまり、このSクラスは我が家では買えません(もちろん経済的にも買えませんが)。くどいようですが1500万円を出しても、この機能がないというのには正直、愕然としました。

メルセデスの名誉のために申し上げますが、ヨーロッパのモデルではオプションで、4ゾーンエアコンを装備することができるそうです。当然、インポーターの担当者に日本でも、是非、そうして欲しいと懇願したところ、「ロングボディーのモデルでしたら、後席も左右別々に調整できますので、そちらをどうぞ!」と苦笑いで言われてしまいました(こちらも苦笑)。

しかし、そのためだけに日本では持て余すロングボディーを選ぶのもはばかられますので、ますます購入は遠のきました(再び、買えませんが)。

ただ、日本ではサイズを持て余すと申し上げましたが、全車に標準装備される4輪操舵の効果は抜群で、5メートルを超える全長にも関わらず最小回転半径は5.5メートルとメルセデス最小モデルのAクラスと同等になっており、それは運転していても実際に感じることができました。要は時速60キロ未満ではステアリングの操作と逆相位に後輪が操舵され細かく回れるのです。これは非常に有難い機能でした。

細かいところで付け加えると、AR技術を駆使して、ナビを設定しているときに右左折する場面で、実際の交差点などの映像に被せて矢印が表示される機能や最近のメルセデスに標準で装備される「Hi!メルセデス」で始める音声コマンド機能などもありますが、特に私は便利には感じませんでした。

これは世界全メーカーに言えることですが、巷のスマートスピーカーやスマホの音声コマンドが、驚愕するほど正確に認識してくれるのに対し、クルマでの音声コマンドが、いつになっても上手くいかないのは何故なのでしょうか?

専門家に訊くと「クルマの中ではさまざまな音が邪魔をする」、とか、「高速で移動しているとさまざまな電波や電磁波などを拾ってしまうので」などという答えが返ってくるのですが、クルマを停めて静かな状態でコマンドをしても、結果はいつも同じです。

今回も「どこどこに行きたい」というナビ設定は、かなり正確に認識してくれましたが、最後まで、ラジオを切ることができませんでした。

「ラジオを切って!」「ラジオを切ってください」「ラジオ・オフ」とさまざまな言葉を使って試しましたが、とうとう「彼女」はラジオを切ってくれませんでした。ラジオを切る物理スイッチもなかったので仕方がなく、ボリュームを最小にしましたが、とうとう到着までラジオは付いたまま…、確かにラジオが付いていない状態から「FM○○を聴きたい」と言ってラジオを付けたため、オフにできないということはないと思うので、試乗後に担当者に訊いたところ、「ラジオを消すことはできるはずでコマンドの言葉もそれで認識するはずなのですが確認します」ということでした。アナウンサー歴30年。私の滑舌が悪いのが原因でしたら、謝るしかありませんが…。

何かネガティブなことばかり書いてしまいましたが、クルマとして素晴らしかったのは言うまでもありません。東京―箱根間、エンジンのスムーズさと力強さ、室内の静粛性、秀逸なシート。音声コマンドのことは除いて疲労はほとんど感じませんでした。

そして、このパワーにして燃費は13Km/lとディーゼルエンジンの面目躍如といったところでしょうか。当然ですが燃料は軽油でランニングコストを抑えられるだけでなく、温室効果ガスの排出も少なくなるでしょう。

「高級車やスーパーカーのユーザーは燃費なんか気にしない」などと言う人がいまだにいますが、最近のこういったクルマのユーザーもコストはともかく環境負荷について考える人は増えており、環境性能は今や、高級車やスーパーカーにも求められるようになってきています。そういった意味でも、少なくともディーゼルモデルに関しては合格点を付けられると感じました。

しかし試乗を通して考えたのは「高級車」というものの定義や存在意義です。以前は高級車にしか奢られなかった機能が今や、「普通の」クルマにも装備されるようになってきました。サイズも大きくすればユーザーが喜ぶという時代ではありません。ある程度の年齢になっても趣味を楽しむ人が増え、SUVなどの人気が高まる上、EVや自動運転にユーザーの関心が高まっているのも現実です。

「高級車」の存在自体が羨望の対象になるという時代ではなくなった現在において、どんな価値を「フラッグシップモデル」に付帯すれば良いのか。クルマの大変革に向けての過渡期、全ての既存の自動車メーカーが同じように悩んでいるのではないでしょうか。

「そういえばレクサスLSに試乗したときも同じことを考えたな」、と呟いて私は帰路についたのでした。

皆さんは、どう思われますか?

安東 弘樹

コラムトップ

注目キーワード

#86#BRZ#GRヤリス